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ヒットを狙え

ゲーム『地球防衛軍5』 おやじの職人気質で30万本

2018/2/2

PS4用ゲームソフト『地球防衛軍5』。2017年12月7日発売、PlayStation4、パッケージ版/ダウンロード版7800円(税別)(C)2017 SANDLOT (C)2017 D3 PUBLISHER
日経トレンディネット

PlayStation 4(PS4)用ゲームソフト『地球防衛軍5』(以下『5』、2017年12月7日発売)が好調だ。発売から1カ月余りで販売本数は30万本に達した。メジャータイトルとはいえない同作がこれほどヒットした理由は、おやじ世代を中心とする開発陣の強いこだわりが成功していることに加え、若い世代向けのマーケティングにも成功したからだという。

『5』は、「地球防衛軍」シリーズの6作目となるタイトルで、ディースリー・パブリッシャーの屋台骨を支えるヒット作だ。シリーズ1作目は、同社の低価格シリーズ「SYMPLE2000」の1タイトルとして、2003年に発売された『THE 地球防衛軍』。低予算で制作した、映画に例えるなら単館上映作品といった位置づけのタイトルだったが、そこから14年間続く人気シリーズに発展した。特に、前作『地球防衛軍4.1』(2015年4月発売)はコンスタントに売れ続け、2017年11月時点で22万本に到達する息の長い製品になった。

ディースリー・パブリッシャー上席執行役員の岡島信幸氏(写真:稲垣純也)

最新作『5』はその勢いのままにリリースした意欲作。「発売日までに13万本超のオーダーが入り、過去最高の出荷数での滑り出しだった。逆に店頭で消化できるのかが心配だった」とディースリー・パブリッシャー上席執行役員の岡島信幸氏は振り返る。

その心配をよそに、発売後も『5』は高い消化率で売れ続け、一時的に流通在庫がなくなる事態に見舞われた。「店舗での売れ行きが想定以上だった」と岡島氏はうれしい悲鳴をあげる。前作が約2年半かけて達成した数字をわずか1カ月足らずで達成してしまった。

2017年に発売したゲームタイトル(家庭用ゲームソフト)全体を見ても、トップ20に入る快挙だ。しかも、他のメジャータイトルのように10億円を超えるような開発費をかけている作品ではないのだ。

■特撮作品のこだわりがさえる

ヒットの理由は、こだわり抜いた開発姿勢への信頼と、新たな若年層顧客の獲得の2つにあるだろう。1つめの信頼は、ブレない開発陣の存在が大きい。第1作目から『地球防衛軍』シリーズを開発してきたスタジオ、サンドロットは中核メンバーが14年前から入れ替わっていない。

「みんな僕と同じアラフォーかアラフィフのおじさんばっかり」と岡島氏は笑う。「しかし、おじさんならではの職人気質というか、昔ながらのゲームの作り方を維持しているからこそ、このシリーズの面白さが損なわれない」と同氏は見る。

『地球防衛軍5』はサード・パーソン・シューティングゲーム(ふかんから見る3人称視点で戦うシューティングゲーム)で、地球を侵略するエイリアンと戦う一兵卒が主人公

近年のゲーム制作では、仕様書を重視する傾向がある。大作になればなるほど、関係者が増え、時には海外スタジオとのやり取りも発生するからだ。仕様書にまとめられた情報をベースにゲームを開発していくことになるが、その際、仕様書には書かれていないことまでをくみ取ってゲームを制作してくれるクリエイターは多くないという。

「昔から一緒に作ってきたクリエイターばかりだし、地球防衛軍の面白さってここだよね、というツボを理解している」と岡島氏はサンドロットに全幅の信頼を置く。一度作っては壊し、また作っては壊しという、効率性を重視する開発体制からすると無駄に思える作業を繰り返すことで、「地球防衛軍」ならではの面白さを追求できるという共通のビジョンがあるのだ。

そして、このような開発のこだわりが、「世の中のオヤジたちの共感を勝ち取っている」と岡島氏は胸を張る。例えば、地球防衛軍に登場するキャラクター、武器、メカ、怪獣(敵キャラ)などの表現方法は、往年の特撮作品の文法に則っている。大型怪獣との戦闘シーンで、援軍として登場する「EMC」は映画「ゴジラ」シリーズなどに出てくる「メーサー兵器」と同系列のデザインで、怪獣映画には欠かせないメカ。この辺りは、「特撮ファンの心をくすぐる」ポイントだ。このように、「地球防衛軍は分かっている」という信頼関係を、開発チーム内だけではなく、顧客との間にも構築してきたことが、ヒットにつながったのだろう。

