ゲイシャコーヒーの「ウオッシュド」 スペイン語で「lavado」は「washed」の意味

店員さんは「ウオッシュドとハニープロセスの違い」を解説してくれたが、私の心はもう決まっている。

「両方、お願い!」

すると、「どっちを先にする?」との質問。「朝だからシャキッとしたい場合はウオッシュドを先に飲んだほうがいいし、逆にまったりしたい気分ならハニープロセスだし……」といろいろ提案してくれる。コーヒーの好みやら、今の気分などについても聞かれる。

先にハニープロセスを飲むことにすると、次に「どういう淹れ方にするか」と聞かれる。ここでは10種類のドリッパーのなかからお好みのものでコーヒーを淹れてくれるという。ここでまた10種類の説明が始まる。

コーヒーの淹れ方もいろいろ

お店は日本のコーヒーチェーンやコンビニのようにカウンターで注文してお金を払うシステムだったが、日本のようにすぐにコーヒーにはありつけない。

一つ見たことのないドリッパーがあり、「これは『バンドーラ』といって、コスタリカの伝統的なコーヒーメーカー。香りを閉じ込めるつくりになっているのと、陶器なので保温性に優れているのが特徴だよ」とのこと。コスタリカに来たらやっぱりコスタリカ式でしょうと、こちらを選択。

最初にコーヒー粉に十分にお湯を含ませ蒸らし、少しづつお湯を加える。300ccを約3分半かけながら淹れる

と、結局コーヒーを注文するのに15分近く。しかし、ここからがまた長い。

注文を受けてから豆をひき、バンドーラは一度お湯を入れておいて温めてから使う。時計とスケールで時間とお湯の分量をきっちり計りながら、丁寧にハンドドリップで淹れてくれた。

そして、いよいよ「ハニープロセス」のゲイシャの登場。確かにコーヒー独特の香ばしい香りのなかにほんのりはちみつのような甘い香りがする。口にそっと含むとほどよい酸味と苦みと甘みとコクが広がった。何かが突出することのない非常にバランスのいい、おいしいコーヒーであった。

ついに来た! ゲイシャコーヒー! これはハニープロセス

ただ、いわれているようなジャスミンやパッションフルーツ香は残念ながら感じられず。

続いてウォッシュドのゲイシャを飲むと、こちらも甲乙つけがたく美味。いや、正直に告白しよう、自分は「違いのわかる女」ではなかったことを。いわれてみれば「ハニープロセス」のほうが甘い香りが強いような気がするが、ブラインドテストされたら当てる自信はない。

味にそれほど違いがないなら水のコストもかかって環境負荷のかかる水洗式じゃなくて、世の中のコーヒー、みんなハニープロセスでいいんじゃないの? と思ったが、もともと品質のよいゲイシャ種だから両方ともおいしくいただけるのかもしれない。

こちらはウオッシュドのゲイシャ どちらも1杯約350円

ふと店内を見渡せば、一番乗りだった私以外にも客がやってきていた。店員がいろいろと説明してくれるのは私がこの国のコーヒー事情を知らない外国人だからだと思っていたが、地元民と思われる客もみな店員と会話をしながらメニューを決めたり、コーヒーを淹れるところをノンビリと眺めたりしていた。

そうか、会話を楽しむこと、コーヒーが出てくるまでの時間を楽しむことも含めて「コーヒーを飲む」ということなんだな、と思った。エスプレッソマシーンで待たされずにコーヒーが出てくるのも便利だけど、こういう時間を持つのも悪くない。と、コスタリカのコーヒーからこんなことを学んだ。

また、今回の旅では自分が飲んでいるコーヒーが生産国の環境を汚しているかもしれないことも学んだ(水洗式でも汚濁物質を処理してから排水している企業もある)。コーヒーを買うとき、不当な搾取をせずに公平な価格で取引をしている「フェアトレード」商品をなるべく選ぶようにしていたが、今後はコーヒー豆の精製方法にもちょっと気に留めてみようかなと思った。

さて、ゲイシャコーヒーは日本のコーヒー専門店やネットショップでも入手可能である。コーヒーは同じ種でも生まれ育った地の気候や土壌の特徴、ワインでいうところの「テロワール」がそれぞれにあるといわれる。各国、さまざまな農園のゲイシャを是非試してみていただきたい。

(ライター 柏木珠希)