手が届く時計、高揚感刻む 機能性とプレミアム感両立
社会人になったら1本は手元に置きたいプレミアム感のある腕時計。100万円を超える高額品は憧れだが、実際に手は届きにくいもの。最近は50万円以下の価格帯でデザインや機能性に優れた腕時計が増え、腕時計に実用性とプレミアム感を求める20~40代のビジネスパーソンの支持を集めている。
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「長く使える実用性の高い時計を探しに来た」。1月下旬、スウォッチグループ傘下の時計メーカーTISSOT(ティソ)の大丸東京店(東京・千代田)で、仕事帰りに寄った東京都内在住の会社員、三浦孝友さん(24)は販売員にそう伝えた。
インターネットで下調べをしてきた三浦さんのお目当ては自動巻き式機械時計の「ティソ バラード オートマティック」。2017年3月発売の人気シリーズだ。
ティソ バラード オートマティックには様々な機能が備わるが、特に磁気に強いのが特徴だ。電池を使わない自動巻きや手巻きの機械式腕時計は磁気に弱く、誤差が生じやすい。同商品では「ひげゼンマイ」にシリコンを採用して耐磁性を高めた。
機械式で耐磁、80時間も駆動
もう1つの特徴は長時間駆動だ。手巻き式は約60時間駆動する時計が多いが、この時計は約80時間駆動する。加えて、スイスの公式クロノメーター検査協会が精度の高さを保証している。三浦さんは「ここまで機能が高いとは驚いた」と顔をほころばせる。
耐磁性や長時間駆動を備えたモデルは、オメガなど高級腕時計では既に存在する。しかしティソ バラード オートマティックシリーズは、10万2600円からという手ごろな価格で購入できる。
手が届く価格帯で機能性やプレミアム感に優れた時計を出すのは海外メーカーだけではない。セイコーウオッチは17年5月、高価格帯の独自ブランドのグランドセイコー(GS)から「グランドセイコー SBGA299」を売り出した。独自機構「スプリングドライブ」を搭載し、誤差がほとんど出ないという。
電池を使わずクオーツ精度
スプリングドライブは、ぜんまい駆動の機械式と、水晶振動子やICで制御する電池駆動のクオーツ式の長所を併せ持ったハイブリッド型ムーブメントだ。電池を使わずクオーツ並みの制御を実現しているのが特徴である。
17年には中低価格帯も扱う「セイコー」ブランドからGSを独立させ、高額商品の充実を狙った。グランドセイコー SBGA299の希望小売価格は税別47万円。
スポーツウオッチもじわりと支持されている。スイスのメーカー、ロンジンの「ロンジン ブティック銀座」(東京・中央)を訪れた都内の会社員、山脇穂高さん(32)は仕事にも休日にも向いた腕時計を探す。
山脇さんのお気に入りは、ロンジンのスポーツウオッチの自動巻き機械式時計「コンクエスト」だ。職場にはジャケットにチノパンツなどカジュアルな装いで通っているため「かしこまり過ぎない時計」が好みだ。同商品は本体ケースの直径が39ミリメートルで三針のシンプルなデザイン。竜頭にカバーをつけるなど激しい運動に対応できるよう工夫を凝らしている。希望小売価格は15万1200円。
スポーツウオッチはランニングなど運動時の使用が前提で、防水性や耐衝撃性に優れる。通常の腕時計より竜頭が大きいなどカジュアルの要素が強く、ビジネスパーソンから敬遠されがちだったが「近年はシンプルなデザインが増え、仕事で使う人が増えている」(スウォッチグループジャパン・ロンジン事業本部)という。
スポーツウオッチの中でも機能性が特に高いのはダイバーズウオッチ。映画「007」の登場人物が着用したオメガの「シーマスター」シリーズの自動巻き機械式時計「シーマスター ダイバー 300M」が支持を集める。防水機能は名前の通り水深300メートルまで潜れる本格派。ベゼルの側面には海を想起させる波模様があり、本体ケース直径が41ミリメートルのモデルは47万5200円。
矢野経済研究所(東京・中野)によると、16年の国内時計小売りの市場の規模は7867億円。前年より12.6%減少している。そうした中、少し高めでも手が届く価格帯で、他社にない技術を生かしたプレミアム感のある時計が、消費者の心をつかんでいるようだ。
(企業報道部 高橋彩)
[日本経済新聞夕刊2018年2月3日付]
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