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一澤信三郎帆布 「時代遅れ」貫き、ファンが急増

ロングライフデザインの秘密(下)

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NIKKEI STYLE

日経デザイン

「ロングセラーはデザインの良さだけでなく、作り手側の商品に対する愛、ストーリーこそが大切」と語るのはロングライフデザイン活動家のナガオカケンメイ氏。第1回のカルピス第2回のスーパーカブに続き一澤信三郎帆布を取り上げる。

一澤信三郎帆布
 一澤信三郎帆布の前身「一澤帆布」は、1905年に京都で創業。初代の一澤喜兵衛さんが西洋洗濯と呼ばれていたクリーニング店を営みながら、手に入れたミシンで道具入れを作るようになったのが始まりだ。現在の代表は、4代目の信三郎さん。3代目の信夫さんとともに一澤帆布を成長させていった。だが、信夫さんが死去した後、一澤帆布の代表権をめぐる騒動に巻き込まれてしまう。代表権を失った信三郎さんは職人全員とともに「一澤信三郎帆布」を立ち上げ再始動。その後、再び起こした裁判で主張が認められたため、一澤帆布は信三郎さんの元に戻った。現在の一澤信三郎帆布は「信三郎鞄(正式には「革」偏ではなく「布」偏)」「信三郎帆布」「一澤帆布製」の3ブランドで展開。ネームタグも3種類ある。

ナガオカケンメイの目

一澤信三郎さんがどっしり見えるのは「真っ当」の貫き方だと思いました。人間が人間のために作る道具としての帆布バッグ。だからパソコンは使わない。規則正しい勤務の職人だからいつでも修理ができる。知らない人に売らせない。いつでも「もう一度同じもの」をつくれる。つまり型をつくらないから廃番がない。無理やり商売しようとしていないから新型を作る時期が決まっていない。当然、架空の「ターゲット」を設定したものづくりなど存在しない。そのデザインを起こすためだけの職能であるデザイナーがいない。そして、外にデザインを依頼したりもしない。材料も道具の修理も自分たちの納得した自分たちだけのものを確保してつくる。京都から外に出ない。結果、京都を代表するブランドとなった。

信三郎さんは「値打ちのあるもの」という表現をよくしていました。それは「使ってみないとわからない」そうです。「今のものって『新品の時が一番いい状態』と言うでしょ、だから化学繊維とか見栄えのする素材を使う。それが使い込まれると『劣化』でしょ。値打ちのあるのものは、使い込んでいくと『味』になります」。だからこそ、ちょっとした気づきによる「改良」を怠けないそうです。その積み重ねでしか「値打ちのあるもの」は作れないということでした。値打ちのあるとは「使い込める丈夫なもの」なのだと思いました。

信三郎さんに真面目な質問をしても「まぁ、しんどいだけでしょ、それ」とか、「みんな元気でにこにこしてたらええやないかね」と、ことごとくかわされました。やがて、聞いているこっちが「ま、そんなこと、どうでもいいか」(こういう商業的観点の質問自体がそもそも信三郎さんには当てはまらない)と、自己反省してしまうのでした。本当にやらないといけないことについて、考えさせられましたし、本当はやらなくてもいいことにも、考えさせられました。

「ネットで販売なんてしたら、人がいるやん」「ずっとパソコンにへばりついてるスタッフが必要になるやんか」「卸売りなんてしたら、流通経費がかかるやん。買いに来てもらったらそれでええやん」……。僕らはあたりまえのように疑うこともしなくなっていることだらけなんだろうなぁと、思うのでした。

「徹底的に時代に遅れること」を信念としていました。とはいえ、完全に時代を見ていないわけではないのです。時代をどこで見るか。信三郎さんは「メディア」や「社会の流行」でみるのではなく、店頭にくる自分のお客さんから見ていました。だから、ファンが増えて行くんだなぁとも、思いました。いい取材でした。

ナガオカケンメイ
 デザイン活動家。時代を越えて長く続くロングライフデザインの研究所「D&DESIGN」(http://danddesign.co)を主宰。D&DEPARTMENTデザインディレクター。

以下では「つくる」「売る」「流行」「つづく」の4つの観点から一澤信三郎帆布のロングセラーの秘密を解き明かす。

つくる:架空のターゲットのために作らない

帆布とは、木綿または麻の糸を平織りにした厚地の織物。丈夫な上、天然素材なので経年変化も楽しめる。そんな帆布で職人用のかばんを本格的に作り始めたのが、2代目の常次郎さんだ。大工や左官職人の道具入れや薬屋、牛乳屋、酒屋の配達袋など、それぞれの用途に合わせて作り、さらに使い手の要望に応えながら改良もしていたという。

例えば、牛乳屋の配達袋の場合、牛乳瓶がきっちり収まるように底は円形。持ち手は、交換可能なロープにした。牛乳瓶をぎっしり詰め込み自転車のハンドルにぶら下げて使われるため、持ち手が傷みやすいからだ。また、牛乳がこぼれても袋の中に溜まらないように、底にはハトメの穴を1つ開けていた。さらに、自転車に当たって擦れる部分には生地を二重にするなど、牛乳屋にとって至れり尽くせりのかばんだった。

