これでうまくいくだろうと思ったら、次の検査もパスしませんでした。私はもう一度、スタッフの動きを観察し、改善策を練りました。そして、未使用のスプーンをすべて縦にして容器に差し、使用済みのスプーンを平らなトレーに置くという対策を施し、ようやくパスできるようになりました。

この場合、「新しいスプーンを使いなさい」と言葉で指示しても、あまり効果はありません。相手はタイ人、つまり異文化で育った人ですから、彼らの考え方を理解し、彼らが理解できるように問題を落とし込んで具体的な行動を変えていくしかない。「あ・うんの呼吸」が通じない新興国で多数のスタッフを動かす経験をしたことによって、私は独自のマネジメント手法を身につけていました。

ホテル業界の経験がなくてもしっかり仕事ができたのは、現場の人たちが協力してくれたからです。私は上を見て仕事をせず、現場を見て仕事をしました。そして、絶対に逃げませんでした。

ホテル・観光業界で働きたい主婦向けの指南役を買って出た(Waris提供、工藤朋子撮影)

周囲の目が大きく変わったのを感じたのは、あるトラブル処理で、部下にその責任を押しつけず、自分で顧客の元に出向いてむちゃな要求を取り下げてもらったときでした。私はよほどのことがない限り、安売りもしませんでした。サービスを安売りするのは、仲間の能力を安売りしているのと同じことだからです。仲間の可能性を信じていましたから、皆が「できない」と言うほど、大口のビジネスを次々と取ってきました。

最初はみんなあたふたしますが、そのうちに慣れてきます。仕事を通じて成長した実感が持てると、今度はその大変なことが楽しく感じられるようになり、「この人についていこう」と思うようになるのです。

専業主婦と企業、双方が歩み寄れば可能性は開ける

日本経済成長の可能性は観光業にあると私は思っています。そして今、ホテル・観光業界はどこも人手不足です。ここに専業主婦が活躍できる余地があります。ただし、そのためには専業主婦と企業、双方がお互いを理解して歩み寄る必要もあると思っています。

ホテルに勤務していた頃、午前9時から午後5時まで時給1000円の条件を掲げて誰も応募してこなかったビジネスセンターの仕事がありました。ここに、私は友人の専業主婦を連れてきました。彼女が午前10時から午後4時までなら働けるというので、まずはその時間を担当してもらうことにして、次の人が見つかった際、2人で午前と午後に分けて担当してもらうなどしながら、カバーできる時間の範囲を広げていきました。

最初に入った友人は今、ホテル内で次の仕事へとステップアップしています。このように働きたい人の条件に合わせて柔軟に対応すれば、人手不足が解消できる事例はたくさんあるでしょう。「専業主婦だから無理」ではなく、専業主婦でもこうすれば働けるという条件を見つけ、企業がそれを支援することです。

ANAインターコンチネンタルホテル東京に4年半勤めた後、他のホテルを勉強したくて5つ星のラグジュアリーホテルに転職しましたが、私はだんだんと、自分と同じようにキャリアを再スタートしたい専業主婦の背中を押す仕事に強い興味を覚えるようになりました。そこで思い切ってホテルを辞め、18年3月から週に1度、米ニューヨーク大学プロフェッショナル教育東京の講師として、日本のホテルや観光業界で働きたい主婦向けの講座を持つことにしました。講座で学んだ専業主婦と企業のマッチングに関しては、私が戦略顧問を務めているWarisにお願いしています。

ラグジュアリーホテルでは正社員でしたので、娘には「正社員の仕事を辞めてパートタイムの仕事を選ぶなんてどうかしている」と言われました。しかし、これもまたゴールではなく、ジャングルジムの一部です。ニューヨーク大学は観光を柱にしているので、いずれは本格的に日本に進出してくるでしょう。それに観光業界は人手不足ですから、教育マーケットは必ず成長します。私は5つ星ホテルで総支配人を目指すよりも、今後ひらけるであろう、新しいマーケットの可能性に賭けました。

18年1月から始まった日本コカ・コーラでの仕事も初体験。ジャングルジム登りはまだ続いています。

(ライター 曲沼美恵)

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