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インドネシア料理ひと筋 戦後老舗の味も、最新の味も

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NIKKEI STYLE

最近街角でよく見かける東南アジア料理店といえば、タイ料理やベトナム料理店。でも、日本でまず知られるようになったのは、インドネシア料理だったらしい。

「これは、1966年発行の各国料理本なんですよ」と、紙が黄ばんだ一冊の本を見せてくれたのは東京の目黒と武蔵小山でインドネシア料理店「CABE(チャベ)」を夫婦で営む大平正樹さん。『世界の料理あれこれ』というその本には、ほとんどがフランスをはじめとする欧米料理である中、東南アジア料理として唯一インドネシア料理が掲載されていた。

インドネシアは太平洋戦争の間、日本軍が占領していた国だ。敗戦後には、残留日本兵が独立戦争に参加したという歴史を持つ。「だから、現地の女性と日本人男性が結婚して、戦後間もなくいくつかのレストランを東京で開いているんです」と大平さんは教えてくれる。大平さんがかつて働いていた東京・六本木のインドネシア料理店「ブンガワンソロ」も、そんなカップルが1950年代に開いた店の一つだった。

大平さんのインドネシア料理との出合いは1990年代初め。バブル時代が終わりを告げようとしていた頃のことだ。「ホテルの宴会場とか喫茶店のウエイターとかのバイトをする中で、たまたま一番時給がよかったのがこの店の皿洗いだったんです」ときっかけを話す。「1日働くと2万円ぐらいになって。バイト代で車を買いました」

働いていた店のキッチンのスタッフはすべてインドネシア人。まかないもすべて同国の料理だった。ピーナツソースをかけた野菜料理の「ガドガド」や串焼き風の「サテ」をはじめ、見知らぬスパイスを使った数々の料理を食べた。

「店ではピーナツバターを使ってソースを作っていて。ピーナツバターを料理に使うの? それを野菜にかけるの?って、すごくカルチャーショックを受けました。甘い料理もあれば、辛いものもある。ココナツを使った料理もそれまで食べたことがなくて、驚きました」と大平さん。目を白黒させていた当時の様子が思い浮かぶようだ。

当時旅行で訪れたバリ島も気に入り、商学部の学生だった大平さんは就職に有利になるのではと、語学習得のため大学3年次終了後、ジャワ島西部の学園都市バンドンの大学に留学する。「当時、インドネシアに留学するといったら、大学のインドネシア語学科の学生ばかり。僕は商学部でゼミも英語だったので、留学のために大使館にビザを取りに行ったら、『君みたいな人がなんで行くの?』と言われて……。親は泣いていました」と頭をかく。

バンドンでは最初、知り合いの家に1カ月ホームステイをしていたという。バイト先で馴染みはあったものの、現地は知らない料理、食習慣であふれていた。「朝は、平べったいお皿にインスタントラーメンが出てくるんですよ。ラーメンだけだったり目玉焼きがのっていたり」。当時はインターネットなどなく、渡航前に得られる情報はごく限られていたから、見ること聞くことすべてがとても新鮮だったという。

帰国してから語学を生かそうと商社や旅行会社などを受けたが、「面接に行くと、来ている人たちがみんな欧米に留学していた人たちばかりで。なんだかそういう人たちと働くのはつまらないなと思って、『ブンガワンソロ』で社員として働き続けることにしたんです」(大平さん)。

転機が訪れたのが30歳のとき。同店が閉店することになり、自分の店を開くことになったのだ。ワタミなど外食企業に転職しようかとも考えたというが、「自分でやってみたら」と、奥様のあきさんが背中を押してくれたのだと言う。

「大手の会社に勤めるのは違う感じがしたんです。彼はすごくお客さんからかわいがられていて。インドネシアの出来合いのソースを使えば簡単な料理はできるし、本格的な料理店じゃなくて、ドリンク中心の飲み屋ならできるんじゃないかって」(あきさん)。そうして2002年、武蔵小山に最初の店をオープンした。

「バリ島のクタビーチのような、外国人がたくさん集まる混沌とした雰囲気が好きで、わいわいがやがやとした飲み屋ができればいいぐらいに考えていたんです。ところが、以前の店で一緒に働いていたインドネシア人女性が厨房に入ってくれることになったんです」と大平さんは振り返る。その女性は日本人の夫が好きな料理をどんどん作っていったところ、それをみんなおいしいと言い、メニューが増えていったという。それで、カウンターのほかに何席もないような小さな店なのに、70種類ほども料理を出すようになった。「出来合いの調味料で料理を出そうとしていたのに、結局ソースから全部手作りする店になってしまいました」と大平さんは笑う。

現在、「CABE」は、武蔵小山のほか、目黒にも店を構える。大使館に近く、日本人客だけでなくインドネシア人でにぎわう店だ。実はここは、やはり日本人とインドネシア人カップルが始めた老舗「せでるはな」があった場所。大平さんに1976年の米グラフ雑誌『パシフィック・フレンド』を見せてもらうと、店が大きく特集されていた。

