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サッカー観戦は3Dでピッチから? 迫るボールに迫力 キヤノンが「自由視点映像」技術、ただし40秒の制作に1日必要

2018/1/25 日経産業新聞

キヤノンが作った3Dの自由視点映像。ピッチに立っているような臨場感がある(Youtubeの「Canon Imaging Plaza」のスクリーンショット、動画は文末の関連記事から)

 キヤノンはサッカーなどの試合で映像の視点を3次元(3D)で動かし、自分があたかもスタジアムを自由に飛び回り、フィールド内に入り込んで選手と同じ場を疑似体験できる「自由視点映像」技術の開発を進めている。30台ほどのカメラで上部から撮影し、3D映像に加工する。デジカメ市場の大きな成長が見込めないなか、新しい映像の楽しみ方を提案するソリューションビジネスに育てようとしている。

 2017年11月、千葉市の幕張メッセで開催した放送機器の国際展示会「インタービー2017」。キヤノンのブースで来場者の関心を集めていたのが、自由視点映像の体験ブースだった。3D化した実際のサッカーの試合を大画面シアターで見ることができ、順番待ちの行列ができていた。

 公開した3D映像は川崎フロンターレ対ガンバ大阪のJリーグ公式戦。選手の横でまるで一緒に走っているかのような映像や、ボールの動きに合わせて上空からの視点が変化するなど、通常のテレビ中継とは全く異なる臨場感があった。

 川崎フロンターレの選手がゴールを決める瞬間は、ボールが視聴している自分に向かって本当に飛んでくるようで、思わずよけそうになる。

 キヤノンはこれまでサッカーで3試合、ラグビーで2試合、自由視点映像を実証実験した。一部の映像は動画配信サイト「ユーチューブ」で公開し、簡単に体験できる。

30台ほどのカメラで上部から撮影。3Dに加工したうえでヘッドマウントなどで視聴する

 撮影はサッカー場を取り囲むように設置した高解像度「4K」ネットワークカメラを数十台使う。専用ソフトでカメラを制御し、ドリブルやパス、シュートなど試合中の選手の動きを様々な方向から撮影する。

 撮影した画像データをもとに3D空間のデータを作成。その3D空間の中で「仮想カメラ」を自由に動かすことで、好みの視点の映像を映すことができる。現在は40秒の自由視点映像を制作するのに約1日かかっているが、制作時間を短縮できるシステムの開発を急いでいる。

 映像は例えば仮想現実(VR)コンテンツに利用できる。VR用ヘッドマウントディスプレー(HMD)を装着すれば臨場感がある映像体験ができる。インターネット動画配信で、好きな選手を追いかけながら視聴することもできる。19年開催のラグビーワールドカップ、20年の東京五輪で活用できるように実証実験を続けている。

 自由視点映像技術は他社も開発を急いでいる。米インテルは同技術を持つイスラエルのリプレイ・テクノロジーズを16年に買収。KDDIも短時間で自由視点映像を生成する技術を持つ米4Dリプレイ社(カリフォルニア州)に17年に出資した。

 背景には、スマホやVRなど自由視点映像を楽しめる環境が整い、大容量映像を高速で送れる次世代通信「第5世代(5G)」の実用化が近づいていることがある。ネット動画配信や「インスタグラム」などSNS(交流サイト)で映像や動画を楽しむプラットフォームが広がり、コンテンツ消費量は爆発的に増加している。

 カメラ市場が成熟するなか、キヤノンは自由視点映像の撮影システムの販売や、映像コンテンツの制作請け負いなど、収益を稼げる新たなビジネスモデルの構築を検討していく。

◇  ◇  ◇

■カメラなど単体販売からの脱却めざす

 スマートフォンやクラウドの普及で、キヤノンの主力事業のデジカメや複合機はこれまでのように稼ぐことが難しくなっている。同社は医療機器や監視カメラ、商業印刷など新規事業の育成を急いでいる。映像撮影技術を生かした医療機器分野では16年に6655億円を投じて東芝メディカルシステムズを買収するなど、M&A(合併・買収)を積極化。商業印刷では10年にオランダのオセ、15年に監視カメラ世界首位のスウェーデンのアクシス・コミュニケーションズを3337億円で買収した。

 ただM&Aは相乗効果の発揮や買収額に見合った収益を稼ぐことが難しい側面もある。「競争力の源泉」として御手洗冨士夫会長兼最高経営責任者(CEO)が重要視するのが研究開発(R&D)だ。

 キヤノンの2016年12月期の研究開発費は3023億円で、売上高の8.9%を占める。07年以降8%を下回ったことがなく、17年12月期も8.1%の見通し。御手洗会長は「IoT」は「インターネット・オブ・シングス」とともに「イメージング・オブ・シングス」でもあると強調する。

 長年培ってきた光学技術やセンシング技術を生かした新たなソリューションビジネスに注力している。自由視点映像のような娯楽向けのほか、自動運転、産業ロボット、ドローン(小型無人機)など活用先は幅広い。

 何度も巨額赤字に追い込まれたエレクトロニクス業界に比べ、精密機械各社の構造改革は遅れているとの見方がある。カメラなど機器の単体販売から、「IoT」時代に合ったビジネスモデルに転換していく必要がある。

(斉藤美保)

[日経産業新聞2018年1月1日付]

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