「再就職、娘たちのロールモデルに」 西村淑子さん
日本証券業協会SDGs推進室長(折れないキャリア)
「あの時よりつらいことはないと思う」。新卒で入った都銀時代。第1子の出産・育児で仕事との両立に苦しんだ。ただ、この経験が自身の打たれ強さにつながっているという。
妊娠は入社4年目だった。中小企業の法人営業を担当し、勤務は夜遅くまで。実家は遠く、夫も仕事で手伝いは難しく、初めての子育てはうまくいかないことばかりだった。利用時間の長い保育園をと近所の園は避け、子どもを電車で送り迎え。仕事で疲れた帰りには「子どもが泣くと周りの乗客に白い目で見られ、精神的にも肉体的にもきつかった」と話す。
第2子の妊娠をきっかけに仕事との両立を諦め、専業主婦となった。家事や娘たちの受験勉強をみるなど忙しい日々を送るうちに、意識の変化が訪れる。「娘たちのロールモデルになりたい」。母の働く姿を見せることが大事ではないか。寂しい思いをさせてしまうかもしれないと迷いはあったが、「35歳を迎え、正社員として復帰できる期限が迫っていると感じた」。
覚悟を決め、2009年に日本証券業協会へ入職した。調査部や企画部を経て、17年9月からはSDGs推進室長を務める。SDGsは15年に国連サミットで採択された、持続可能な開発のための2030アジェンダのこと。環境問題や貧困など幅広い課題の解決をうたい、女性活躍支援もその一つだ。「まずは、対外発信を進めている。やりがいはとても大きい」
室長への抜てきに「チャンスを与えてもらった分、責任が増した。いいかげんな仕事はできない」。つらい思い出は多くても、過去の仕事経験や反省は生きている。「社会人になったばかりの頃は、仕事への覚悟がなかった。でも今は楽しく、しっかり働く」
仕事と子育て、プライベートの両立で家族の支えが大きな力となっている。職場でも勤務スケジュールや部署配置で配慮、協力を受け感謝している。子どもが大きくなり、プライベートよりも仕事の比重が高まったが「心の余裕が生まれ、趣味のクラシックバレエに向ける時間も増えた」。
一度途切れたキャリアでも、やる気があれば再開できる。「長い目でキャリア形成について考えることが大事」。挫折しても、また挑戦することの大切さを実感している。
(聞き手は南雲ジェーダ)
[日本経済新聞朝刊2018年1月29日付]
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