週末レシピ 手作りコロッケ、「面倒くさい」克服せよ
週末レシピ、今週は「自分で作ればおいしいのはわかっているけど、面倒くさくて作りたくない料理ナンバーワン」の座をほしいままにしている、芋コロッケである。
コロッケはうまい。どう転んでもうまい。今まで生きてきて「まずくて喉を通らない」コロッケに出合ったことがあるだろうか? いや! そんなものはない。どんなに理想からほど遠くても、コロッケはコロッケであるだけでおいしいのだ。
揚げたてのアツアツは絶品。だが冷めてしなしなになったものにも別の魅力がある。ジャガイモにタマネギひき肉が王道だが、サトイモでもカボチャでも枝豆でもなんでも合う。ビールによし、ごはんによし、パンにもよし。そばやうどん店での人気も高い。老若男女にウケ、TPOを選ばない。逆に「コロッケだけは困る」といった場があるとしたら教えてほしいくらいだ。
こだわりどころはたくさんあるが、そこからはずれたとて「まずくて食べられない」レベルには決してならない。「男爵、ホクホク、肉少なめ、とんかつソース」が好きな人の前に「メークイン、しっとり、肉多め、ウスターソース」のコロッケを出してみるといい。「もっと肉が少なくて芋芋しいのが好きなんだけどぉ」とか言いながら、結局のところ全部平らげてしまうのではないか。「ウスターじゃないんだよなあ」などと文句言いながらも、ウスターソースでおいしくいただいてしまうのではないか。
それがコロッケだ。
どうやってもまずくなりようがない。それがコロッケなのだ。
しかも自分で作れば、こだわりをすべて反映することができる。
ジャガイモの品種は何を選ぶのか。ゆでるのか、蒸すのか。肉は豚か牛か合いびきか。ナツメグやブラックペッパーは入れるのか。かたちはどうするか。パン粉の細かさはどうか。自作ならコロッケのすべての要素に、いちいち自分の嗜好を組み込める。自分好みのコロッケは、自分で作るしかないのだ。
ところが「最高に自分好みのコロッケを作ろう!」という高揚感を、簡単にくつがえすものがある。それが「面倒くさい」だ。
ああ世の中にコロッケ作りほど面倒くさいものがあるだろうか。いやない。揚げ物というだけで面倒くさいのに、揚げるまでの工程を考えるとうんざりだ。コロッケのことを思えば、トンカツは素材に衣をつけるだけのちょろいもの。メンチカツですら、ひき肉を丸める手間があるだけの以下同文。辛苦はコロッケの足元にも及ばない。
疲れているときにオットが「簡単なものでいいよ。コロッケとか」と言ってきたら、殺意すら抱いてしまうだろう。コロッケ作りには面倒くささしかない。それでも、今週はコロッケを作っていこうと思う。読者のみなさんもぜひついてきてほしい。一緒にがんばろう。
【材料(コロッケ好きなら1人前)】
ジャガイモ 500~600グラム / タマネギ 4分の1個 / ひき肉 50グラム / 塩 小さじ1弱 / お好みでコショウ、ナツメグ 少量 / 小麦粉 / 卵 / パン粉
(1)ジャガイモに火を通す
(2)肉とタマネギをいため、ジャガイモと合わせる
(3)衣をつけて揚げる
今回はオット好みの「男爵ホクホク、肉タマネギはごく少量、まんまるボール型」を作るための分量だ。ジャガイモは他の品種に変えてもいいし、肉タマネギは各自の好みに合わせていくらでも増量していい。
まず「面倒くさい(その1)」。ジャガイモに火を通す。
洗って土を落としたジャガイモは皮をむかずそのまま鍋に入れ、ジャガイモの高さ半分くらいまで水を注いだら強火にかける。ジャガイモの大きさによってゆで上がる時間は全然違うので、時々ひっくり返したり、水を足したりしながらまめにチェックしよう。今回の男爵はひとつ200グラムと大きかったので、10分ごとにひっくり返すこと3回、35分かかった。
