週末レシピ 塩入りチョコケーキ、大人のバレンタイン
突然だが、みなさんは「塩生キャラメル」を覚えているだろうか。
そう、あれは今からもう10年以上も前の2007年のこと。フランスはブルターニュ地方のキャラメリエ(キャラメル職人)であったアンリ・ルルー氏が、海外初出店として日本の伊勢丹新宿本店を選び、ショップをオープンしたのだ。もしかしたら「あ! 私、あの行列に並んだわ!」「彼女に買って来いと言われて並んだなあ」という方もいるだろう。連日開店前からできて消えることのなかった長い行列は、多数のメディアに取り上げられたので、行ったこと・食べたことはないまでも、記憶に残っている人も多いのではなかろうか。
そのメイン商品である「C.B.S.」は、「Caramel Beurre Sale(キャラメル・ブール・サレ)」の略で、いわゆる「塩バターキャラメル」という意味だ。フランス産海水塩で最も有名な「ゲランドの塩」を使用したその塩キャラメルは、しっかりとした塩味を感じた。
日本でも、小豆あんや塩大福に塩を混ぜたり、スイカに塩をかけたりということは行われてきたが、どれも「味覚の対比効果」によって甘味を引き立てるという働きがメインで、塩味そのものはあまり感じない使い方であった。むしろ、塩味が強く感じられるようであれば、それは「いい塩梅(あんばい)」を逸脱した量をかけてしまったというような捉え方が一般的であった。
一方で、前述の「C.B.S.」に至っては、塩が甘味を引き立てる役割をしっかりと果たしつつも、はっきりとした塩味を感じ、それがまた絶妙な、アンリ・ルル―氏いわくの「誰もが知っているが、誰もが初めての味」を生み出しているのである。
その「知っているようで知らない味覚」がきっかけとなったのか、その後日本では一大ブームと呼ぶにふさわしい「塩スイーツ」ブームが巻き起こり、そして今ではしっかりと定着したのである。
今回は、バレンタインも近いということで「実はあまり甘いものは好きじゃないんだ」というパートナーになにをあげようかと考えあぐねている方のために、しっかりとした塩味が効いた「大人の塩スイーツ」をご紹介したい。
まずは、バレンタインなので、定番のチョコレートを使った「フォンダンショコラ」をご紹介しよう。「Fondant au chocolat(フォンダン・オ・ショコラ)」はフランス由来のチョコレートケーキで、温めて切ると中からとろりとガナッシュが出てくるのが特徴だ。通常はどちらかというと激甘なイメージのあるスイーツだが、これも、塩を入れることでチョコレートの甘さが引き立つとともに、ほんのりとした苦味が効くので全体が引き締まり、甘すぎない仕上がりとなる。重めの赤ワインにでも合わせられるような味わいなので、ぜひ試してみてほしい。
塩フォンダンショコラ
<材料(マフィンカップ6個分)>
★生地
ブラックチョコレート 150グラム / バター50グラム / 卵 2個 / 砂糖 50グラム / 生クリーム 60cc / 薄力粉 40グラム / オリーブオイル 適宜 / 塩 小さじ2分の1
★トッピング用
塩(パウダータイプのものか、グラインダーで極微粒にしたもの) 適宜
<作り方>
(1)小麦粉はふるっておく。オーブンは180℃に温めておく。チョコレートとバターを湯煎で溶かす。
(2)卵、砂糖、塩、生クリームをしっかりと混ぜ合わせる
(3)(1)に(2)を4回に分けていれる。その都度しっかりと混ぜ合わせる。
(4)(3)に小麦粉を入れて混ぜ合わせ、型の8分目まで生地を流し込む。
*取り外すタイプの型を使用する場合は、型にオリーブオイルを薄く塗っておく
(5)オーブンで10分焼いたら出来上がり。
(6)にトッピング用のパウダー状の塩(もしくはグラインダーで細かくした塩)を茶こしでふりかけたら出来上がり。
<ポイント>
