風邪のせきに確実に効く市販薬 実はない?
風邪をひいてせきが出始めると、長引くのではないかと心配になります。せきが続くと生活全般に悪影響が及ぶため、せきを鎮めるための市販品(せき止め薬やドロップなど)を買い求める人が少なくありません。しかし、米国のせき治療の専門家たちが検討したところ、市販品の中にせきに確実に効くものはないことが明らかになりました。
風邪のせきに苦しむ6500人のデータを検討
米Creighton大学のMark A. Malesker氏らによって構成された専門家委員会は、現在米国で使用可能な薬とそれ以外の治療法(民間療法)について、せきの症状の継続期間を短縮することを示す質の高いデータ、または、重症度を軽減することを示す質の高いデータがあるかどうかを検討しました。目的は、2006年に米国で発表された、風邪関連のせきの管理に関するガイドラインの改訂に向け、最新情報を得ることにありました。
専門家委員会は、風邪関連のせきに苦しむ患者を対象に、各種治療法の有効性と安全性を調べた無作為化試験[注1]の中から、条件を満たすものを選出し、各治療法の効果を比較しました。
条件を満たした試験には、成人・小児を合わせて約6500人の患者のデータが含まれていました。評価対象となった薬剤は、せき止め薬、抗ヒスタミン薬、去痰薬(痰を出しやすくする薬)、非ステロイド性抗炎症薬(アスピリン、イブプロフェン、ロキソプロフェンなど)、アセトアミノフェンなどで、薬剤ではないもののせきに効くとして利用されている治療には、鼻洗浄、胸に塗るメントール入りせき止め、せき止めドロップ、はちみつ、アガベシロップ、チキンスープなどがありました。
どの研究も小規模で、いろいろな面に偏りが認められたため、同様の研究のデータをまとめて分析することは多くの場合不可能でしたが、委員会は、現在利用可能な最善のデータに基づいて、次のような判断を下しました。
[注1] 無作為化試験:参加者を条件の異なる複数のグループにランダムに割り付けて、その後の経過を比較する臨床試験のこと。無作為化比較試験、ランダム化比較試験ともいう。
(1)成人と小児の風邪関連のせきに対する、市販のせき止め薬や風邪薬、去痰薬、抗ヒスタミン薬などには、使用すると症状が軽減する、または消失することを示す確かなデータがない。よって、これらの薬のせき症状に対する使用は推奨しない。
(2)成人の風邪関連のせきに対する、非ステロイド性抗炎症薬の使用は、有効性を示す確かなデータはないため推奨しない。
(3)1~18歳の患者の場合、はちみつは、「治療なし」、「ジフェンヒドラミン」(日本で市販されている一部のこども用せき止め薬に含まれている成分)、「偽薬(プラセボ)」に比べ、症状継続期間の短縮に役立つ可能性がある。
(4)18歳未満の患者は、コデインを含むせき止め薬や風邪薬を使用しない。これは、呼吸困難を含む重篤な有害事象が発生する可能性があるため。
なお、3について同委員会は、「はちみつは1歳未満の乳児には与えるべきではない」と注意を促しており、日本の厚生労働省も同様の呼びかけを行っています(1歳未満の乳児がはちみつを食べると乳児ボツリヌス症にかかることがあるため)。
また、4について日本では現在、12歳未満にはコデインを使用しないよう注意喚起していますが、コデイン類であるジヒドロコデインリン酸塩を含む小児用せき止め薬は市販されています。これら、コデインを含む薬剤について厚生労働省は、2019年から添付文書の「禁忌」の項目に「12歳未満」を加えることを製薬会社に求めています。
詳しい結果は、CHEST誌2017年11月号に掲載されています[注2]。
[注2] Malesker MA, et al. Chest. 2017 Nov;152(5):1021-1037. doi: 10.1016/j.chest.2017.08.009. Epub 2017 Aug 22.
医学ジャーナリスト。筑波大学(第二学群・生物学類・医生物学専攻)卒、同大学大学院博士課程(生物科学研究科・生物物理化学専攻)修了。理学博士。公益財団法人エイズ予防財団のリサーチ・レジデントを経てフリーライター、現在に至る。研究者や医療従事者向けの専門的な記事から、科学や健康に関する一般向けの読み物まで、幅広く執筆。
[日経Gooday 2018年1月17日付記事を再構成]
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