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ヒットの原点

「独裁」は悪いですか 龍角散を再生した音大卒社長 ヒットの原点 龍角散(下)

2018/1/23

――社長が新規事業も提案するんですか?

「きっかけは社員からのこともありますが、新しいビジネスはほとんど私が提案しています。『龍角散ダイレクト』を発売するのも、『クララ』を廃止するのも、提携先との契約を解消して自社でのどあめを手がけることを決めたのも私です」

新商品の開発プランは自ら提案するという

「龍角散に入社する前は三菱化成工業にいましたから、大企業との違いも理解しています。大きな会社なら、社長が全体を見るのは無理でしょうから、セクションごとの情報がタイムリーに上がってくる仕組みをつくる。当社は100人規模(2018年1月現在の社員数は103人)ですから、報告を待つより自分で行った方が早い。大手上場企業の経営者と話していると、1人あたりの生産性は当社の方が高かったということもよくあります」

「中小企業が大企業に勝るのはスピード。大企業が変わるのは大変ですが、こちらはパッと変えられる。世の中の変化に対して迅速に動けるから、高い生産性を維持できる。だから、あえて100人規模以上にはしていません」

■「音大出の社長に何ができるか」という空気を跳ね返した

――95年に社長に就任してから、2018年で24年目を迎えます。途中、改革に反対する古参役員の抵抗にもあったそうですが、最終的に売り上げを伸ばしたのは、服薬補助ゼリーの開発者で執行役員の福居氏をはじめ、藤井社長が登用した社員が奮起した結果なのでしょうか。

「そんなに甘いもんじゃありません。今はだいぶ社内も平和になりましたが、日々、怒鳴り合いの連続でした。誰もすんなり言うことを聞くわけがない。入社前にサラリーマン経験を積んだとはいえ、『音大出の社長に何ができるか』とバカにしていた古参の役員ばかりでしたから」

「その時にいろいろ考えたんです。当社は新薬を開発できるような実力はないし、かといって、食品メーカーさんのようなマーケティング力もない。ではどうするかといえば、医薬品メーカーとしてのステータスを保ったまま、生活者寄りの会社になる。それがいいポジショニングだと判断しました。福居が開発した服薬補助ゼリーは、そこにぴったりはまった。大手製薬会社はそこまで手を伸ばしません。一方で、大手食品メーカーさんのなかには、同じようなことを考えた人はいるかもしれませんが、安全性や信頼性という問題を考えると、なかなか発売には踏み切れない。あれは医薬品を作る技術とそれに対する信頼がないと出せない商品であり、医療と食品の狭間を突いた商品です」

「経営的なことをいえば、服薬補助ゼリーはそれほど利益が出るわけではない。それでも、私は構わないと思いました。介護現場でみなさんのお役に立っていますと言えれば、会社のステータスは上がる。少なくとも目の前で救われる命があるだろうと。それで十分だと判断しました」

「介護現場に行ったら、お年寄りがおかゆに薬をかけて食べているわけですよ。恥ずかしながらそんな現実を知らなかったし、驚きました。当時は経営者になりたてでしたけれど、医療の目的とは何かを深く考えさせられました。江戸時代、秋田の藩医が病に苦しむ主君を助けたいと思ってつくったのが龍角散のルーツですから。その精神は今も生きている。そう考えると、当社が取り組まなくてはならないのは患者さんのQOL(クオリティー・オブ・ライフ)の改善。最後までおいしく食べていただきたいなと。それと、医療経済にも貢献したい」

「みなさんよくCS(顧客満足)が大事だと言いますが、私はCSだけではないと思っています。医薬品メーカーがCSだけを追い求めると、食べても太らない薬がいいとか、危険ドラッグ的なものに向かってしまう。消費者が欲しいものつくるのが、当社の開発の目的ではないのです」

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