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大きく変わる所得税 自営業者は減税、仕組みは複雑に 控除での税調整に「小手先の改正」指摘も

2018/2/3

写真はイメージ=PIXTA

 個人の年間の稼ぎにかかる所得税が今後、大きく変わります。今年から配偶者控除が改正されたほか、今の国会で税制改正法が成立すれば2020年から基礎控除や会社員の給与所得控除額も見直されます。一連の改革の目的と問題点を所得税の仕組み(図)を見ながら解説します。

 所得税改革の背景について、政府税制調査会会長の中里実東京大学教授は次のように説明しています。「働き方の多様化と、所得格差の拡大への対応が求められていた」

 働き方の多様化は、「非正規労働者の増加につながる面があり、格差拡大の一因でもある」と青山学院大学学長の三木義一さんは話します。放置すれば社会の安定が揺らぎかねず、税制面でも対応が必要だとされました。

■会社員の経費「多めに認められてきた」

 政府は多様化する働き方の代表例として、雇用的自営業者と呼ばれる人々の増加をあげています。システムエンジニア(SE)や保険代理人など、特定企業との使用従属関係が高い職種をいいます。

 こうした人々は税制上は「個人事業者」と扱われます。収入から、それを得るために実際にかかった経費を差し引くことで、課税対象となる所得を計算します。

 これに対して会社員は「給与所得者」です。必要経費は一定の算式に基づき概算する仕組みです。給与所得控除と呼ばれ、金額は「多めに認められてきた」と中央大学教授の森信茂樹さんは言います。このため、同じ仕事で同じ年収を得ても自営業者は不利だといわれてきました。

 税制改正では給与所得控除の額を20年から10万円減らします。これだけだと自営業者に恩恵がないため、基礎控除の額を10万円引き上げて48万円とします。会社員は給与所得控除のマイナスと基礎控除のプラスで差し引きゼロですが、自営業者は基礎控除が増える分、減税となります。

■「小手先の改正」との指摘も

 ただ、この方法を「小手先の改正」と三木さんは指摘します。なぜでしょうか。

 所得税の計算では給与、事業など収入の種類に応じて所得を10に分類し、各所得を合計します。こうして求めた総所得から、「所得控除」と呼ばれる金額を差し引きます。

 所得控除には配偶者控除や医療費控除など14種類があります。もともとは本人や家族の事情に配慮するために設けられた仕組みです。

 税制改正によって増額される基礎控除もその一つです。つまり本来、働き方によって違う所得計算の問題とは関係ないにもかかわらず、基礎控除が調整に使われているのです。税理士の藤曲武美さんは「所得税の仕組みを複雑にするだけ」と話します。

 今年から年収が1220万円を超えると、配偶者控除を受けられなくなりました。20年からは、年収850万円超の会社員は給与所得控除額が195万円に抑えられます。

■所得税全体を作り変える改革が必要

 高所得者の税負担は増えるため、「格差の是正には一定の効果が見込める」と森信さんはみます。それでも税制改正の方法について疑問視する声が絶えません。

 低所得者に配慮するなら例えば、税額そのものを減らせる「税額控除」を活用する方法もありました。中央大学教授の酒井克彦さん(租税法)は「もっと所得税全体を作り変えるような改革が必要だ」としています。

[日本経済新聞朝刊2018年1月27日付]

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