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恵方巻きはなぜ太巻き? にぎりや押しずしでない理由

トンカツ入りの恵方巻き

恵方巻きの中身も加速度的に進化している。「え、おいしい海の幸だけでなく肉も巻いちゃうの?」と驚いたのが、遠い昔のようだ。今や肉の恵方巻きなんて当たり前。その肉もステーキあり、トンカツあり、すき焼きあり、焼き肉あり、ローストビーフあり。「肉を」巻いた恵方巻きだけでなく、「肉で」巻いた恵方巻きもある。プロヴァンス風チキン恵方巻きなんて、恵方じゃなく、うっかりプロヴァンスの方角を向いて食べてしまいそうだ。

もちろん王道は海鮮モノ。最近の恵方巻きは中身をぜいたくに大きくするのが目立っているが、中でも海鮮モノの芳醇さは見ているだけでもワクワクする。ちょっと前までは「中身は七福神にちなんで7種類」という説がまことしやかに流布されていたものだが、最近は「日本には八百万の神がいる」とばかりに、7種類どころではない大きな太巻きが群雄割拠している。

「日本には八百万の神がいる」

すしではあり得ない「もちもち」とか「ふわっふわ」などのオノマトペが踊るスイーツ恵方巻きも、近年参入が著しい。サンドイッチ恵方巻きや、シューマイ恵方巻きなど、実物を見なければちょっと何言ってるかわからないような案件も増えてきた。先日は「チキンライスを薄焼き卵で巻いた恵方巻き」という、それ有名な洋食メニューですよね? と問い詰めたくなるようなものも発見した。まさになんでもありだ。そのうち義理チョコ、友チョコのように、義理恵方巻き、友恵方巻きなんて風習もできるかもしれない。そうなったらもう本物だ。

先日、私が大好きなあるすし屋さんに「イチオシの恵方巻きは?」とお尋ねした。すると「やはり魚屋ですから生ネタを食べて頂きたい。揚げたり、味付けしたりした物もおいしいですが、魚のおいしさを感じてほしいと思います。 だからおしょうゆはちょっとだけつけて食べてほしいですね。握りとは違う、巻きずしならではのいろいろな味を一度に口にするハーモニーもぜひ」と、胸がキュンとする回答をいただいた。今日からあたかも自分の言葉であるかのように使っていきたいと思う。

明太子・あん肝・いくら・イカ天・数の子・ツナ・カニサラダ・きゅうり・玉子・レタスで「コレステロール恵方巻き」(名古屋市 回転さかなや鮨 魚忠 則武本通り店)

新しいものには、必ず反発がある。実際、私の友人でもかたくなに「恵方巻きなんてものに心を許さないから」と拒み続ける人もいる。

しかしこういった行事食は、家の料理を作る人にとっては実にありがたいものだ。作り手にとってイチバンの悩みは常に「今日は何を作ろう」というものだ。冷蔵庫には何が残っているのか。スーパーでは何が安売りか。野菜は食べなくちゃいけないし、肉は解凍してないし、昨日もサラダだったし、毎日同じというわけにいかないし、アレは私が嫌いだし、コレは家族が嫌いだし……といういろいろな要素をスッキリ解決する方程式を作る作業、それが難しいのだ。

なので「今日は節分だから恵方巻き」と決まっているのは、すごくありがたい。献立について何も考えなくていい、というのは本当に気持ちが解放される。人数分を買ってくれば晩ごはんの用意が済むことの尊さは、何ものにも代えがたいのだ。したがって今後ますます恵方巻きは広く受け入れられ、節分の定番となって行くだろう。

恵方巻きの未来には、明るさしかない。

(食ライター じろまるいずみ)


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