蒸し器を出すのが面倒でなかったら、蒸しあげてもいい。皮をむいて乱切りにしてからゆでると、もっと短時間で上がる。電子レンジならさらに時短になる。だがほんの数分間を惜しんだところで「コロッケの面倒くささ」が軽減するわけでもない。ここはオーソドックスに鍋に入れてゆでて行こう。ゆでている間にすることもある。
ゆでている間にすることは「面倒くさい(その2)」、タマネギとひき肉の準備だ。
タマネギ4分の1個はみじん切り。フライパンに油を少量入れ、タマネギをいためる。タマネギが透き通ってきたらひき肉を加え、ほぐしながらさらにしっかりいためる。完全に火が入ったら、塩で味をつける。好みでコショウやナツメグを加えたければ、このタイミングだ。
いわゆるお店みたいな味にしたければ、砂糖、ハチミツ、コンデンスミルクなどで甘みを加えるといい。「あ、これ食べたことある」と言いたくなるような味になるだろう。だが逆に言えば、甘みを加えない方が「よそでは買えない味」となる。どちらもありだ。
そろそろジャガイモがゆであがったころだろう。箸や竹串がすっと通るくらいになったら、鍋から引き上げる。熱いのでフォークに突き刺すか、タオルの上などで皮をむくと楽だ。ボウルに入れ、熱いうちにつぶし、肉とタマネギを混ぜたら、好きなかたちに丸めておく。
かたちは好き好きだが、お店のような薄い小判形は真ん中から割れてしまったりして、意外と家庭では扱いが難しい。卵形かボール型あたりが無難だ。そして無理に大きさをそろえようとする必要はない。中身はもう火が通ってるし、大小デコボコがあった方が家庭料理のとしての色気があるというものだ。思うままに丸めるといい。私はひとつだけ長靴型のを作り、ラッキーアイテムとするのが子供のころからの習慣だ。まあ、いつも自分で食べてしまうのだけどそれはさておき。
ここでご褒美の時間がやってきた。「味見」だ。
私は数ある味見の中で、コロッケの味見がいっとう好きだ。大好きだ。ついついボウルを抱えて、スプーンをねじ込み、パクパクと味見をしてしまう。もうこのまま「おいしいジャガイモ料理」として食べ始めちゃってもいいんじゃないか……と頭がクラクラするまで味見してしまう。
実際に何度もここでくじけ、皿に盛ったジャガイモの上にいためたパン粉を散らしただけの「断念コロッケ」にしてしまうことがあった。衣なしでブラジル風コロッケにしてしまうこともあった。だが今日はくじけない。コロッケはやはり、衣をつけて揚げてナンボなのだ。さあ、あと少しだ。
では最後にして最高に「面倒くさい(その3)」。衣に取り掛かろう。
ジャガイモのタネに小麦粉をまぶし、余分な粉を落として、卵、パン粉の順につけていく。さらっと書いてはいるが、泣きたくなるくらい面倒だ。わかっている。せめて小麦粉をサラサラタイプのものにしたり、卵をつける手と、パン粉をつける手をきっちり分たりすると作業が楽だし、手に衣がいっぱいついてどっちがコロッケだかわからない状態を防げる。
さあ、あとは揚げるだけだ。おっとその前に、食卓を整えよう。ビールは冷えているか。キャベツなどの野菜は皿に乗っているか。家中のソースは出ているか。大丈夫? 準備はできてる? 確認できたらよし、片っ端から揚げていこう。
油の温度は170~180度。フライヤーや揚げ物鍋じゃなくて、フライパンでも大丈夫。とにかく衣がキツネ色になればOK、食べられる。油を切ったら即お皿に乗せて、アツアツをほおばろう。片付け? そんなのはあとあと。多大な「面倒くさい」を乗り越えた人だけが味わえる、極上コロッケだ。熱いうちに思いきり堪能してほしい。
(食ライター じろまるいずみ)
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