野性爆弾くっきー 「いびつ」な芸で、笑いの新領域へ

お笑いコンビ「野性爆弾」のくっきーが、従来のお笑い芸人の活動に加えアートイベントなどに活躍の場を広げている。自らを「いびつ」な芸人と位置づけ、その振り切った笑いの表現が子どもを含めた幅広いファンを引き付ける。新たな領域を開拓した先に、海外進出も視野に入れる。

1976年3月12日生まれ、滋賀県出身。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属

くっきーの2017年を振り返ってみると、7月にはコンビの冠番組『野性爆弾のザ・ワールド チャネリング』がAmazonプライム・ビデオで始動。9月にはコンビとして初となる東京・国際フォーラムでの1500人規模の単独ライブを成功させた。

10月に東京・ラフォーレミュージアム原宿で開催されたアートの大型展示イベント「超くっきーランド×超渋谷展」は、3日間で1万人以上の動員を記録。LINEスタンプも公式ランキングで何度も1位をマークするなど、その人気ぶりは加速している。

上り調子のきっかけは「『めちゃ×2イケてるッ!』(フジテレビ系)のチェチェナちゃんかな?」と自己分析。チェチェナちゃんとは、ベビー服のようなかわいらしい衣装を着た「お風呂の妖精」で、傷ついた芸能人を癒やすために「水ビンタ」する(勢いよく水を打ち付ける)のが恒例のキャラクターだ。

「今までは、出版記念の握手会をやってもタトゥーの入ったゴリゴリのおっさんしかいなかったのに、最近はちびっ子たちも来るようになって。チェチェナちゃんのことを心優しいバケモンみたいに思ってくれてるようです」と笑う。

デビューは1995年。もはや共感を得ようなどと思っていない、突き抜けた芸風からは想像しにくいが、デビュー数年後には辞めようと思うほどの無力感を感じていた。

「イベントは客が入らない、テレビにも呼ばれない、もう地獄で。で、相方のロッシーに辞めようって言ったら、産卵ガメみたいに目をうるうるさせて『もうちょっと頑張ろう…』って言われて。相方が産卵ガメ状態になったら、じゃあやるかとなりますよね(笑)。だから今があるのは相方のおかげ」

舞台でウケ始めたのは90年代後半に関西ローカルの番組『オールザッツ漫才』(MBS)での活躍が認められるようになってから。「『オールザッツ』は、いびつな芸人がウケる流れがあったんです。ここでウケたことでライブでの見られ方が確実に変わりました」。その後、08年に東京進出、お笑い好きの間だけで知られる存在から、今や幅広い層にウケる芸人に。

「やっていることは昔から変わらないんですけど、いびつな回転がちょうど世の中とかみ合ったというか。だって今、NHKにも出てるんですよ?(笑) ただ、昔はTシャツ1枚で医者の役とかやっていたんで、それから比べれば、分かりやすくなったと思います」

振り切った笑いの表現はもはや芸術の域。「よその国とかに行ってみたいですね。言葉を取っ払ったらどうなるのか」と海外進出の野望もある。その芸風と同様、規格外の展開に期待したい。

(「日経エンタテインメント」1月号の記事を再構成 文/遠藤敏文 写真/中村嘉昭)

[日経MJ2018年1月26日付]