求人に「35歳未満の方に限る」 1歳差は問題ない?
こんにちは、人事労務コンサルタントの佐佐木由美子です。人生100年時代といわれ、これからは長い期間働くことが当たり前の時代になります。一方で、求人市場に目を向けると、「年齢の壁があって……」という声も。中には違法ともいえる求人広告があるので、注意しなければなりません。
年齢制限は原則NG
求人募集に「これは!」と思って応募しようとしたら、「35歳未満の方に限る」と小さな文字で書かれていたんです……というK子さん。「1歳くらいなら、ごまかしても大丈夫でしょうか?」と聞かれましたが、答えはNO。それでは、年齢詐称になってしまいます。
そもそも、その小さな文字で書かれているという年齢制限は、正当なものといえるのでしょうか?
日本は、何かというと年齢で人を判断するところがあり、常々問題だと感じますが、個々人の能力や適性は年齢だけで測れないものがあります。
現在は、雇用対策法により、労働者の募集や採用に当たっては、年齢制限を設けることができません。このことをご存じでない方も多いのではないでしょうか。
年齢制限における6つの例外
労働者の募集・採用の際には、原則として年齢を不問としなければなりませんが、例外的に年齢制限を行うことが認められている場合があります。それは、次の6つのケースです。
例外その1:
定年年齢を上限として、その上限年齢未満の労働者を期間の定めのない労働契約の対象として募集・採用する場合
例外その2:
労働基準法その他の法令の規定により年齢制限が設けられている場合
例外その3:
長期勤続によるキャリア形成を図る観点から、若年者等を期間の定めのない労働契約の対象として募集・採用する場合
例外その4:
技能・ノウハウの継承の観点から、特定の職種において労働者数が相当程度少ない特定の年齢層に限定し、かつ、期間の定めのない労働契約の対象として募集・採用する場合
例外その5:
芸術・芸能の分野における表現の真実性などの要請がある場合
例外その6:
60歳以上の高年齢者または特定の年齢層の雇用を促進する政策(国の施策を活用しようとする場合に限る)の対象となる者に限定して募集・採用する場合
求人募集で目にする例外事由のケース
よく目にするのは、定年年齢が60歳の会社において、60歳未満の人を募集するようなケース(例外その1)です。当たり前の話のように感じられますが、これが有期労働契約となると話は別で、法律違反となります。ちなみに、定年は60歳を下回ることはできません。
また、正社員募集で目に付くのは、例外その3の「長期勤続によるキャリア形成のための若年者等を対象」とするケースといえるでしょう。
これは雇用情勢の悪化により、特に就職の厳しい時期に正社員になれなかった年長フリーターやニートなどに配慮して設けられた例外事由です。また、日本は新卒一括採用、長期間雇用継続する中で、自社内でのキャリア形成を図るという雇用慣行があるため、それらとの調和を図るために設けられたルールともいわれています。
この場合は、「35歳未満」として、求人募集をしても違法ではありません。
ただし、
・対象者の職業経験を不問にすること
・新卒者以外の者について、新卒者と同等の処遇(※)にすること
を要件としており、期間の定めのない労働契約でなければなりません。
※同等の処遇とは、新卒者と同等の訓練・育成・配置・処遇等をもって育成しようとするものであり、給与が必ずしも新卒者と同じである必要はありません。
そのため、契約社員としての募集であったり、募集職種での経験が要件となっていたりする場合は、例外的事由には該当しないため、会社の求人募集の内容に問題があるということになります。また、「長期勤続によるキャリア形成のための若年者等を対象」としている場合は、下限年齢を設けることが認められていません。
なお、ここでいう「若年者」とは、35歳未満を想定していますが、必ずしも35歳と決まっているわけではなく、おおむね45歳未満を目安としています。
具体的なケースで見てみると、次の通りです。
【NGなケース】
× 40歳未満の人を募集(経理業務の経験を有する人)
× 30歳未満の人を募集(契約期間1年)
× 25歳以上35歳未満の人を募集
【OKなケース】
○ 35歳未満の人を募集(高卒以上、経験不問)
○ 45歳未満の人を募集(要普通運転免許)
※実務経験を要する資格でなければ、必要な免許資格を設けることは可能
求人募集に際して企業側が年齢制限を設ける場合は、その理由を書面や電子媒体により提示することが義務付けられています。求人スペースが限られていてうまく表示されていない場合でも、上記のポイントを参考に、正当な年齢制限であるかどうか見極めるようにしたいものです。
人事労務コンサルタント・社会保険労務士。米国企業日本法人を退職後、社会保険労務士事務所等に勤務。2005年3月、グレース・パートナーズ社労士事務所を開設し、現在に至る。女性の雇用問題に力を注ぎ、働く女性のための情報共有サロン「サロン・ド・グレース」を主宰。著書に「採用と雇用するときの労務管理と社会保険の手続きがまるごとわかる本」をはじめ、新聞・雑誌等メディアで活躍。
[nikkei WOMAN Online 2018年1月24日付記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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