■ストーリー開発のために発売延期

ただ、発売するまでは、岡島氏も薄氷を踏む思いだったに違いない。というのも、『5』の開発は当初の予定よりも約8カ月延び、販売計画にずれが生じていたのだ。

『5』の制作発表があったのは、2016年秋の東京ゲームショウ2016。発表直前までは2017年春のリリースで調整が進んでいたが、開発遅延が確実になり、2017年春から2017年夏に変更して発表した。だが、それも死守できず、結局2017年12月までズルズルと延期する事態になってしまった。

「ゲームシステムは完成していたが、ストーリーにかかわる部分の開発が遅れてしまった」と岡島氏は話す。こだわり抜いた「特撮作品のような演出」を地球防衛軍のコアファンに向けて開発するだけではなく、「地球防衛軍を知らない人でもすんなりと楽しんでもらえるようなストーリーにしたかったし、クリエイターはそれを実現してくれた」(岡島氏)という。

これまで地球防衛軍シリーズは『1』と『2』、『3』と『4』(+『4.1』)でそれぞれストーリーが完結する構成だった。新作『5』では、初めてエイリアンが攻めてきた地球という設定に戻し、新シリーズの再々出発とした。「ある日、巨大円盤に乗ったエイリアンが地球に攻めてきた瞬間のドキドキ感を(初めて遊んだ人にも)楽しんでもらいたい」(岡島氏)というのが狙いだ。

ゲームの世界観、ゲームの設定、主人公の操作方法、主人公がすべきこと(ミッション)など情報がふんだんにありすぎると、ゲーム初心者には苦痛で、面白くないゲームとレッテルを貼られてしまう。だから、初心者が徐々に楽しみを感じて、ゲームを進めてもらえるストーリーを作れることが成功の鍵になる。

実際、『5』をプレーしてみた。全くの初心者が置いてきぼりになる可能性はかなり低く、逆に導入部分から素直に引き込まれたというのが感想だ。ゲームを始める前に操作方法を勉強するためのありきたりなチュートリアルが『5』にはない。

地下基地に配属になった民間人(主人公)が先輩社員に連れられて基地を案内してもらっていると、基地内がざわつき始め、徐々に戦闘態勢になっていく。基地に侵入してきた敵から逃げるために身を守らざるを得なくなる――というストーリーを追いながら、操作方法が自然と身につくからだ。一連のストーリーを見ると、開発に時間がかかった理由もうなずける。

■若年層に訴求、小売店で売れる

初心者でも楽しめるストーリーにこだわったことで、もう1つのヒットの要因である若年層の新規顧客の獲得にも成功した。

『5』のプロモーションのために、Twitterやニコニコ動画の生放送番組などを活用したマーケティングを2017年2月から始めた。ゲームの最新情報を徐々に出しつつ、『5』の面白さをまずは見て理解してもらおうとしたのだ。

『5』のプロモーション用に放送した番組

生放送では人気女性アイドル声優を起用し、あえて下手な実況プレーを見せることで、ハードルの低さをアピール。「生放送のコメントを見ていると、かなりの割合で若者が食いついてくれていることが分かった。オヤジにとって面白いと思ってもらえるゲームを作ってきたが、若者にだってそれを面白いと思ってもらえている」と岡島氏は力説する。

事実、『5』が売れたのは小売店の店舗が突出しているという。クレジットカードが必要なネット通販サイトではなく、小売店で現金での販売量が多かったと同社は見る。これは、大人よりも、若年層が自分のお小遣いで購入している証左だというわけだ。コアファンとの信頼に支えられた『地球防衛軍5』は、生放送などを通して面白さを伝えることで、若年層も掘り起こし、最高の船出となった。

次回作に対する期待度も高まった。次のナンバリング作である『6』の構想については、「まだ話せない」とする岡島氏。直近でそのヒントとなりそうな作品が、東京ゲームショウ2017の直前に発表した『EARTH DEFENSE FORCE: IRON RAIN』だ。これまでの『地球防衛軍』シリーズとは別のラインアップで、ストーリーや設定、テイストなどをすべてゼロから再定義した新ブランド。開発は、新たにユークスが担当する。

「ユークスの担当クリエイターはすべて若手。今の若者が従来のタイトルをモチーフにどのように料理するのか、とても楽しみだ」と岡島氏は期待を寄せる。これまでの地球防衛軍シリーズではトライできなかった新しい遊び方も企画しているという。「2000円という低価格商品で始まったこのシリーズがここまで成長できたことは幸せだし、まだまだやれることはたくさんある。ベテラン、若手問わずクリエイターたちと自分たちが楽しいと思えるゲームを妥協しないで作っていきたい」と岡島氏は話した。

(日経BP社コンテンツ企画部 渡辺一正)

[日経トレンディネット 2018年1月10日付の記事を再構成]

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