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若手リーダーに贈る教科書

逆境はチャンスの足がかり 中国人女性社長の生き方 馬英華著 『逃げ切る力 逆境を生かす考え方』

2018/2/10

日経電子版で大きな反響があった連載がベースになっている『逃げ切る力 逆境を生かす考え方』

 国内で1日に刊行される新刊書籍は約300冊にのぼる。書籍の洪水の中で、「読む価値がある本」は何か。書籍づくりの第一線に立つ日本経済新聞出版社の若手編集者が、同世代の20代リーダーに今読んでほしい自社刊行本の「イチオシ」を紹介するコラム「若手リーダーに贈る教科書」。今回の書籍は『逃げ切る力 逆境を生かす考え方』。中国で生まれて日本に留学し、東京で起業して社長として奮闘してきた著者が、幾度となく経験した逆境とそれを乗り越えてきた挑戦の軌跡を語った。

◇  ◇  ◇

馬英華氏

 著者の馬英華さんは、1965年中国大連市生まれ。大学4年生の時に来日し、90年に早稲田大学法学部に入学しました。修士課程まで終えて帰国し、96年に中国の弁護士資格を取得した後、再び来日。97年にエレベーターの保守サービス会社「東京エレベーター」を設立しました。その傍ら99年には早大大学院法学研究科博士後期課程を修了しています。著書に『中国人弁護士・馬さんの交渉術』(PHP研究所)などがあります。

■憧れの日本で「帰れ」と言われる

 日本政府観光局によると、2017年の訪日外国人数は2869万人と前年より19%増え、過去最高を記録しました。現在では珍しくない外国人も、著者が来日した88年当時の訪日客は235万人と現在の12分の1ほどでした。外国人労働者は、さらに珍しい存在で、1年間の期限つきで日本語学校に通う「就学生」の著者は、アルバイトを見つけるにも苦労したそうです。

 コンビニは給料が高くて魅力的でした。夜間だと割り増しがあります。問い合わせたところ、「お断り」。次も、その次も断られました。どこでもまず言われるのは「外国人を雇うのは前例がない」。さらに、「あなたを雇うと、日本人一人の仕事を奪うことになる」と追い打ちをかけられます。
(第2章 外国人の壁 奇跡が生んだ「日本」との出会い 121ページ)

 「一生懸命日本のことを勉強しようとしているのに、なぜ受け入れてくれないんだろう」と著者は悲しい気持ちに包まれたといいます。なんとか、ある喫茶店に時給500円で雇われたものの、今度はひどいいじめが待っていました。「遅い! 走れ」と怒鳴られたり、「貧乏な中国に早く帰れ」と罵られたりする毎日。学費と生活費を稼ぐにはアルバイトも掛け持ちしなければならず、精神的にも肉体的にも、そして金銭的にもギリギリの状態だったといいます。

■「安定」捨て、日本で挑戦する道へ

 そんな生活を支えたのは、「大学に入って法律の勉強をして、弁護士の資格をとる」という目標でした。中国では名門の大連外国語学院に籍を置いており、帰国して復学すれば安定した教師の職が約束されていました。それをなげうって、早大の入試に挑戦したのは「日本のいいところをもっと勉強したい。短い期間で経済が発展したわけを知りたい」という思いからでした。

 今でも、大連外国語学院で同級生だった友人たちに会うと、「日本に残る」という私の無謀とも言える決断に「考えられない」と彼らは口をそろえて言います。友人たちは順調な人生を送り、多くが大学の先生や貿易関連の仕事で成功していますが、私のように国から与えられる仕事を蹴ってまで別のキャリアを選択する人は皆無でした。
(第2章 外国人の壁 奇跡が生んだ「日本」との出会い 148ページ)

 早大の修士課程を終え、中国に戻って弁護士の資格をとった著者でしたが、「今を逃せば、勉強する時間は二度と来ない」と考え、日本で博士課程に挑戦することを決意しました。そのころ、深夜にかかってきた上海市の政府関係者、Aさんからの電話が、著者の人生を変えることになります。

■チャンスは「壁」の向こうに

 深い眠りから起こされ、不機嫌に電話に出たら、Aさんでした。出るなり、エレベーターの話をまくしたてました。
「馬さん、あなたはエレベーターの知識があるから、私と合弁会社をつくればいいのでは?」。私は半分うとうとし、機嫌が悪いまま返事をしました。「この前、難しいと言いました。日本にはそういう会社はありませんから」。すると彼が言います。「会社がないなら、あなたがその仕事をやればいいではないか。できないの?」
(第3章 規制の壁 誕生・中国人女性社長 160ページ)

 90年代まで、エレベーターの保守事業は大手メーカーの系列企業がほぼ独占しており、価格競争もなかったといいます。97年に著者が副社長として東京エレベーターを設立したのは、事実上の「規制の壁」となっていた系列を超えて保守を手掛けられれば、「価格破壊」できるという目算を得たからでした。1本の電話が自分で会社をつくるという選択肢を浮かび上がらせたのです。

 会社を起こしてからも、著者の人生は逆境の連続でした。「外国人」で「女性」である経営者がぶつかる壁は多く、頑迷な技術者とのあつれきや理不尽な取引障壁にも立ち向かわなければなりませんでした。それでも希望を失わず、常に前進できたのは、事業で人の役に立つという志と安価なサービスを待ち望んでいた顧客、周囲の心ある日本人の応援があったからでした。

 「逆境を生かすように考えれば、思いもよらない良い方向へと行ける強運が味方になります。チャレンジする勇気を忘れなければ、必ず良い結果につながります」と著者は振り返ります。

 先が見えない時代には「安定」を求めがちです。ただ、思わぬチャンスをつかんで成功への道が開けるとすれば、それは失敗を恐れず挑戦した結果でしょう。著者の生き方から「自分を必要としている場所は見つけることができる」と思える一冊です。

(雨宮百子)

◆編集者からひとこと 赤木裕介

 「まるで、『中国版おしん』ですね……」。

 馬英華さんの波瀾(はらん)万丈すぎる半生を初めて聞いたとき、大きな衝撃を受けました。並の人なら心が折れてしまうであろう逆境から、何度も何度も立ち上がり、しかもそれをチャンスに変えてしまう。目の前にいる明るく愛嬌(あいきょう)のある女性社長からは、想像もつかない体験談でした。

 本書のベースとなったのは、日経電子版「経営者ブログ」の記事です。連載中、「感動しました!」「何度も泣きました」といった多くの熱い反響が寄せられました。本書の刊行後も、「手紙を書かずにはいられなかった」方々から、著者のところに続々とメッセージが寄せられているそうです。

 つらい環境に追い込まれたり、大きな困難にぶつかったり。そんな状況を変えるには、やはり自分自身が行動するしかありません。本書が「自由になるための一歩」を踏み出すきっかけとなってくれれば、とてもうれしく思います。ぜひ一度、この驚きの物語を体験してみてください。

「若手リーダーに贈る教科書」は原則隔週土曜日に掲載します。

逃げ切る力 逆境を生かす考え方

著者 : 馬 英華
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 1,728円 (税込み)

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