「できたての味」を再現 プロトン冷凍食品の実力は
新しい食品冷凍技術として「プロトン凍結」が注目を集めている。プロトン凍結は、菱豊フリーズシステムズ(本社:奈良市)が生み出した技術。冷凍時にできる氷の結晶の粒が小さいため、解凍時に細胞が破壊されにくく、調理したてのような状態が保たれるという。
百貨店大手の三越伊勢丹はその技術を使用した「プロトン冷凍食品」の販売に力を入れる。菱豊フリーズシステムズが運営するレストラン「プロトンダイニング」のメニューのなかから、特に好評なものをセレクトした冷凍食品だ。業務用の総菜やおせち、オードブルなどを含めると、現在400種類以上のプロトン冷凍食品があるとのこと。伊勢丹 新宿店本館地下1階の「シェフズセレクション」では2017年末からそのうち25商品ほどを取り扱っている。
電磁波と磁束の働きを利用
一般的に、家庭などで冷凍した食材は解凍時に味が落ちるという声をよく聞く。プロトンダイニングの丸橋佑太営業課長によると、凍結時に食品内の水分が大きな氷の結晶になって食材の内部組織を傷つけ、解凍時に水分とともに食品のおいしさも逃がしてしまうからだという。だが、「プロトン凍結は電磁波と磁束の働きを利用して一度にたくさんの氷の核を作る。そのため氷の結晶が大きく成長せず、解凍後にも作りたての状態を再現できる」(丸橋営業課長)。
丸橋営業課長は、プロトン凍結は食品業界にも大きな変革をもたらす可能性があると話す。プロトン凍結は空気凍結タイプの急速冷凍機なので、料理の形状を壊さずに急速冷凍できることが最大のメリット。ここ最近、冷凍おせちのクオリティーがぐんと上がっているのは、プロトン凍結を採用しているメーカーが増えているためだという。
食品業界全体では大きなメリットがありそうだが、個人レベルではプロトン冷凍食品の認知度はまだ低い。また、一般的な冷凍食品と比べて若干割高なのも不利な点。
だが、三越伊勢丹 食品・レストラン統括部 新宿商品部シェフズセレクションの阿江規孝グローサリーバイヤーによると「伊勢丹には高品質なものを求める人が多く訪れるので、特殊な技術でおいしさを保持しているプロトン冷凍食品を販売する意味がある」と話す。
伊勢丹新宿店では2015年12月にプロトン冷凍食品の数種類の取り扱いを開始。2017年11月15日からは取り扱いアイテムを拡大している。さらに、不定期でプロトン冷凍食品の試食販売なども行い、味を体験してもらっているという。
ドリップが出ないことに驚く
伊勢丹新宿店で特に人気が高いという「ローストビーフ」「鯛のポワレ トマトソース煮」「マルゲリータ(ピザ)」の3品を購入し、食べてみた。ローストビーフは冷蔵庫で自然解凍、鯛のポワレは電子レンジ解凍、マルゲリータは凍ったままトースターで焼くといったように、料理ごとにそれぞれ最適な解凍法は異なる。
ローストビーフは100gで握りこぶしくらいのサイズ。冷蔵庫に数時間置いて解凍して薄くカットしてみたが、ほとんどドリップ(解凍時に流れ出る肉のうまみや栄養を含む水分)が出ないことに驚いた。袋の中の漬け汁をソースにして食べたが、ただ切って並べただけとは思えない本格的な味。2人分の主菜としてちょうどいい量だ。オードブルなら4~6人分はいけそうで、これで880円とは安い。
ピザは直径15cmでオーブントースターでも焼けるサイズ。冷凍のピザは大きなサイズのものが多いので、1人分だけ食べたいときにありがたい。シンプルなマルガリータを選んだためか、薄いクリスピータイプの生地がやや物足りなく感じてしまったが、トッピングのミニトマトのフレッシュな食感に驚いた。
最も驚いたのは、鯛のポワレ トマトソース煮。1パックがスマートフォンよりひと回り大きいくらいのサイズで、ソースのかかった鯛とエビ、野菜の付け合わせが入った2つのブロックに分かれている。これで1人分(1042円)なので、ちょっとした外食レベルの価格だ。だが、電子レンジで加熱すると、メインの鯛の皮はパリパリで身はしっとりの「店で食べる味」。特に驚いたのは付け合わせのベビーコーンで、軟らかいのにフレッシュな歯触りが残っている。まさにプロの火の通し方だ。冷凍野菜の解凍につきもののドリップは全くない。
阿江グローサリーバイヤーによると「プロトンダイニングで職人が何日も手をかけて作り上げた味をそのまま味わえることや、少人数でも食べきりやすいサイズであることから、多くのリピーターがついている」という。
商品は1人分の小サイズがほとんどで、450~600円台のスープやピザなどから、1400円台のビーフシチューまでそろえる。価格帯は冷凍食品というよりデパ地下の総菜に近い。ホームパーティー用はもちろん、いざという時の買い置きにも便利そうだ。
(ライター 桑原恵美子)
[日経トレンディネット 2018年1月22日付の記事を再構成]
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