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転ばぬ先の不動産学

相続節税、借金だけではできない 不動産賃貸も視野 不動産コンサルタント 田中歩

2018/1/24

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「借金をすれば相続税が安くなる」。こんなフレーズを一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。しかし、相続財産のほとんどが現金などの場合は借金ではなく不動産を取得したほうがよいケースがある一方、相続財産が不動産しかない場合は借り入れで賃貸物件を建てて運用したほうがよいケースもあります。今回はその見極め方についてお話しします。

■借金しても正味の遺産額は変わらない

相続税は「プラスの財産」から「マイナスの財産」である借入金などの債務を差し引いた「正味の遺産額」から、基礎控除(3000万円+600万円×相続人の数)を引いた残りの課税遺産総額に課税されます。この総額が大きければ税額も大きくなりますが、総額よりも基礎控除のほうが大きいと相続税はかかりません。これを計算式にすると、下記のようになります。

プラスの財産(不動産・現金・株式など)-借入金=正味の遺産額
 正味の遺産額-基礎控除=課税遺産総額

上の式をよく見てみましょう。借入金を増やせば正味の遺産額が小さくなり、結果として課税遺産総額も小さくなり、最終的に相続税が少なくなるように見えます。しかし、実は違うのです。借金だけでは相続税は減らせません。

例えば、1000万円の借金をすると「プラスの財産」の現金が1000万円増えるので、結果的に借入前と正味の遺産額に変わりはなくなります。つまり、単にお金を借りたからといって相続税の節税ができるというわけではないのです。

■現金と不動産の評価額の違いを利用

相続税を節税する基本パターンは正味の遺産額を小さくすることですが、その主な手法の一つは現金と不動産の評価額の違いを利用することです。例えば、現金1000万円で500万円の土地と500万円の建物を購入したとします。すると相続税法上、例えば土地の評価額は400万円、建物の評価額が300万円と実際の時価より低く評価されるのです。

一般に土地は路線価で評価しますが、路線価は時価の8割程度で設定されています。建物は固定資産税評価額で評価しますが、時価の6割程度となっています。相続税上の評価額は通常、いずれも時価より低くなるため、正味の遺産額を小さくできるわけです。つまり、時価1000万円の不動産が相続税評価上は700万円となり、現金よりも正味の遺産額は300万円少なく評価され、結果として節税につながるのです。

ですから、節税を考えなければならないような人で相続財産のほとんどが現金などの金融資産である場合は、借金ではなく金融資産の一部で不動産を取得したほうがよいのです。一方、不動産しか財産がない場合は借金して建物を建築し、賃貸で運用するのも相続税対策として十分機能します。もっとも、現金を不動産に換える場合、どんな不動産でもよいというわけではなく、将来的に価格が下がりにくい不動産を選ばないと意味がないのは言うまでもありません。

■最終の手取り額の推移、事前に想定を

現金を不動産に換える場合、値下がりしにくい不動産を選ぶのは当然です。一方、借金して不動産を取得する場合は値下がりだけでなく、元本と金利を返済し、税金を支払ったあとにきちんとお金が残っているかどうかが非常に大事なチェックポイントになります。最終的な手取りがほとんどない状態だと、賃料の下落や空室、金利の上昇などによって瞬く間に赤字になり、自己資金を持ち出すことになります。また、不動産業者の家賃保証があるといっても賃料の相場が下がれば、保証された賃料でも下がる可能性は否定できず、入退去が頻繁に繰り返されれば原状回復費用もかさみます。

最近、お金を貸したい金融機関と工事を受注したい建築会社が組んで、相続税対策を前提に賃貸住宅の建築営業を繰り広げるケースが散見されます。しかし、相続税が安くなるかどうかだけでなく、返済期間中の賃貸事業収支、特に税引き後の最終の手取り額の推移を事前にきちんと見極めておく必要があります。賃貸事業収支表は税引き前のものが多く、それだけでは賃貸事業に乗り出すべきか否かの判断が難しいことも多いのです。

実際に判断する際は安易に考えず、相続税に強い税理士と、賃貸市場や賃貸事業に詳しい中立的な不動産コンサルタントなどにアドバイスをもらいながら判断したほうが、失敗するリスクや減らせるでしょう。

田中歩
1991年三菱信託銀行(現・三菱UFJ信託銀行)入行。企業不動産・相続不動産コンサルティングなどを切り口に不動産売買・活用・ファイナンスなどの業務に17年間従事。その後独立し、ライフシミュレーション付き住宅購入サポート、ホームインスペクション(住宅診断)付き住宅売買コンサルティング仲介などを提供。2014年11月から個人向け不動産コンサルティング・ホームインスペクションなどのサービスを提供する「さくら事務所」に参画。

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