大人の海外留学 リゾートや世界遺産の街へ「学ぶ旅」
「人生100年時代」という言葉に衝撃を受けた40歳以上の「大人」は多いのではないだろうか。ロンドンビジネススクールの教授であるリンダ・グラットンとアンドリュー・スコット両氏による共著「LIFE SHIFT(ライフ・シフト)」が話題となり、日本政府も「人生100年時代構想」を打ち出す昨今。長い老後を想定すれば生活を支える収入をどうするか、生きがいをどう見つけるかなど数々の課題が浮かぶ。そのために、自分の能力を高めて人生後半戦に備えることが必要だと考える人もいるだろう。
実際に人生半ばで、語学力をブラッシュアップしたり国際感覚を身につけようと勉強に取り組む人も増えているようだ。特に注目されているのが大人のための短期留学。ある程度まとまった休みを利用して、世界遺産の町やリゾートなどで生活したり、現地のカルチャーにふれたりしながら学ぶ、大人ならではの「学びの旅」スタイルが新鮮だ。特徴ある留学先をピックアップした。
地中海で英語留学、世界遺産の首都も注目 マルタ
これまで、英語を学ぶ代表的な留学先といえば米国、英国、オーストラリアなどだった。しかしニーズの増加とともに、これら以外の英語を公用語とする国も注目されている。
欧州で英語を公用語としている国は、実は英国以外にはアイルランドとマルタ(マルタ語との2公用語)だけだ。マルタは治安がよくて物価も安く(着席して飲むコーヒーが1.5ユーロ=200円程度)、しかもイタリアの南に位置する地中海のリゾート地で、大人の留学先として魅力的だ。
マルタへの大人留学は、日常生活を通じて英語を身につけるという、長めの旅行感覚の人が多い。欧州諸国からの留学も多いので国際感覚を磨くにもよいというわけだ。40校ほどある語学学校のうち日本人スタッフがいる学校も7校ほどあり、日本の私立中学や高校、大学の語学研修や修学旅行先としても選ばれているそうだ。
月曜から金曜まで1週間のプチ留学が最小単位だが、1~2日の体験入学的なプログラムを用意している学校もある。留学費用は1カ月20万円程度からとする学校が多い。
マルタは東京23区の半分ほどの大きさの国で、世界遺産である首都バレッタをはじめ、どこでも日帰りで遊びに行ける。イタリアのシチリア島へはフェリーで渡れる。いろいろな国から来ている人たちと交流したり、地中海のライフスタイルを楽しんだりしながら学べる。
手ごろな費用とリゾートライフが魅力 フィリピン・セブ島
費用が安く、マンツーマンの個人授業できめ細かく英語が学べるのがフィリピン。母語はタガログ語で、英語は第2公用語なので身につけるためのメソッドも整っている。また、卒業後はオンライン学習でのフォローが可能な学校もある。
フィリピン観光省によると「1週間からの短期留学も可能で、社会人留学のほか中・高校生の修学旅行先としても人気があり、年間100校を超える利用がある」という。
リゾートの魅力を併せ持つセブ島への留学例では、1日8時間8コマという集中レッスンをこなしながら、週末はビーチでゆっくりくつろぐことも。滞在が寮かホテルかによって異なるが、1カ月20万円前後からでみっちり個人授業が受けられる。
クリエーティブな刺激も大きな魅力 米国・ポートランド
米国には大学や大学院などの教育機関も含め、英語を学ぶところは星の数ほどある。その中で、地域に根差したクリエーティブなライフスタイルが近年注目を浴びているのがオレゴン州ポートランドだ。緑が多く、全米一住みやすいと評価される街は、ほとんどのエリアがバスやストリートカーなど公共交通機関で移動でき、治安もよい。
留学費用は1カ月25万円前後からと手ごろ。物価は近年上昇してきてはいるが、街の名物でもあるフードカート(屋台)を利用したり、飲食料金が割安になるハッピーアワー、ダウンタウンのミュージアムが夕方から無料になるファーストサーズデー(第一木曜日)など、安く楽しむ工夫もいろいろできる。
滞在はアパート形式の寮、ホームステイ、マンションのレンタルなど学校によってオプションはさまざまで、費用もそれにより異なる。英語はレベル別グループ授業がほとんどだ。
英語だけではなく、ヒップな街としていろいろなカルチャーを楽しめる点が魅力。75を超えるクラフトビールのブルワリー、街中でワインを醸造するアーバンワイナリー、サードウエーブと呼ばれる高品質のコーヒーショップ、旅行者でも楽しめるDIYショップ。いまだに1970年代のようなヒッピーカルチャーが残るエリアもある。
語学の習得にとどまらず、人生経験の幅をさらに広げてくれそうな刺激が得られたり、さまざまな生き方を学べたりする場所が、大人の留学先として今後さらに注目されそうだ。
(注)留学費用は、いずれも渡航費・私的費用を除く目安。時期や授業の形態によって幅がある。
世界有数のトラベルガイドブック「ロンリープラネット日本語版」の編集を経て、フリーランスに。東京と米国・ポートランドのデュアルライフを送りながら、旅の楽しみ方を中心に食・文化・アートなどについて執筆、編集、プロデュース多数。日本旅行作家協会会員。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。