「現代版の火の見やぐらだ」と桑原氏は胸を張る。4K映像を伝送するには毎秒25メガ(メガは100万)ビット程度の通信速度が必要。現在の第4世代(4G)では難しいが、5Gなら最高で毎秒20ギガ(ギガは10億)ビットだから容易だ。トラックが暴走する状況を監視できれば、警備員に情報提供して避難誘導もできる。
危険を未然に防ぐ技術も実用化へ向けて進む。NECと共同開発した最新技術は5Gの特徴である通信の遅れの小ささを最大限に生かした。
「テーブルの上に危険な刃物が置かれている!」。監視センターのモニターではAIが危機を自動判別し、画面上にアラートを出した。監視センターの担当者は現場近くの警備員が持つスマートフォン(スマホ)に場所と状況を通知し駆けつけるように指示した。
これはNTTドコモが17年11月に都内で開催した5Gの技術イベントでALSOKとNECが披露したデモだ。仮設の監視カメラと、警備員が装着する携帯型カメラで撮影した4K映像を5Gで離れたセンターに送りAIで解析。刃物のような危険な犯罪につながる予兆を自動で識別できる。
群衆から顔認証の未登録者を抽出
最先端の顔認証技術を使い特定エリアへの入場が許可されていない人物も探し出せる。現場の周囲にいる多くの人たちの中で、あらかじめ顔を登録していない人物を「不審者候補」として抽出できそうだ。警備員のスマホに送れば現場での迅速な対応につながる。
5Gでは通信の遅れがわずか0.001秒に抑えられるから検知した危険の予兆をほぼリアルタイムで警備員に送れる。現在の通信技術では5秒程度もかかる。「人は2.3秒、自転車は1.1秒で4K監視カメラの撮影範囲から逃れてしまう」(桑原氏)。5G商用化で不審者が逃げる前に捉えることができる。
警備最大手のセコムもKDDIなどと組んで次世代警備技術を開発している。例えば、ドローンを使って空から監視して安全を高めることだ。
同社の寺本浩之企画部担当部長は「上空100メートル程度のところからでも地上の車のナンバーや人物の顔を識別できた。現在は固定回線を使っているが、5Gを活用できれば、場所の制限がなくなり鬼に金棒だ」と語る。
セコムが次世代警備システムで開発を進めているのが群衆の中での異常をAIで自動検知して安全を確保する技術だ。
業界では「パニック行動」と言われるが、多くの人が突然、同じ方向に走り出す動きは欧州で起きたテロ攻撃時にも見られた。監視カメラとAIでこうした動きを察知すれば、監視センターの画面には瞬時にアラートが出る。荷物が不自然に置かれている場合でもAIが察知してセンターの担当者に気づかせる。