障害者が特別でなくなる日 東京パラが20年に開く扉半世紀前に「東京パラリンピック」があった(5)

2018/1/30

「女子はロンドン、リオデジャネイロと2大会連続で出場を逃しました。強化するには男子の中でもまれるのがいいと考え、17年から男子と女子が混成チームを組めるようにしました。いま男子の健常者もそこに加えるかどうか検討しています。彼らは障害がなくても車いすに乗ってプレーします。互いに競り合えば、障害のある選手はもっと上達できる可能性があります」

――競技のルールを変えるのですか。

「もともと車いすバスケは障害の重さによって選手に持ち点を与えて、1チームが一定の点数以下に収まるようにするルールです。1チームの上限点数を今より少し上げれば、障害の有無に関係なくプレーできるようになります」

車いすバスケットボール連盟の登録会員が減っているという

――性別、さらには障害の有無も超えて一緒にプレーできるようになれば画期的ではないですか。

「健常者をチームに加えることには、もう1つ狙いがあります。実は車いすバスケットボール連盟の登録会員はこのところ減っていて、3、4年前には1000人いたのが今は700人を切っています。チームによっては、選手の高齢化から活動の継続が難しくなっています。そうしたチームのスタッフからは、『障害がなくても一緒にプレーして楽しみたい』という声もあがっています」

「医療技術の発達に加えて、交通事故や産業事故が減ってきました。これはとてもいいことなのですが、私たちのように脊髄損傷になる人は昔ほど多くありません。それに車いすバスケットのプレーヤーは厳しい練習で体が鍛えられているため、ほかの競技団体から引き抜きもあります。『うちに来たら、即戦力として日の丸を背負えるよ』と言われて、実際にいい選手が何人か流れています」

――境界がなくなることについて、障害がある選手からの反応はどうですか。

「一長一短があって、『車いすバスケは障害者が主体となるべきスポーツであって、そこに健常者を入れるのはいかがなものか』という慎重な意見もあります。健常の選手が入るようになると、(その能力を最大限に引き出すために)チーム構成が(障害が重くて)点数の低い選手と(健常で点数の)高い選手という(両極端の)組み合わせになる恐れがあります。その結果、中程度の障害を持った選手がはじかれてしまうというわけです」

「実際、健常の選手はかなり有利です。腰の力を使うことで、車いすに座ったまま、どんな体勢からでもシュートが打てます。それに対し、私たちのような脊髄損傷の選手は、車いすの後ろに背中をつけてからシュートを打たなければなりません」

――玉川会長ご自身としては、どういう意見ですか。

「いろいろな見方があるでしょうが、私としては競技力の向上を第一に考えたい。それに一つの競技としてみたとき、皆さんと一緒にプレーできることは魅力です。試合の後には観戦者による体験会を開いていますが、大人から子供までとても楽しんでくれています。同時に、車いすバスケットボール連盟としても会員を増やしたい。これらが波及効果となって、競技全体の活性化につながるといいですね」

◇  ◇  ◇

続いてのインタビューはマセソン美季さんだ。大学1年の時に交通事故で車いす生活に。1998年の長野パラリンピックで金メダルを獲得した後、米国に留学し、結婚にともないカナダに本拠を移した。国際パラリンピック委員会の教育プログラム「I'm POSSIBLE」(私にはできる)の制作、普及にも携わっている。

パラ観戦でもブーイングは自然

パラリンピック金メダリスト・マセソン美季さん

――カナダで長く生活してみて、日本の社会はどう見えますか。

「日本に帰ってくると、『そういえば私、障害者だったんだよな』と気づかされることが多いです。やっぱり日本のなかには、障害がある人に対する差別とか偏見、居心地の悪さがあるので、2020年の東京パラリンピックが、それらを払拭できるきっかけになるといいなと思っています」

インタビューに答えるマセソン美季さん

――どんなところが居心地が悪いのですか。

「日本で車いすを使うようになってから、自分の意思ではなくて、『できること』『行けるところ』を探して消去法で行動する癖がついた気がします。人に迷惑をかけないように行動しようとすると、『やりたいこと』『行きたいところ』を主張するのはわがままではないかと思えてしまうのです」

「たとえば階段昇降機を使うときや、エスカレーターをいったん止めて車いすで使えるように切り替えているときに、『車いすの方が使用中です。ご迷惑をおかけしています』とアナウンスされたりします。バスに乗るときに、座っていた人を立たせて座席を跳ね上げ、車いすのスペースを確保してもらうこともあります。障害のある人を特別視して、特別扱いでサービスを提供することが前提となっているところに、居心地の悪さの原因があると思います」

――逆に「特別扱いしない」というのは、どういうことでしょうか。

「障害のある人のためではなく、みんなが使いやすくすればいいのです。カナダの高層アパートでエレベーターを改造して大きくしたら、自転車をよく使う人やバンドのセットを持っている人が入居するようになったそうです。日本でも電車のなかに座席のない車いすスペースがあって、休みの日にはベビーカーを押すお母さんでいっぱいになりますよね。みんなあれば使うのに、作るとなるとけっこう文句が出て、『これだけあればいいだろう』となってしまいます」

――特別扱いしないといっても、車いすを押すなど、なにか手助けしたほうがいいときもあるのでは。

今こそ始める学び特集
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