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爆買いブーム一服 訪日客、伸び悩む1人当たり消費額

2018/1/23

訪日客でにぎわう浅草寺(東京都台東区)

 日本を訪れる外国人の観光客が増え続けています。2017年は過去最高の年間2869万人を記録しました。ただ、外国人1人当たりの消費額は伸び悩んでいます。何が起きているのでしょうか。

 観光庁によると年間の1人当たり消費額は15年まで3年連続で伸び、過去最高の17万円台となった後、17年まで2年連続で減りました。訪日客の消費額の約4割を占める中国人の行動が変化したため、との見方が有力です。中国人の消費で比重が高いのは買い物代で、宿泊料金や飲食費を大きく上回っています。小売業者からは中国人の「爆買い」ブームが去り、消費意欲が鈍ったとの声を聞きます。

 ニッセイ基礎研究所の久我尚子・主任研究員は為替相場の影響に注目しています。訪日した中国人1人当たりの消費額を人民元に換算すると、総消費額、買い物代ともに11年から16年までほぼ横ばいだと分かりました。人民元に対する円安が最も進んだのは15年です。「自国通貨建てで予算を組む人が多いので、円安が進めば円換算の消費額が増え、円高になれば消費は減る」と分析しています。

 日本商工会議所の五十嵐克也・地域振興部長は為替相場の影響に加え、「日本を繰り返し訪れる中国人が増え、買い物の内容が変化してきた」とみています。日本百貨店協会が訪日客に人気がある商品を調べたところ、15年6月の首位は高級ブランド品、16年6月と17年6月は化粧品が首位で、食品も上位に入りました。中国政府が16年、国内消費を促すために高級品を中心に関税率を引き上げた影響も出ているようです。

 訪日客の増勢を反映して総消費額は増えていますが、一時より伸びは鈍っています。経済産業省は、サービスや小売りをはじめとする日本の第3次産業に訪日客の消費がどの程度、貢献しているかを独自の指数を使って試算しました。17年4~6月期の個人向け第3次産業活動指数は前期に比べ0.9%上昇し、訪日客の消費指数の寄与度(貢献)は0.05%。15年4~6月期は指数全体が前期比0.3%低下する一方、訪日客の寄与度はプラス0.1%でした。同省の石塚康志・経済解析室長は「15年は外国人が消費をけん引したが、現在はそれほどの勢いはない」と指摘しています。

 久我氏は「外国人の消費市場を安定成長させるためにはモノの消費だけに頼らず、サービス消費を増やす工夫が必要」と説きます。例えば、地方へのツアーを充実させて1人1泊ずつ宿泊を増やせば、消費額を1割程度増やす効果を見込めると推計しています。さらなる消費拡大に向けた取り組みが必要です。

■五十嵐克也・日本商工会議所地域振興部長「訪日客の消費、地方で増やす仕組み作れ」

 政府は1年間に日本を訪れる外国人の観光客を2020年に4000万人にする目標を掲げています。地方の商工会議所と協力し、訪日客を増やす活動を続けている日本商工会議所の五十嵐克也地域振興部長に、今後の見通しと課題を聞きました。

 ――政府は目標を達成できそうですか。

五十嵐克也・日本商工会議所地域振興部長

 「2017年は過去最高の2869万人となりました。今後の年間伸び率を10%台前半と仮定しても2020年に4000万人を超えます。観光産業は平和産業なので、世界で様々な事件が起きたりすれば、数字が変わる可能性はありますが、最近の傾向からすると、確実な数字だといえます。2020年の東京五輪に備えて周辺の整備も進むので、よりいっそう、訪日客は増えるでしょう」

 ――ここ数年、訪日客が急増してきたのはなぜでしょうか。

 「様々な要因が重なっています。安倍晋三政権の経済政策、アベノミクス効果による円安の進行、日本の安全性や清潔さに対する評価の高まり、中国人の平均所得の増加に加え、日本政府がビザの発給要件の緩和をはじめとする様々な振興策を打ち出してきた効果も表れています。特に最近は写真共有サイト『インスタグラム』の流行で、日本の人気が世界に拡散しているようです」

 ――外国人の1人当たりの消費額は減少しているとのデータもあります。

 「為替相場の影響でしょう。米ドル、ユーロ、人民元、ウォンに対する円安のピークは2015年半ばです。日本で買い物をする場合、外国人は自国通貨建てで予算を考えるので、為替相場によって円換算の金額が変動するのはやむを得ません。それでも、訪日客の総数は増え、円換算の総消費額は増え続けているので、心配はありません」

 「買う物が変わってきている傾向はあります。東アジアから日本に来ている観光客の7割弱はリピーターだとのデータがあります。家電や温水洗浄便座といった耐久消費財の需要は一巡し、化粧品や日用品を買っているので、単価は下がっているように見えますが、自国通貨建ての買い物の総額はあまり変わっていないはずです」

 ――日本商工会議所の取り組みは。

 「2004年から毎年、全国商工会議所の観光振興大会を開いています。全国の商議所の会員が参加し、ホスピタリティー能力の向上、魅力ある観光資源の発掘、磨き上げ、情報発信への取り組みを互いに学び合うのが目的です。昨年は11月に群馬県前橋で開催し、約1800人が参加しました。大会では、全国の模範となる観光振興に取り組む商議所を『全国商工会議所きらり輝き観光振興大賞』として顕彰しています。昨年は、NHKの大河ドラマ『真田丸』放送を活用した地域振興に取り組んだ長野県の上田商工会議所が受賞しました。関連商品の開発、特別企画展の開催、広域観光ルートの開拓を通じ、リピーターを増やしています」

 「全国各地が観光振興を競うようになっています。例えば、昨年、大会を開いた前橋は観光地ではありませんが、周辺には世界遺産の富岡製糸場をはじめ様々な観光資源を備えており、観光振興の効果は大きいと思います」

 ――地域による濃淡はありますか。

 「日本商工会議所が17年7月に全国515の商議所を対象に実施したアンケート調査によると、インバウンド(訪日外国人)を増やすための対策に取り組んだ商議所が全国平均では48.5%となり、3年連続で上昇しました。地域別にみると、最も高い東北が71.1%、最も低い四国が29.6%と地域による差はありますが、インバウンドを重視する商議所は全国で増えています」

 「訪日客の増加を地域経済の活性化にどのようにつなげるかが、大きな課題です。名所旧跡を見学する人が増えても、その周辺に宿泊してもらわなければ地元にお金は落ちません。外国人の訪問地が都市部から地方に広がるにつれ、買い物よりも、サイクリングなどの体験を楽しむ人が増え、大きな消費の増加は見込めなくなります。知恵を絞る前提としてデータの整備も欠かせません。訪日客が滞在中にどのように移動し、どれだけ消費したのかを地域別に把握できていないのが実情です。官民で協力し、データを集める必要があります」

(編集委員 前田裕之)

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