実は食べ過ぎ招く? 「健康に良い」表示の安心感
健康に良い食品だと思うと、ついつい食べ過ぎてしまう、という経験はないでしょうか。米アリゾナ州立大学のNaomi Mandel氏らは、同じエネルギー(カロリー)量で、糖類[注1]と脂肪の含有量が異なるシェイクや、ラベルに「健康に良い」と表示されたシェイクとそうでないシェイクを学生らに飲んでもらい、その後、間食のポテトチップスを食べる量に差が出るかなどを調べました。その結果、糖類を多く含むシェイクや、「健康に良い」と書かれたシェイクを飲んだ後のほうが、間食の量が増えることが分かりました。
糖類の多い食品は、食後の空腹感を誘いやすい?
空腹感には、生理的な要因と心理的な要因が複雑に関わると考えられています。これまでに行われた研究で、エネルギー量は同じでも、高たんぱく質または高炭水化物の食品を食べた後より、高糖類(砂糖やブドウ糖などが多い)の食品を食べた後のほうが、より空腹感を覚えることが示されています。
また、健康に良いと認識した食品を食べても人は満腹感を得にくく、より多く食べてしまうことが示されています。一般に、ラベルに健康的とある食品は、健康的でないと認識されている食べ物に比べ、「おいしくないし食べる楽しみも少ない」と考えられている一方で、脂肪含有量が少ないためにたくさん食べても罪悪感を覚えにくく、食べる量が増えるという報告もありました。
そこで今回、Mandel氏らは、アリゾナ州立大学でビジネスを専攻している大学生に参加を呼びかけ、次の2種類の実験を行いました。
[注1] 糖類:糖質のうち、砂糖や果糖、ブドウ糖などの単糖類・二糖類の総称。でんぷんなどの多糖類は糖質だが糖類には含まれない。
エネルギー量(190kcal)とたんぱく質量は同じで、高糖類・低脂肪(低脂肪乳を利用)のシェイクと、低糖類・高脂肪(甘味料としてステビアを利用し、生クリームを添加)のシェイクのいずれかを飲んでもらい、その20分後に食べたポテトチップスの量を比較する。
[目的]糖類の摂取量がその後の食欲に与える影響を評価する
【試験2】
試験1のシェイクに、「健康に良い」ことを示すラベルと「健康には良くないが、特別にリッチな感じを持たせる」ラベルをつけ、同様の試験を行う。
[目的]摂取する食品が健康に良いかどうかに関する認識が、その後の食欲に与える影響を評価する
高糖類シェイクを飲んだ後のほうが間食の量が多い
試験1では、70人の学生に、空腹状態でいずれかのシェイクを飲んだ20分後に、ショートフィルムを見ながら提供したポテトチップスを自由に食べる、という課題を出しました。学生たちには試験の真の目的は知らせず、「どのショートフィルムがチップスを食べるのにふさわしいのかを知るため」と告げていました。
試験の結果、高糖類シェイクを飲んだグループのほうが、ポテトチップスの摂取量が多いことが分かりました(表1)。飲んでいるときには区別できないはずなのに、糖類の含有量はその後のポテトチップスの消費量(おそらくは空腹感)に影響を及ぼしていました。
健康に良いという思い込みが、間食量を増やす
試験2では、184人の学生を対象に、心理的な要因も組み合わせて評価しました。用意したのは試験1と同じ2種類のシェイクですが、それぞれのシェイクに、健康に良いことを意味するラベル(HELATHY LIVING)と、健康には良くないが、特別にリッチな感じを持たせるラベル(INDULGENCE)のいずれかを添付し(図1)、計4種類のシェイクを用意しました。
その結果、食べたポテトチップスの量は、HEALTHYラベルの高糖類シェイクを飲んだグループのほうが、INDULGENCEラベルの高糖類シェイクを飲んだグループよりも多く、逆にHEALTHYラベルの低糖類シェイクを飲んだグループはINDULGENCEラベルの低糖類シェイクを飲んだグループより少なくなっていました(表2)。
今回の2つの試験で得られた結果は、食べた食品の糖類の含有量が多いほうが、また、健康に良いという思い込みがあるほうが、その後の間食の消費量が増えることを示唆しました。ただし、高糖類であっても、本人が、そのシェイクが不健康だと認識すると、糖類が摂取量に及ぼす影響は小さくなる、すなわち、食欲がコントロールされる可能性も明らかになりました。
著者らは、特に朝食用のヨーグルト、シリアル、グラノーラなどは、ヘルシーを売り物にしつつ糖類が多いので、その後の間食を増やすのではないかと心配しています。
論文は、Appetite誌2017年7月号に掲載されています[注2]。
[注2] Mandel N, et al. Appetite. 2017 Jul 1;114:338-349. doi: 10.1016/j.appet.2017.04.001. Epub 2017 Apr 4.
医学ジャーナリスト。筑波大学(第二学群・生物学類・医生物学専攻)卒、同大学大学院博士課程(生物科学研究科・生物物理化学専攻)修了。理学博士。公益財団法人エイズ予防財団のリサーチ・レジデントを経てフリーライター、現在に至る。研究者や医療従事者向けの専門的な記事から、科学や健康に関する一般向けの読み物まで、幅広く執筆。
[日経Gooday 2018年1月5日付記事を再構成]
健康や暮らしに役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。