「店を閉めるというので、以前別の場所にあった『CABE』2号店を2016年に移転したんです。この店は『ブンガワンソロ』が閉店したときに椅子などを引き取ったそうで、今使っているのはその椅子なんです。この頃の家具ってすごくしっかりしているんですよね」とあきさんは、懐かしそうに東京の同国料理店の歴史が刻まれた椅子に手をかける。

「引き継いだお店を整理していたら、こんなものも出てきたんです」とあきさんがバックヤードから出してきてくれたのは、三島由紀夫の色紙。元々「せでるはな」は赤坂に店を構えていたらしいが、インドネシア料理店が、かつて文化人の華やかな交流の場であったことを物語っているようだ。

やはり老舗の『インドネシアラヤ』が2008年に閉店したときも、飾り物などを譲ってもらったらしい。なるほど。あきさんの言うように、大平さんは周囲の人々にとてもかわいがられていたのだろう。

「CABE」のメニューには、「ブンガワンソロ」時代の人気料理もラインアップ。海老のココナツ煮だ。ココナツ味のカレー風料理で、どこか日本風のだしを使っているかのような味がする。「この国の料理は、とにかくご飯に合うんです。私は牛肉のスパイス煮『ルンダン』などが好きなんですが、ご飯がすごく進むんですよ」(あきさん)。

近年では人気リゾート地バリ島の料理を出す店が目立つが、インドネシアの人口の90%近くがイスラム教徒であるのに対し、バリに暮らす人々は主にヒンドゥー教徒。イスラム教徒が食べないブタを使った名物料理があるなど、食文化が異なる。日本の5倍の面積を持つ同国は、「数々の島から成る国なので食文化が多様なんです」とあきさんは教えてくれる。

「店で、炒飯風の『ナシゴレン』などを頼む人は、バリへ旅行に行ったことがある人。『ソトアヤム』や『ミーアヤム』をオーダーする人は、まずジャカルタに駐在した経験のあるお客さんです」(あきさん)。「ソトアヤム」は鶏スープで、「ミーアヤム」は、鶏肉やマシュルームをトッピングしたスープ麺。つけ麺のようにスープと麺を別にして提供する店が多いらしい。

「さっぱりとした味なので、揚げ物や濃い味付けに飽きた駐在員の人はほっとするみたいなんです。現地の人はスープに自分が好きなソースを入れて食べるので、食べ終わった後はスープの色は色々なんですよ」とあきさん。

「バリ料理を看板にした店は多いんですが、国としての料理をうたう店は今、少ないんです」と寂しそうに話すあきさん。だから、インドネシア料理の歴史を背負ってきた東京の老舗が続々と閉店してしまった中、「昔を知る世代からお孫さんまで三世代で来てくれるような店にしていきたい」と大平さん夫婦は口をそろえる。

一方で、新しいインドネシアのトレンドも取り入れていきたいとも考えている。「現地でも若い人たちの味覚は少し変わってきているのではないかと思うんです。だから、現地の学生さんに、今は何がはやっているのかといったことをよく聞きます」(あきさん)

そうして取り入れた料理の一つは「イガバカール」。「焼いた骨付きバラ肉」という意味で、現地ではヤギ肉を使う。「安い料理ではないので、前にバンドンに行ったとき『イガバカール』を食べに行くからと知り合いを誘ったら、全然知らない人まで10人以上やってきてすごいことになりました。知り合いは元々うちでバイトしていた子で、向こうでは、こんなときはみんなにおごるのが当たり前なんです」とあきさんは呆れたように笑う。

現地では、「ケチャップマニス」という甘いしょうゆのようなソースで調理していたというが、「CABE」では自分で味を調節できるようソースは別添え。日本ではヤギの肉が手に入りにくいため、「CABE」ではイガバカールにラムチョップを使う。西欧料理店で食べるものとは全く異なり、しっかりと塩味が効いた豪快な大ぶりの肉で、味が濃いケチャップマニスを使ったソースを付けると、白いご飯が欲しくなった。

店にはもう一つ、現地のトレンドを取り入れた料理があった。「バタゴール」だ。これは、白身魚のすり身を油揚げに入れたりワンタンの皮で包んだりして揚げたもの。外側がカリカリに揚がっていて、中はお餅のようにもっちり。どうやら魚のすり身に片栗粉が混ぜられているらしい。

経済成長と共に国内を旅行する人が増える中、バンドン名物として人気となった料理だという。「バンドンにこれの屋台があって、現地の人に薦められて、最初は特別メニューでやれるときだけ出そうと思っていたら、ランチにこれをメインに食べるインドネシア人のお客さんが多くて、結局定番メニューになりました」(あきさん)。

「CABE 目黒店」の店の隅には、古いジュークボックスがあった。今は壊れて動かないらしいが、選曲リストを見るとインドネシアや石原裕次郎の歌が並んでいた。同国の新しい息吹と古き良き時代が同居する店は、これからもその国の姿を映していくに違いない。

(フリーライター メレンダ千春)

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