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10年越しの働き方改革 丸井創業家社長の挑戦

青井浩 丸井グループ社長(下)

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NIKKEI STYLE

2008年から働き方改革に取り組み、働きやすい環境を制度のみならず「企業文化」として浸透させた丸井グループ。青井浩社長は「残業削減をきっかけに、会社で指示された仕事だけが仕事ではないと、仕事観が転換していくべきだ」と語ります。前編の「『残業とおじさんは嫌い』が改革の原点 青井丸井社長」に引き続き詳しくお話を伺いました。

営業時間短縮でも、売り上げは変わらず

白河桃子さん(以下、敬称略) 働き方改革を始められた2008年は、業績が悪かった時期だというお話ですが、そういう時に残業時間を削減しようとすると、「売り上げがますます落ちてしまったらどうするんだ」という批判もありそうですね。

青井浩社長(以下、敬称略) 僕が社長に就任してから2~3年目の時期に、営業時間を短縮したことがありました。すると、営業の役員から「ただでさえ売り上げが下がっているのに、営業時間を減らしたり、休業日を増やしたりするようなことはやめてほしい」という大反発があったんです。

それで結局、やむなく営業時間を元に戻したのですが、この試みで興味深いことが分かりました。

営業時間を1~2時間短くしたとき、来店客数は確かに数%減少しましたが、買い上げ率(来客100人のうち買い物をした割合)は以前より上昇したのです。結果的に、売り上げはほとんど変わりませんでした。

白河 それは、閉店時間を早めたのでしょうか。それとも、開店時間を遅らせたのでしょうか。

青井 閉店時間を早めたのです。すると、お客様はちゃんと営業時間内に来てくださいました。つまり、サービス濃度が上がったというわけです。

1時間位だったら、営業時間を短くしても業績にはそれほど関係はないんです。休業日を増やしたとしても、その前後の日にお客様が多く来てくださいますからね。

白河 前回のお話にもありましたが、店舗に関しては、シフトパターンを増やすことによって、社員の満足度が上がっているということでしょうか。

青井 上がっていると思います。僕は、残業時間の削減というのは、すごく大きな意味を持っていると考えているんです。というのは、会社で働くみんなの労働観や仕事観にも大きな影響を与えていると思うからです。

残業時間の削減を進めていく上で、最も強い抵抗を示したのは、実は中堅社員たちでした。残業代が実質給与に組み込まれているのと同じ状況になっていましたから、「給与が減るのだけは勘弁してほしい」と。

調整加算給を出したりするような特別なことはせず、少しずつ意識改革に取り組みました。最終的に残業時間を削減させるまで10年かかりました。

彼らの仕事観は、「自分の時間を切り売りする」「自分の時間を会社に買ってもらう」というものだったと思うんです。残業時間を削減していくと、それが「時間を切り売りすることが仕事ではないんだ」という意識に変わってきます。

それがだんだん定着していくと、「より自主的に、より創造的に価値をつくっていくことが仕事なんだ」と思うようになるのです。

白河さんはよくご存じだと思いますが、日本の労働者たちの7割が、自分の仕事や会社が嫌いという調査結果(注:米ギャラップの「従業員のエンゲージメント(仕事への熱意度)調査」)がありましたよね。これは、先進国の中でも高い数値です。米国でも50%くらいは自分の仕事や会社が嫌いな人で占められるそうですが、日本はそれよりはるかに高い。僕は、これは非常に悲しいことだと思うんですよね。

白河 おっしゃるとおり、それは衝撃的な調査結果でした。

残業時間の削減は「風穴」に

青井 これは、会社の責任ではなく、もっと社会的な問題で、仕事観に原因があると思うんです。

白河 「この仕事は、我慢してやるべき」とか、「仕事は滅私奉公だ」という仕事観がまん延していることが原因だと思います。仕事は我慢することで成果につながるという、価値観を持つ人が多い。しかし我慢比べが良いことなのでしょうか?

青井 もっと主体的に仕事に取り組むことによって、価値創造していくことが仕事の喜びであり、楽しみであり、働きがいに通じていくのではないかと思うんです。このように転換していくときに、風穴となるのが「残業時間の削減」だと僕は考えています。

白河 私もずっとそう思っていました。よく、「残業をやめろと言っても、もっと仕事をしたい人はどうすればいいのか」と言われることが多いんです。その場合、「仕事をしたい人は、もっと働けばいいのではないか」という話もありますが、私は今は仕事観の転換期なので、「長時間労働をしたい人はしてもいい」と言い切ってしまうのは、ちょっと早いと考えているんです。

今すぐ自由で柔軟な働き方ができるということになっても、まだまだ、多くの人は働き過ぎてしまうでしょう。やはり、長時間労働の方が「仕事をやった感」があるからです。

残業時間の削減は、単なるコスト削減ではなく、「仕事観の転換期」だということを理解している企業は、本腰を入れて進めているという印象があります。

青井 白河さんの話を聞いていて思ったのは、今は「会社で指示された仕事だけが仕事ではない」というふうに仕事観が転換していくべき時期なのではないかということです。

例えば、家族や友人と過ごすとか、どこかに学びに行くとか、資格を取るために勉強するとか、交流会に参加するとか。そういったことも、実は広い意味での仕事に含まれるのではないかと思うのです。

