「素材」むき出し新ゴアテックス はっ水性の劣化防ぐ
近年、「ゴアテックス」や「ポーラテック ネオシェル」といった防水透湿素材が進化している。薄くて軽いだけでなく、着心地も向上。数年前からトレイルランニング(以下、トレラン)やファストパッキング(軽量装備での登山など)の人気が高まり、これまで以上に防水性や透湿性を求める声に応えているからだ。そんななか、アウトドア業界で防水透湿素材の進化をけん引してきたゴアが満を持して新テクノロジーを投入した。その名も「ゴアテックス シェイクドライ プロダクトテクノロジー」(以下、ゴアテックス シェイクドライ)だ。
ゴアテックス シェイクドライとはどんなテクノロジーなのか。そのメリットは何か。日本でゴアテックスを展開する日本ゴアおよび、いち早くこの素材を採用したアウトドアブランド、ザ・ノース・フェイス(ノースフェイス)に話を聞いた。
表地を使わないという新発想
アウトドアで採用される防水透湿素材は1枚の布に見えるが、実は表地、ゴアテックス メンブレン、裏地などいくつかの生地を貼り合わせてできている。これは防水性や透湿性、防風性に加え、強度やハリといったウエアに不可欠な要素を盛り込むためだ。
ゴアテックス シェイクドライの最大の特徴は、表地がないこと。これまで表地と裏地でサンドイッチしていたメンブレンの表側をむき出しにし、裏地だけをラミネートした2層構造なのだ。強度などの点で進化したメンブレンがこれを可能にしたという。
日本ゴアの市塚夏子氏は「メンブレンをむき出しにすることで、永続的なはっ水性を生み出せる」と話す。ゴアテックスのメンブレンはもともと防水・透湿・防風というアウトドアに欠かせない三大機能を兼ね備えているが、ウエアとしての強度を保つためには表地が欠かせなかった。表地は水を吸うと重くなってしまうので、はっ水加工が必要不可欠なのだが、はっ水加工は汚れや、ケアを怠ったりすることで機能が低下してしまうことがある。水分を含むようになれば重くもなり、水の膜で透湿が妨げられることもあるので、蒸れの原因にもなりえる。
そこではっ水性の持続を優先するため、水を吸わないメンブレンを表に出したというわけだ。しかも表地がないぶん、これまでのゴアテックス製品より透湿性が向上し、軽くなっているという。
はっ水性の持続を優先し、透湿性や軽量性が上がった半面、強度には課題が生じる。表地がないぶん、摩擦や引っかきにはどうしても弱く、使い方によっては破れてしまう可能性があるからだ。この点については「バックパックを背負わないロードランニングや、ロードサイクリングでの使用を目的として製品化した」と市塚氏。例えば登山ではバックパックを背負うことで摩擦が起き生地に負担がかかるが、バックパックを背負わない、つまり生地の強度を必要としないアクティビティーなら問題ないわけだ。特にロードランニングやロードサイクリングのウエアは汗抜けの速さも重要なので、ゴアテックス シェイクドライは素材としてピッタリだろう。
服の中にバックパックを背負う
ゴアテックス シェイクドライはどんなウエアに採用されていくのだろうか。
ノースフェイスは同テクノロジーをいち早く採用し、トレランユーザー向けのジャケット「HYPERAIR GTX HOODIE(ハイパーエア GTX フーディ)」を開発。防水機能はもちろん、走ることで水を落とすはっ水性や、軽さに注目してのことだ。
もちろんメンブレンが露出することによって生じる耐摩耗強度が落ちるというデメリットはある。そこでバックパックの上からジャケットを羽織えるデザインにした。
これはノースフェイスのブランドを日本で展開するゴールドウインの後藤太志氏自身の経験も生かされている。自身もトレランを楽しむ後藤氏は、トレランのレースに参加するなかでバックパックの上からジャケットを羽織るランナーが多いことに気が付いたという。そのほうがバックパックをぬらさずに済むし、脱ぎ着もラクになるからだ。
さらに「背負わないときにもカッコよく着られるようにしたかった」という後藤氏は、社内のパタンナーと共にパターンを追求。バックパックを背負っても背負わなくてもシルエットが美しいジャケットを完成させた。
こだわったのは立体的なパターンだけではない。トレランのランナーがより快適に使えるように、「胸元にはバックパックのフロントポケットにアクセスするためのジッパーを配置し、補給食などを簡単に取り出せてスムーズな補給ができるようにした」と後藤氏。ゴアテックス シェイクドライの素材を生かすだけでなく、バックパックの上から羽織るというジャケットの形状が不便さを感じさせないように配慮したわけだ。
筆者もゴアテックス シェイクドライを採用したサンプル品を着用して山道や舗装道路を走ってみたが、ふわっと軽い着心地の良さといい、蒸れ感のなさといい、これまでの防水透湿素材の概念を大きく覆す手応えを感じた。
メンブレンは赤や青などの色をムラなく染めるのが難しく、品質の安定供給という側面から現在はブラックのみだが、今後の研究によってはカラーバリエーションが増えることも考えられるという。「メンブレンの表面に特殊なコーティングを施し、ジャケットの上からバックパックを背負える素材の開発をゴアと共同で進めている」と後藤氏。ゴアテックス シェイクドライの可能性はまだまだ広がりそうだ。
(ライター 山畑理絵)
[日経トレンディネット 2018年2月1日付の記事を再構成]
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