長期投資家はビットコインに踊らない(澤上篤人)さわかみ投信会長

日経マネー

写真はイメージ=123RF
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澤上篤人氏(撮影:大沼正彦)

澤上篤人(以下、澤上) ビットコインが何かと話題になっている。急騰したかと思えば価値が一時3分の1になるなど、乱高下が著しい。我々長期投資家からすると、「そんなはやり物に、いちいち関心を向けていられるか」の一言で片付けてしまうだけのことだ。

とはいえ、どうして長期投資家はビットコインなどに興味すら抱かないのか、読者は知りたいだろう。今回は、そのあたりを草刈と話し合ってみよう。

通貨か、ただの投機対象か

草刈貴弘(以下、草刈) 2017年はビットコインに関するニュースが目立ちましたね。まさか米連邦準備理事会(FRB)のイエレン議長の発言にも登場するとは夢にも思いませんでした。ついに米市場に先物が上場するまでに。勢いがつくと、ここまでいくのかと思いました。

澤上 ビットコインが登場してきた頃は、円やドル、ユーロに代わる通貨としての機能を、あれこれ取り沙汰された。ところが、最近は投機の対象としての話題ばかりが騒がれている。

草刈 そうなんですよね。恐らくビットコインが日本で話題になり始めたのは、仮想通貨取引所「マウントゴックス」の破綻事件からじゃないでしょうか。その後はビットコインに利用されていたブロックチェーンという技術に耳目が集まりました。それぐらいからフィンテックという言葉が広まっていったと記憶しています。

当時、さわかみ投信の勉強会でも技術の可能性が取り上げられたのを記憶しています。中央集権的なシステムでない方が効率的で、情報が改ざんされにくいというのが利点という話でした。

でもビットコインそのものの値段がどんどんつり上がっていって、もうかったという人の話が出てくるようになって、結局は金融商品化してしまったというのが今の状況でしょうか。

澤上 通貨としての機能だが、ビットコインはどこまで他のモノとの交換価値を有するようになるだろうか? ネット上での決済において、ビットコインの受け渡しで済ますということだが、それで本当に安心できるものだろうか?

円やドルの紙幣だって、ただの紙切れと言えばそれまでだ。しかし、紙幣は日銀やFRB、そして両国政府が信用を裏付けている。その信用があればこそ、紙幣を誰もが受け取ってくれる。

誰もが受け取ってくれるから、人々は紙幣を安心して決済手段に利用できる。交換手段として誰も何の疑いも持たない。それが通貨の通貨たるところである。

ところが、ビットコインは中央銀行が発券者としての責任を持つことはない。金融取引の現場で自然発生的に生まれた任意の決済方法にすぎないのだ。

草刈 何を担保にその価値が維持されているのかという疑問が拭えませんよね。保有している人の中で、その価値に疑問を持つ人が増えた時、我先にと逃げ出してパニックのようになってしまうのではないかと思ってしまいます。

さわかみファンドCIOの草刈貴弘氏(左)

澤上 取引の相手同士が、互いを信じて決済に応じてくれる間は、ビットコインは通貨としての機能を果たせる。しかし、一つ狂いが生じるや否や、もう誰も受け取らないだろう。背後に中央銀行のような絶大なる信用を持たない弱みが瞬時に露呈する。そして、それまで積み上げてきた金融取引の大半がガタガタに崩れてしまう。

草刈 17世紀に起きたオランダのチューリップバブルも同じようなものだったのではないかと思ってしまいます。「あれ、これってただの球根だよね。何でこんな金額払うんだろう」と。チューリップ投機が最高潮に達した時は、球根一つで家が一軒建ったといわれましたが、我に返った時が恐ろしいですね。

先物投機はマネーゲーム?

澤上 ビットコインを電子通貨と位置付けするのであれば、その先物市場ができるなんて、ちょっと理解できないね。あるいは、ビットコインが投機対象の金融商品に変質してしまったのか。

投機なら投機で、それなりの限度というものがある。さて、ビットコインはどうなんだろう?

例えば外国為替証拠金(FX)取引など為替の投機には、ゼロサムゲームという絶対的な「しばり」がある。ゼロサムゲームとは、円が売られればそれに応じて、ドルやユーロが買われるということだ。円高が進めば、ドル安やユーロ安が必ず連動する。為替の投機は買われる通貨と売られる通貨とを足して合わせると、いつもゼロになる。足して合わせると必ずゼロになるという「しばり」があるから、いつの為替投機もおのずから限度を迎える。無限に続くということはない。

1990年代にジョージ・ソロス氏がポンドをカラ売りして大成功を収めた投機は、イングランド銀行を相手にしたものだった。同行が負けじとソロス氏の売りに対し、ポンドの買い支えで対峙したものの、最終的にはポンドを切り下げて一件落着となった。

ところが、ビットコイン投機にはこれといった「しばり」もなければ、ソロス氏のような攻撃の標的となる相手もいない。ただ思惑がぶつかり合うだけだ。値段が上がっている時は、どんどん買いが集まってびっくりするほど値上がりする。そして、何かの加減で売りが集中すると、ストーンと落っこちてしまう。全くの根なし草のようなものである。

草刈 ビットコインの先物が上場する時に、米国はさすがだなと思いました。商売になるなら何でもやる。天気でもデリバティブで金融商品にしてしまう国ですから。

でも気になるのは、現状の取引通貨で一番多いのが円ということ。流行に弱い日本人の特性なのでしょうか。中国が取り締まりをしてから、中国の取引はほぼ壊滅しました。万が一、ビットコインがひっくり返ってしまうと、一番被害が大きいのは日本の国民ということになります。投機に乗じているのが日本人というのが若干残念な気持ちです。

先物上場で、ビットコインは本格的に市民権を得たのかもしれません。かつて株式や債券も同じように思われていましたが、いざ取引が始まり認められたとしたら、歴史が変わる大きな節目となる可能性はあるかもしれません。

でもやっぱりミシシッピ・バブルを引き起こしたジョン・ローの再来に終わるように思いますが。

澤上 そうだね、いつの投機も熱狂が過ぎ去ってみれば、一体何を追い回していたのかとなって、残るのは笑い話ばかり。本来の価値とか将来の価値の高まりに向けて資金を投入していく、我々長期投資家にすれば別世界の話だよね。

澤上篤人
1973年ジュネーブ大学付属国際問題研究所国際経済学修士課程履修。ピクテ・ジャパン代表取締役を務めた後、96年あえてサラリーマン世帯を顧客対象とする、さわかみ投資顧問(現さわかみ投信)を設立。

草刈貴弘
2008年入社。ファンドマネジャーを経て13年から最高投資責任者(CIO)。

[日経マネー2018年3月号の記事を再構成]

日経マネー 2018年3月号

著者 : 日経マネー編集部
出版 : 日経BP社
価格 : 730円 (税込み)


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