白河 あらゆる活動は、最終的には仕事にも生かされるんですよね。

青井 そうなんですよね。例えば子育てや家事も、確実に仕事に役立つと思いますし、友達や異業種の人との交流だって、大いに仕事に返ってきます。そういった活動をやらずに仕事だけやっている人たちと、会社での業務を手際よく終わらせて様々な活動をやっている人たち、双方の生産性や創造性を比較すると、間違いなく後者の方が上だと思うんですよね。

今の時代は、不連続な成長が求められています。高い生産性や能力を生み出すために、社外での活動はすごく大事なのではないかと思います。

白河 まさにおっしゃる通りだと思います。特に、御社は若い人たちのトレンドをリードするような仕事をされていますので、会社で言われた仕事だけをしていてはダメですよね。

この連載の初回で、キリンの「なりキリンママ」というプロジェクトを取材しました(記事はこちら)。営業の若い女性たちが、ママになったつもりで定時退社して仕事をするという試みを1カ月間続けたのです。結果的に、残業時間を大幅に削減した上、売り上げはほとんど変わりませんでした。

彼女たちの話で印象的だったのは、「早く帰宅して買い物をした時、スーパーで自社の商品が店頭に並んでいるところを見たのは初めてだった」ということです。自社の商品なのに、それを買っているお客さんの姿を見たことがない。普段は残業で帰宅時間が遅く、コアタイムのスーパーで買い物をすることができなかったからです。

青井 今の話は、すごく面白いと思いました。残業時間が長くて、肉体的にも精神的にもヘトヘトになっていると、悪い仕事観が染み付き、仕事の能率も下がるという悪循環に陥ってしまいます。

そうなると、仕事が終わってからの自由な時間には、ストレス解消のために時間やお金を使ってしまう。マイナスを埋め合わせようとする反作用が起こるんです。これは悲しい話だと思います。

逆に、今のお話のように、精神的にも肉体的にも少し余裕があると、オフの時間にもいい意味で仕事のことを考えられるようになります。

仕事のオンとオフがパチンと切り替わるのではなくて、仕事の意識も残りながら、プライベートの時間を過ごす。例えば、仕事の意識を持ちながら買い物すると、お客様の気持ちを考えることができますよね。すごく重要なことですが、良い意味での余裕がなければ、このような精神状態にはなりません。

最終的に目指すのは「共創」文化

白河 私は働き方改革について取材を重ねてきましたが、非常に興味深いと思ったのは、10年間取り組むと社内のDNAが確実に変わってくるということです。

青井 社内の文化を変えていくには、どうしても時間が必要です。一気に変えていこうとしないで、ある程度、5年なり10年なり覚悟してやる。そういうことが、非常に大事だと思います。

白河 今、多くの企業では働き方改革が急速に進められていて、1~2年で成果を出そうとしています。目に見える数字だけでなく、10年かけてトップがメッセージを発し続けていけば、企業文化は着実に変わっていくのですね。

しかしあと5年社長をやれば終わり、自分のいる間だけ平穏ならOK……というトップはなかなか思いきった改革には着手できませんね。

青井 そうですね。創業家の出身の経営者はそういう立場とは違うので。ただ、我々は10年かけたかったわけではありません。白河さんのおっしゃる通り、文化を変えるためには結果的に10年くらいかかるということだと思います。

残業削減やダイバーシティーの推進は、確かに企業文化を変える一つの契機でした。ただ、当社の場合、最終的に目指していたのは「共創」の文化なのです。すべてのステークホルダー、なかでもとりわけお客様とともに価値をつくり出していくことが、イノベーションの創出につながると考えています。

「共創」ができる文化。つまり、自分と異なる人の意見を受け入れ合えるような文化をつくることが最終目的でした。そこにたどり着くための糸口の一つが、残業削減であり、ダイバーシティーだったのです。

あとがき:「残業」と「おじさん」が業績が回復しない原因だった!という啓示を受けたとおっしゃったのがとても印象的でした。つまり同質性の強い集団で、いくら長時間議論しても「解」は得られないということです。

「労働時間」を変えることは、「労働観」を変え、「社内のカルチャー」を変えるための一つのツールにすぎない。働き方改革それ自体は目的ではない。それがこの丸井の10年を通じてよく分かるインタビューでした。

そして、働き方改革における「経営者の覚悟」について。「この5年を乗り切れば勇退」と思っている社長には、あえて働き方改革をする覚悟がない場合が多いと感じています。しかし、オーナー社長というのは、なかなかそうはいきません。創業家の青井社長だからこその覚悟も印象的でした。

現場から始まった「労働時間の削減」であっても、「ぜったいに残業は評価しない」という社長の強い決意がなければ、うまくいきません。また若手や女性のいない会議は「帰ってしまう」という。ここまで徹底したからこそ、お客様のためにむしろ長時間労働は美徳という業界にあって、改革を断行できたのだと思います。

白河桃子
 少子化ジャーナリスト・作家。相模女子大客員教授。内閣官房「働き方改革実現会議」有識者議員。東京生まれ、慶応義塾大学卒。著書に「『婚活』時代」(共著)、「妊活バイブル」(共著)、「『産む』と『働く』の教科書」(共著)など。「仕事、結婚、出産、学生のためのライフプラン講座」を大学等で行っている。最新刊は「御社の働き方改革、ここが間違ってます!残業削減で伸びるすごい会社」(PHP新書)。

(ライター 森脇早絵)

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