「経済格差は健康に影響する」ってウソ・ホント?
この記事では、今知っておきたい健康や医療の知識をQ&A形式で紹介します。ぜひ、今日からのセルフケアにお役立てください。
(1)関係ある
(2)関係ない
正解は、(1)関係ある です。
健康寿命というと一般に、和食、お茶などの「食生活」面や、ウオーキングなどの「運動」面からのアプローチがよく取り上げられます。しかし、最近では、それだけでなく、社会的な要素、具体的には「経済格差と健康の関係」にも注目が集まっています。実際、テレビやニュースでも「経済格差が健康にまで影響を及ぼしている」といった話がよく取り上げられています。
「経済格差と健康にどんな関係が?」と思う方もいるかもしれませんが、近年の調査結果からは、所得と健康習慣の間に明確な関係があることが明らかになっています。厚生労働省の国民健康・栄養調査の結果を見ても、「喫煙」「朝食欠食」「運動習慣がない」といった不健康な習慣は、低所得の人ほど多く見られるのです。
健康寿命の専門家で、関連書籍を多く手がける東北大学大学院医学系研究科教授の辻 一郎さんは、この背景に、低所得の人は、健康づくりに使えるお金や時間が足りない面があることを指摘します。「健康づくりの大事さが分かっても、誰もがすぐ実践できるわけではないのです」(辻さん)
不健康な習慣は、がんやメタボ系疾患のリスクを高めます。この状態が続けば、所得の差が病気発症の差につながるでしょう。そこから、治療のための出費や休職・失職により、さらに経済格差が拡大するという負のスパイラルへ陥る可能性があります。
個人の努力だけでは限界がある
そうはいっても、「健康づくりは個人の責任なのでは?」と考える人もいるでしょう。しかし、辻さんは、個人の努力だけでは限界があり、社会的なアプローチが必要だと話します。「社会構造と健康の連動が明らかである以上、社会的な視点からのアプローチが必要です」(辻さん)
分かりやすい例は、タバコです。近年、日本人の喫煙率は大幅に減少しています。そこには個人に対する禁煙教育や禁煙療法の進歩なども関与していますが、より大きなインパクトをもたらしたのは、公共空間の禁煙化をはじめとする社会環境の変化でしょう。
「職場やレストランなどを禁煙にする法整備が進むと、心疾患や脳血管障害の入院件数が減ることが、多くの研究から明らかになっています。社会環境を変えることで、個人の健康度も変わるのです」と辻さん。
英国では、食パンなど加工食品に含まれる塩分量を減らしたところ、血圧値が下がり、脳卒中と虚血性心疾患の死亡率が下がりました。個人の努力で減塩するより、はるかに効果的といえます。
「こうした社会的アプローチは、社会格差の是正につながります」(辻さん)。個人の意思や努力による健康づくりは、ほとんどの場合、低所得者ほど実践が難しいので、そこに頼ると格差が拡大します。一方、社会的なアプローチは、富める者にも貧しい者にも同様に働くので、格差の連鎖を断ち切る作用が望めるのです。
(日経Gooday編集部)
[日経Gooday 2018年1月15日付記事を再構成]
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