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長時間労働を撲滅できる会社の特徴 産業医が思うこと こちら「メンタル産業医」相談室(19)

日経Gooday

2018/2/12

 産業医として過重労働面談をするなかでも、この調査の労使双方に共通している「人員が不足し、仕事量が多いこと」と「予定外の仕事(不規則な要望)が突発的に発生する」が解決されず放置されている会社では、それらが慢性的な過重労働の原因となっていることが非常に多いと感じます。

 まず「人員が不足し、仕事量が多いこと」に関しては、ただ単に人手を増やせば解決する問題ではない場合も多々あります。今まで行った過重労働面談では、「自分と同等の知識やスキルを持っていないとできない仕事だから、人を入れてもらってもすぐ任せられない。教える時間がとられるので逆に残業時間が増える。だから今のまま自分が頑張るしかない」と悲壮な表情で話す社員さんにしばしば出会いました。

 こうしたにっちもさっちもいかない「崖っぷち状態」が慢性化し、少数の人が恒常的に長時間労働を行っていると、多かれ早かれその中から体調不良者が発生し、さらなる人手不足が発生するという恐ろしい悪循環に陥っていきます。最悪の場合は主要な人材が全員倒れてしまい「そして誰もいなくなった」という状況になることも。

 経営陣が一時的に売り上げを減らしてでも作業量や納期を調整することを指示し、人を育てるための時間的余裕をつくるという英断をしなければ、この悪循環は断ち切ることができないでしょう。

 また「予定外の仕事の突発的な発生」も、中小企業で長時間労働が発生する温床になっています。特にIT会社や広告会社などの過重労働面談では、「定時を過ぎてからクライアントから要望が入ったり、納期目前に駆け込みで追加案件が増えたりするから、深夜になっても仕事が終わらない」と訴える社員さんによく出会います。こうした受注型のビジネスモデルの場合は、自社だけの改革では限界があることを痛感します。

 2017年の9月22日に経済同友会から「長時間労働につながる商慣行の是正に向けた共同宣言」が出されました[注2]。その中には、「契約時の適正な納期の設定に加え、仕様変更・追加発注を行った場合の納期の見直しなどに適切に対応する」「取引先の休日労働や深夜労働につながる納品など不要不急の時間・曜日指定による発注は控える」「取引先の営業時間外の打ち合わせや電話は極力控える」といった内容も含まれています。

 産業医としても、これは素晴らしい宣言だと感じました。中小企業では、「今まで行ってきたこまごましたサービスを断ると、別の会社に仕事をとられてしまう」という恐れが常にあるため、なかなか今までの悪しき商習慣にNOと言えないのが実情です。やはり業界全体で商習慣を見直し、発注者側の意識を変えることが必要だと産業医の立場からも痛感します。宣言だけにとどまらず、こうした意識を世論に広め根付かせてもらいたいと強く思います。

 働き方改革が叫ばれ出してからも、上記のような「社員個人の努力だけでは、どうしようもできない長時間労働の状況」が続いている会社が実際に多く存在します。過重労働面談で疲労が高度に蓄積している社員さんに会い何とかしてあげたいと思っても、産業医は勧告権しか持たないため、「残業を速やかに削減してください」「月○時間以内の残業に留めてください」といった意見書を会社に提出することしかできません。

 長時間労働をしているご本人には、医師として、可能な限り質の良い睡眠と食事をとることの必要性や休日の過ごし方などのアドバイス、疲労回復の方法などをお教えしますが、長時間労働が続いている限り「焼け石に水」であり、疲労は確実に蓄積し続けていきます。

 元来健康で仕事に情熱を燃やしているビジネスパーソンでも、長時間労働が続き、深夜に帰宅して3~4時間の睡眠しかとれず、土日もゆっくり休めないという日々が月単位で続けば、確実にメンタル面や体の調子が崩れていきます(詳しくは、第5回「『過労』はサイレントキラー 体力がある人ほど注意」をお読みください)。しかし、社員がメンタル不調や体調不良を起こしてからでは遅いのです。2018年もさらに働き方改革の議論が深まり、社会全体、業界全体で大きなアクションが起こることを産業医としても心から期待しています。

[注2]https://www.doyukai.or.jp/policyproposals/articles/2017/170922a.html

【こちら「メンタル産業医」相談室】

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奥田弘美
 精神科医(精神保健指定医)・産業医・労働衛生コンサルタント。1992年山口大学医学部卒。精神科医および都内20カ所の産業医として働く人を心と体の両面からサポートしている。著書には「1分間どこでもマインドフルネス」(日本能率協会マネジメントセンター)、「何をやっても痩せないのは脳の使い方をまちがえていたから」(扶桑社)など多数。日本マインドフルネス普及協会を立ち上げ日本人に合ったマインドフルネス瞑想の普及も行っている。

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