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八重洲ブックセンター本店では、1階入り口の平台に『江副浩正』を陳列する

八重洲ブックセンター本店では、1階入り口の平台に『江副浩正』を陳列する

ビジネス街の書店をめぐりながら、その時々のその街の売れ筋本をウオッチしていくシリーズ。今回は、定点観測している八重洲ブックセンター本店だ。年明けから間もないせいか、王道のビジネススキル系や経営書にめぼしい新刊が乏しく、ロングセラーが版元や書店の販促策で、どうにか売れ筋になっているという。そんな中、年末からじわじわと売り上げを伸ばしているのは、リクルートの創業者を正面から取り上げた本格的な評伝だった。

元社員2人が実像に迫る

その本は馬場マコト・土屋洋『江副浩正』(日経BP社)。リクルートの創業者、江副浩正氏の生涯を追った評伝だ。2人の著者はいずれも1970年、創業から10年経ったリクルートに入社した元社員。土屋氏は定年まで勤め上げ、馬場氏は2年で広告代理店に転じ、クリエーティブ・ディレクターとして活躍した。江副氏という強烈な個性に引き付けられた体験が共通項だ。バブル期に起きた疑獄事件、リクルート事件の主人公として記憶に刻まれる江副氏だが、「この鮮烈な記憶が、起業家としての江副浩正の実像を覆い隠しているのかもしれない」と著者たちは言う。事件から30年、希代の起業家の実像を明らかにし、そこから「私たちを鼓舞し、思考と行動に駆り立てる何か」を探ろうとしたのが本書だ。

創業前の学生時代、東京大学新聞の広告取りバイトから始まる起業家人生は、魅力的なエピソードの塊だ。著者たちは次々に事業を立ち上げるプロセスはもちろん、独自の経営理念が生まれる思考過程まで、生い立ちにもさかのぼり丹念に掘り下げていく。「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」というリクルートを象徴するモットーは、経営学者ドラッカーの著作との出合いや就職情報誌編集の取材で様々な著名経営者にインタビューする中から生み出された。その創造と思考の過程を細かく跡付ける筆致に、著者たちの江副氏への強い思い入れがにじむ。

自らを変えた江副氏

一方で江副氏の陰の部分にも光を当てる。真ん中を過ぎたあたりに「江副二号」という章が出てくる。その言葉は「不動産やノンバンク事業に傾斜し、ニューメディア事業で疾走する江副のなりふり構わないワンマンぶり」に対して、社内でひそかに言い交わされ始めたものだったという。それまで社員たちは親しみをこめて「江副さん」と読んでいた。続く章からはリクルート事件で暗転する江副氏を描き、リクルートを去った後もなお自ら事業を起こそうとし、成功することのなかった長い晩年までも描き切る。「事件のイメージが強かったが、人物像が一新された。日本のベンチャーの先駆けとしての行動に心が揺さぶられる。読み物としてもおもしろい」と、ビジネス書を担当する副店長の木内恒人さんは話す。

旧刊やロングセラー目立つ

それでは、先週のベスト5を見ていこう。

(1)実践FinTech北尾吉孝著(日本経済新聞出版社)
(2)2018年版経営労働政策特別委員会報告日本経済団体連合会著(日本経団連出版)
(3)お金2.0佐藤航陽著(幻冬舎)
(4)ドラッカ-5つの質問山下淳一郎著(あさ出版)
(5)「言葉にできる」は武器になる。梅田悟司著(日本経済新聞出版社)

(八重洲ブックセンター本店、2018年1月14~20日)

1位はまとめ買いが入ってのランクイン。2位は毎年この時期に出る春闘の指針になる報告書で、周辺企業の人事・労務部需要が集中する。3位は、新しい経済のルールと生き方を説いた本。このところ、どの書店でも売れている。4位は、ドラッカー理論を中小企業経営者向けに実践的に解説した本。まとめ買いでランクインした。5位は、1年半にわたってベストセラー上位にいるロングセラー。2017年に同書店で一番売れたビジネス書で、そこを打ち出したところ、再び売れ行きに勢いがついた。6位以下にも旧刊を掘り起こした売れ筋が目につく。ベスト5には入らなかったが、紹介した評伝は9位に食い込んでいる。

(水柿武志)

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