2つめの60代以降の高齢で起こりやすくなる血栓症は、心臓に原因がある心原性脳梗塞が代表的です。60歳以降の10%以上に発生するといわれる心房細動(心臓の心房がけいれんするように小刻みに動く不整脈の一種)が起こることで、血流が乱れて血液がスムーズに心室へ送られなくなり、血栓ができやすくなります。心房で作られた血栓が心室に移って脳に飛ぶと、脳の動脈を詰まらせる脳塞栓の状態から脳梗塞となります。心房で作られる血栓は、血管内で作られる血栓よりも大きくなる傾向があり、アテローム性動脈硬化が要因となる脳梗塞よりも、心原性脳梗塞のほうが重症化しやすい特徴があります。
3つめの病的な背景や年齢などに関係なく起こる血栓症は、静脈系に起こりやすく、いわゆるロングフライト症候群(エコノミークラス症候群)が挙げられます。ロングフライト症候群は、下肢の深部静脈(足の筋肉より内側にある太い血管)に血栓ができる深部静脈血栓症と、その血栓が肺に飛んで動脈を塞ぐ肺塞栓症を併せ持った病態です。同じ姿勢のままじっとして動かなかったり、水分が不足して血液が粘り気のある状態になったりすることで、下肢の血流が悪化して深部静脈に血栓ができ、それが肺に飛んで肺塞栓から肺梗塞を引き起こします。狭い空間で長時間座りっぱなしになるようなときだけでなく、腹腔鏡下手術を受けたあとなどにも起こることがあります。
これら3つのタイプの血栓症のうち、冬場に特に注意したいのが、1つめの生活習慣病を背景にした血栓症です。
冬の乾燥や寒暖差が血栓症の引き金に
――なぜ、冬場は生活習慣病を背景にした血栓症に注意が必要なのでしょうか。
先ほど言いましたが、生活習慣病の素因があるとアテローム性動脈硬化を起こしやすく、血栓ができやすくなるのです。そこに、冬の乾燥や寒暖差が加わると、さらに血栓が作られやすくなります。
空気が乾燥すると体から水分が奪われますが、冬場は夏場ほど意識して水分を摂取しないため、脱水傾向に陥りやすくなります。すると、血液が粘り気のある状態になります。また、気温が下がると体温を維持するために、血管が収縮して細くなり、血圧が上がります。逆に、寒い場所から暖かい場所へ移動したときなどは、血管が弛緩(しかん)して、血圧が急降下することもあります。冬場の入浴時に起こる「ヒートショック」と呼ばれる現象はこれに当たります。
つまり、生活習慣病によるアテローム性動脈硬化という血管内膜の変化に加えて、水分不足による血液成分の変化、寒暖差による血流の変化と、血栓ができる3つの要因がすべてそろうことになるのです。
血栓症は突然起こるが、脳梗塞には前兆があることも
――血栓症には、予兆となるような症状はありますか。
いずれの血栓症も予兆となるような症状はほとんどなく、ある日突然起こります。ですから予見のしようがなく、日ごろの予防が重要となってきます。ただし、TIA(Transient Ischemic Attack)と呼ばれる一過性脳虚血発作は、脳梗塞の前触れとされているので注意が必要です。