知らない誰かのためではなく、あくまでも使う人のことを考えて職人が工夫しながら作る。どのかばんもファッションとして誕生したのではなく、目的から生まれたもの。いわば、お客さんと従業員がデザイナーという考えだ。そうした考えは今でも一澤信三郎帆布に根づいている。

その後、業務用のかばんを店頭に並べてみたら、一般の人たちにも売れ始めた。職人のために作った余計な装飾のない機能的なデザインは、用途を限定しない魅力として受け入れられたのだ。そこから今度は、一般の人たちの要望に応えながら、改良を重ねて発展させている。

売る:直営で自分で売る

一澤信三郎帆布は、創業当時から製造直売。直営店は京都に1店舗のみ。卸売りもせず、自分たちで作ったものを自分たちで販売している。「帆布の匂いのする店で、直接触りながら気に入ったものを買ってもらうのが一番いいと思ってる」と信三郎さんは言う。職人が一つずつ丁寧に手作りしたものを、そのまま店頭に並べて売るので、流通コストや余計な人件費もかからない。だから、適正価格で販売できる。安く売るために材料費を削る必要もない。「ご飯は1日3回しか食べられへんやろ。ぎょうさん儲けることよりも、みんなが機嫌よく働けるほうが大事」

ホームページはあるが、オンラインショップはない。カタログを見て通信販売することは可能だが、カタログを取り寄せる場合も郵送のみ。支払いも振込用紙で振り込んでもらい、それから2カ月以内に配達するという。思い立ったらすぐ買えて、早ければ当日届く――そんな現代のスピード感とは真逆。「物も人もお金も瞬時に国境を越えるから、自分たちから越えなくてもあかんことない」という考えだ。実際のところ、海外からの問い合わせは少なくない。別注品のオーダーもある。最近もアメリカのビジネススクールの先生と生徒30名が見学に訪れ、イギリスの雑誌でも紹介されたという。

流行:自分の店に来るお客から流行を感じ取る

新作会議は月に1回。誰でもアイデアを出すことができる。大切なのは「こういう用途でこの人に使ってほしい」「こんなのあったら便利だな」といった作り手個人の『思い』だという。来店客と直接話しながら、流行やニーズを感じ取る。「ここにポケットがあったら」「こういう商品ないですか」といった声も、新作のアイデアに生かされ、ロングセラーの定番品も年々進化させている。「何か新しいものを作ろうと意気込んだところで、面白いものはできへん」と信三郎さん。

また「使ってみなければ、値打ちがあるかどうかは分からない」と、試作品はアイデアを出した本人はもちろん、同僚や家族に使ってもらう。生産はすべて社内で行っているので、試作品の製作も、試作品の不具合を改善して作り直すことも容易にできる。焦って製品化することはなく、じっくり作る。完成まで1年ほどかかることもあるという。

リピーターも多く、修理の依頼は月100件ほど。修理賃は実費だが、新品の半額以上になりそうな状態の場合はお断りすることもある。だが、それでもいいからとお願いされることも珍しくない。修理を担当するのは、同じ型の新品を作っている職人だ。修理をすると、傷みやすいところが分かり、縫い方を工夫するなど改善にもつながっている。

つづく:京都から出ない

一澤信三郎帆布で使用している帆布は、一澤信三郎帆布用に織ってもらったオリジナルだ。色については、帆布をかばんに加工して使うことを前提に、色あせしにくいように生地の芯まで染めてもらっている。縫い合わせる糸や縫い代を覆うテープも厳選した天然素材で、ボタンやハトメ、ファスナーなどの金具は、さりげなくブランド名やロゴを入れた特注品もそろえている。素材から作っているため、信三郎さんは「廃番や廃色という概念がない」と言う。店頭に並んでいない商品も、作ろうと思えばいつでも作れるからだ。

コンピューター制御のミシンは使わず、戦前のミシンも現役。「今の時代はコンピューターや機械に人間がコキ使われてる。うちはまだ、かろうじて機械を使っている」と信三郎さん。その考えはオンラインショップを立ち上げないという考えにも通じるものだ。

別注品のオーダーも多い。かばんはもちろん、カフェの座席下に置く荷物入れやセンター試験の問題用紙を入れて運ぶための袋なども作った。地元の学校や幼稚園などからランドセルやかばんの注文も入るという。小ロットの注文であれば、細かいオーダーにも応えられる。大量生産していないからこそ、実現できることはたくさんあるのだ。

ロングライフデザインの秘密
上 水玉模様で95年 カルピスの思い、時代超えて継承
中 奇跡の乗り物スーパーカブ 実用の美、磨き続けて60年
下 一澤信三郎帆布 「時代遅れ」貫き、ファンが急増

(日経デザイン 西山薫)

[日経トレンディ2017年12月号の記事を再構成]

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