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平昌冬季五輪開幕 ICTと気配りの韓流おもてなし

2018/2/8 日本経済新聞 朝刊

手袋に内蔵されたICチップで支払いができる(韓国・ソウル)=上間孝司撮影

 平昌冬季五輪の開幕はいよいよ明日。世界各国から訪れる観光客をもてなそうと、現地は万全の準備を整えている。氷点下の寒さのなか、手袋をかざすだけで支払いを済ませられるサービスが登場。韓国料理を洋風にアレンジして提供する店もある。こうした多彩なおもてなしは、2020年の東京大会でも参考になるはずだ。

 零下10度。いてつくような店外から飛び込んできた客は、手袋を外すのももどかしい様子だ。「温かいコーヒーを一杯ください」。支払いは、手袋をはめたまま端末にかざすだけ。ピピッという音とともに、瞬く間に終わった。

 クレジットカードの米ビザが平昌五輪を舞台に取り組んでいるのが、「ウエアラブルペイメントデバイス」だ。手袋、ステッカー、ピンバッジの3種類があり、それぞれ内蔵のICチップにお金がチャージしてある。利用のたびに自動的に引かれていく仕組みだ。

 日本のSuica(スイカ)などの前払いカードが、もっと手軽になったものといえる。「寒さで手がかじかめば、カードを取り出すのも現金を取り出すのも大変なことに変わらない。簡単に支払いを済ませられる、一種の『おもてなし』だ」とビザ側は説明する。

 ビザは五輪の最高位スポンサーとして、これまでの大会でも同様の決済サービスを試みてきた。2016年のリオデジャネイロでは、指輪の形をした装置を選手に配布。海辺でも使いやすいと喜ばれたという。

 ビザの狙いは同社独自の非接触の決済端末を世界中に広げることにある。従来のように客がカードを財布から取り出し、店が読み取り装置に挿入する手法は手間がかかる。五輪という大きなイベントをテコに、次世代決済の標準の座を得ようというわけだ。

スマホでの決済サービス「支付宝(アリペイ)」を導入する店が増えている(韓国・ソウル)=上間孝司撮影

 その韓国で今、急速に勢力を増している決済サービスがある。中国のネット通販大手のアリババ集団の関連会社、アント・フィナンシャルが提供する「支付宝(アリペイ)」だ。

 利用者は自分のスマートフォン(スマホ)にQRコードを表示させ、店舗に読み取ってもらうだけ。韓国に進出して約3年しかたたないのに、使える店は空港や百貨店など4万店以上。特にソウルの繁華街では9割が利用可能という。

 五輪では中国からも多くの観光客が訪れるため、アリペイはおもてなしに欠かせない。アントが昨年、韓国の決済サービス大手の「カカオペイ」に出資して使える店を相互開放したことも寄与したとみられる。アントは「グローバル展開していくうえで韓国は重要な市場」と言い切る。

 韓国では、クレジットカードや銀行口座から代金を直接引き落とすデビットカードが普及している。キャッシュレス比率は日本の2割に対し9割にのぼる。それほど便利でも、より簡易な支払いを求めるニーズは強く、若者の間ではスマホ決済が広がりつつある。

 五輪のおもてなしの舞台裏では、次のキャッシュレス時代を見据えた激しい戦いが繰り広げられている。それは20年の東京大会にも引き継がれ、日本の現金社会を大きく変える可能性がある。

伝統料理を洋風アレンジ「韓国料理の魅力に気付いて」

 「ゲストの寝室の掃除は毎日がいいですか」「必要ありません。プライバシーを重んじる方の場合、お節介だと受け取られる可能性があります」。韓国北東部の海岸沿いにある江陵(カンヌン)。1月30日、市役所では海外からのホームステイを受け入れる数十人の地元住民の質問に、経験者が一つ一つ答えた。

ホームステイについての説明会に参加した市民(韓国・江陵)

 フィギュアスケートなどの氷上競技の会場がある江陵市が、海外の観客と市民との交流を目的にホームステイを企画した。英語圏や中国語圏、日本などから約220人が利用。1泊5万ウォン(約5千円)で韓国料理か洋風の朝食が付く。

 日本語版の五輪ガイドブック、お手玉など計13品のお土産も用意され、旅人を手厚く迎える。ホストファミリーのキム・イッキさん(45)は日本から受け入れる予定で「快適に過ごせるように気配りしたい」と話した。

 海外の観客らを食事でもてなす動きもある。江陵市のレストラン「POMODORO」は2017年12月から、地元の定番料理「カムジャオンシミ」をイタリア料理「ニョッキ」風に仕立てたメニューを提供。本来はジャガイモをすりつぶした団子をいり粉ダシで煮込むが、ホワイトソースに絡めた。1人前で1万4千ウォン(約1400円)だ。

韓国の伝統料理を洋風にアレンジした料理

 韓国政府の関係機関「韓食振興院」もプルコギなど10種類の韓国の代表料理をアレンジしたレシピを作成。考案した料理研究家のユン・スクジャさん(69)は「韓国料理の魅力に気付いてくれたら」と期待を寄せる。

 市街地から競技会場や選手村など会場周辺に向かえば、様々な最新技術が目に飛び込んでくる。その一つが人工知能(AI)を搭載したヒト型の案内ロボットで、交通案内や誘導役を担う。

 「トイレはどこ」と日本語で話しかければ、モニター画面に最寄りのトイレの位置が表示される。AIで英語、日本語、中国語を識別。タッチパネルで競技日程や会場までの交通アクセスも調べられる。期間中に予想される約130万人の来場者のスムーズな移動に一役買う。

 仮想現実(VR)技術でスノーボードなどを疑似体験するコーナーも登場。こうした最新技術を使った「おもてなし」は、大会組織委員会が標榜する「ICT(情報通信技術)五輪」を支える強力な“助っ人”だ。

 北朝鮮選手団の参加を巡る動きなど政治的な側面にも注目が集まる中、幕を開ける冬のスポーツの祭典。平昌のメインスタジアムでは開会式のリハーサルが行われ、約2万人の大会ボランティアも道案内するなど、接遇から最新技術まで「韓流おもてなし」の準備がほぼ整った。通訳ボランティアの韓国外語大4年のペク・ジュヨファンさん(25)は「競技を楽しんでもらえるようにサポートしたい」。江陵市の幹部は「五輪は世界に韓国の魅力を伝える絶好の機会。温かいおもてなしで、韓国ファンを一人でも増やしたい」と意気込む。

(水戸部友美、桜田優樹、西城彰子)

[日本経済新聞朝刊2018年2月8日付]

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