*焼きすぎると中心部まで火が通ってしまって「しっとりしたチョコレートケーキ」になってしまうので、焼きすぎに注意しよう(それはそれでおいしいので、焼きすぎても捨てずにそのまま食べよう)。表面がひび割れていたら焼きあがり。
ちなみに、以前ご紹介した「ケーク・サレ」(「週末レシピ フランス風しょっぱいケーキで冷蔵庫一掃」参照)でも同様だったが、プレゼントにするために持ち運ぶ際には、ミニカップに入れて焼いてしまうのが便利だ。その場合は、カップが一般的なマフィンのサイズよりも小さくなればなるほど、焼き時間は短くなるので、上記レシピ通りの焼き時間にしないように注意してほしい。
また、フォンダンショコラをプレゼントする際は「レンジ弱で30秒ほど温めて」というようなメッセージを添えることも多いが、渡した相手がフォンダンショコラを知らずに、レンジで温めただけでかぶりついて食べてしまった場合、中からでてきたチョコレートが洋服を汚すなんてことにもなりかねない。ミニスプーンでも添えて「スプーンですくって食べてね」という一言も添えてあげる気遣いも喜ばれるだろう。
さて、「チョコレートは好きじゃない」という相手になにかをプレゼントしたいと考えている方のために、チョコを使わない塩スイーツもご紹介しよう。こちらはワインはもちろん、ビールやハイボールとも相性が良いので、家でちょっと飲む時のつまみにもなる。
ハーブソルト&チーズクッキー
<材料(約20個分)>
★生地
薄力粉 120グラム / バター 60グラム / ピザ用のとろけるタイプのチーズ 60グラム / 砂糖 20グラム / 塩 小さじ2分の1 / 乾燥パセリ 小さじ2 / パルメザンチーズ 大さじ2 / ブラックペッパー 小さじ2分の1
★トッピング用
お好きな塩各種…適宜
<作り方>
(1)薄力粉はふるっておく。とろけるタイプのチーズはみじん切りにしておく。
(2)バターを湯煎で溶かして、熱いうちに砂糖とチーズ2種類、塩を入れて、しっかりと混ぜ合わせる。
(3)(2)に薄力粉を加えて全体が混ざるようにヘラで混ぜ合わせて、生地をまとめる。粉っぽさがなくなって、大きめのダマがたくさんできた状態になればOK。
*練るとできあがりが硬くなるので、練らないように注意する。
(4)(3)を手で棒状に成型して、ラップでくるみ、冷蔵庫で2時間寝かせる。
(5)(4)を約5ミリ幅にカットし、クッキングシートかアルミホイルを敷いた天板に並べて、好きな塩をトッピングする。
(6)180℃に熱したオーブン(下段)で13分焼いたらできあがり。天板の上でそのまま冷まして、粗熱が取れてから取り出す。
<ポイント>
*生地は練らないように注意する
*トッピングの塩は複数種類用意しておくと、出来上がりの味わいが変わって楽しい
*使用するチーズやハーブはお好きなものでアレンジOK
*焼きたてはもろいので、粗熱が取れてから扱うとよい
<今回使用した塩>
今回は下記の4種類を使用した。みなさんもご自宅にあるお好きな塩をトッピングしてみてほしい。使用する塩によって、最終的な味わいが変わってくるのが楽しめる。
写真上段左から
「星の砂塩」(海水塩/鹿児島県・与論島/細やかなフレーク状の結晶)
「マグマ塩」(岩塩/チベット自治区/硫黄の香りと味わい)
写真下段左から
「ハワイアンソルトアラエア」(海水塩/ハワイ州/赤土入りのハワイ古来の塩
「ピンクロックソルト」)(岩塩/パキスタン/鉄由来のかわいいピンク色)
甘さを引き立てるという使い方だけでなく、塩の味も前面に出した塩スイーツは、まさに大人の味わいだ。今年のバレンタインにはちょっと変わったものをプレゼントしたいと思っている人は、ぜひ試してみてほしい。ただし、いい塩梅(あんばい)というくらい、塩は塩加減が重要なので、愛情と一緒にかけすぎには要注意だ。
(一般社団法人日本ソルトコーディネーター協会代表理事 青山志穂)
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