『教えてもらう前と後』 「知る喜び」が視聴者を刺激
MBS・TBS系のバラエティー『教えてもらう前と後』が硬派な内容ながら視聴率が好調だ。報道などでよく目にする1枚の写真やVTRを「世界がガラリと変わる」を合言葉に専門家が独自の視点で解説。知ることに喜びを感じる視聴者に刺さっている。
2016年12月と、17年2月の2回の特番を経て、同10月からレギュラー化された。初回放送では天皇家のお金事情や、北朝鮮の軍事技術、ドナルド・トランプ米大統領の赤いキャップの秘密、横田基地の制空権などを取り上げ、視聴率は12.2%(ビデオリサーチ関東地区調べ)と好調なスタートを切った。
毎日放送(MBS)プロデューサーの林智也氏は「情報バラエティーは百花繚乱(りょうらん)。でも、切り取り方によっては『前のめりで見てしまいませんか?』という提案をしたかった」と語る。
例えば、ムンクの「叫び」という絵画は口元に手をあてているのではなく、耳をふさいでいる絵であり、さらに、キャンバスに薄く残っている「この絵は狂人にしか描けない」という殴り書きがムンク本人のものだという一説がある。「そういう知識を専門家に教えてもらうことで、同じ絵でも見る目が変わりますよね。特番の1回目に池上彰さんに16年の出来事の決定的瞬間を解説していただいたときも<知のぜいたく>だと感じたんです」(林氏、以下同)
放送時間は火曜午後8時。主婦層を中心とする枠でハイブローなテーマを放送するのは挑戦でもあるという。「もっとポップで取っ付きやすいものをという選択肢も検討するのですが、会議では『脱・パンケーキ』と言っていて(笑)、こちらが勝手に女性が好きそうだと思っていることに寄せるのはやめようと」
メインMCは滝川クリステル。知識を得たときに出る喜怒哀楽と度胸の良さが魅力だとのこと。「シャープなイメージが強いかもしれませんが『そういうことなの?』とぱっと表情が明るくなったり、真相を知って怒ったり。<知のビフォーアフター>をコンセプトにしているので、表情の変化が非常にいいなと感じています。あとは、肝が据わっていて頼もしい。分刻みで動いていた小池百合子さんにインタビューをしたときは、時間がなくてスタッフ全員が焦るなか、汗ひとつかかずきっちりと質問をしてくれました」
アートやサイエンス、ファッションなども取り上げたいが、どうしてもバラエティーというにはハードな内容になりやすい。そんなとき、レギュラー出演している博多華丸・大吉が視聴者目線の本音を言って和ませるなど、親しみやすい距離感を保つのに大きな役割を果たしている。
スタジオゲストには分からないことは「ちょっと待って」と遠慮なく言ってほしいと伝えている。「華大さんの面白さと併せて、ゲストの発言が視聴者との呼吸になると思っています。はっきりと意見が言える方、そしてアスリートなど世界を知っている方に出演していただいています」
MBSの東京制作の番組は『プレバト!!』や『林先生が驚く初耳学!』など知性を感じるものが多い。「知ることの喜びを待っている人たちに刺さるものを作っていきたいです。そして、解説してくれる専門家に『前と後』なら出演してみたいと思ってもらえるような番組を目指します」
(「日経エンタテインメント」1月号の記事を再構成 文/内藤悦子)
[日経MJ2018年1月19日付]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。