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見つめるオランウータン 心揺さぶる無言のメッセージ

日経ナショナル ジオグラフィック社

2018/1/24

ナショナルジオグラフィック日本版

こちらを見つめるオランウータン。米国ナショナル ジオグラフィックの写真賞「ネイチャー・フォトグラファー・オブ・ザ・イヤー」のグランプリを受賞した。(Photographs by Jayaprakash Joghee Bojan)

 川を渡る途中でカメラに気付き、木の後ろに隠れてこちらを見つめるオランウータン――。ナショナル ジオグラフィックのネイチャー写真賞「ネイチャー・フォトグラファー・オブ・ザ・イヤー 2017」でグランプリを獲得した一枚は、生息地の減少により絶滅の危機にひんしているオランウータンの窮状を無言で訴えかける。この写真はいかにして撮られたのか。どのような思いが込められているのか。その撮影秘話を紹介する。

◇  ◇  ◇

 8月のある朝、ボルネオ島インドネシア領のタンジュン・プティン国立公園にいたジャヤプラカシュ・ジョギー・ボジャン氏は、カメラを手に冷たい水に胸まで入っていった。川は、木の根からしみ出たタンニンによって赤茶色に染まっている。ワニを発見したら教えてくれるようレンジャーには頼んである。わずか数メートル先で水をかき分けて進むオスのオランウータンを驚かせないように、ボジャン氏はゆっくりと近づいて行った。

 「こういうときは、感覚がすべて麻痺してしまいます。痛みも、虫刺されも、冷たさも感じません。目の前で起こっていることに全神経を集中させているためです」。のちにボジャン氏は、ナショナル ジオグラフィックに対してそう語った。

 これが決して当たり前の光景ではないことを、ボジャン氏は理解していた。樹上にすむオランウータンが水を怖がることは、よく知られている。その長い腕は、泳ぐよりも木からぶら下がるのに適している。ならば、そのオランウータンがなぜ危険な川を渡ろうとしているのだろうか。

 ボルネオ島では、パーム油が採れるアブラヤシを植えるために森林伐採が進み、オランウータンの生息地が広範囲で消失している。そのため、以前なら近寄ろうとしなかった場所でも、彼らの姿が見られるようになった。ボジャン氏の目の前にいるオランウータンの奇妙な行動にも、そうした背景が関係しているのだろうか。理由はともあれ、その不安そうな表情と危うげなしぐさは、彼らが直面している脅威を象徴しているようで、見る者の胸を打つ。

 めったに見ることのないその厳かな一瞬が、2017年「ネイチャー・フォトグラファー・オブ・ザ・イヤー」の審査員たちをつき動かし、ボジャン氏の写真はグランプリに選ばれた。だが、この写真は少しタイミングがずれれば、撮影されることはなかっただろうという。

セコニア川に腰まで入り、10分ほど待っていると、オランウータンは川を渡り始めた。(Photographs by Jayaprakash Joghee Bojan)

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