ハイエース 先進の安全機能を装備、個人向けも強化
トヨタがワンボックス車の「ハイエース」シリーズと「レジアスエース」を一部改良し、2017年12月1日に発売した。今回の改良ポイントは、安全面と防犯面の強化と、新クリーンディーゼルエンジンの搭載だ。中でも大きいのが安全面の強化。先進の歩行者検知機能を使った衝突回避支援機能を標準搭載した。アウトドア志向の強い個人向けにも販売を強化する。
先進安全運転支援パッケージにこだわり
安全面では、商用車でも徐々に普及が進みだした先進安全運転支援パッケージ「Toyota Safety Sense」の上級仕様である「Toyota Safety Sense P」を初めて全車に標準装備した。これは単眼カメラとミリ波レーダーを組み合わせたシステムで、歩行者検知機能付き衝突被害回避・軽減ブレーキ、車線逸脱警告機能、オートマチックハイビームの3つの機能でドライバーをサポートするというもの。
価格にシビアな商用車で、上級仕様の安全支援システムをなぜ付けたのか。商用車は積載する荷物によって、車両重量が大きく変わり、重量バランスも変動する。長距離移動も多く、荷物を積載した状態で一般道から高速まで幅広い領域で使用される。シビアな状況での使用が想定されるからこそ、早めに危険を察知できるように、カバーする範囲が広いミリ波レーダーを採用した安全支援システムを採用したというわけだ。
このため空荷から積載可能な最大の重さまで、あらゆる積載状況において安全運転をサポートできるよう、モデルごとにToyota Safety Sense Pをチューニングしているのが「今回の改良で最もこだわった点」とトヨタの野村淳チーフエンジニアは話す。仕事の道具であり、移動手段として使われる商用車だからこそ、高性能なシステムを採用し、作り込んだというのだ。
商用車の故障はユーザー本人だけでなく、影響が多岐に及ぶため、「ハイエースは開発時から、故障しても大きな修理が必要にならないように、各部位で先に壊れる箇所を想定し、対応策を盛り込んでいる。例えば、駆動系でも高価な部品より前に安価な部品が壊れるようにし、早めに異常に気付いて軽傷のうちに必要な修理を行えるように設計している。Toyota Safety Sense Pの搭載は単に事故を防ぐだけでなく、顧客の仕事に支障をきたさないという効果もある」(野村チーフエンジニア)。
国内の個人需要を増やしたい
今後は国内の個人ユーザーを対象に、カスタマイズ需要に応えるなど、新たなニーズを掘り起こしていくという。ハイエースは、アウトドアの趣味を持つ層に人気があり、キャンピングカーなどのカスタマイズ需要も高い。そこで、ハイエースが使い勝手に優れることアピールするため、全国44カ所のディーラーでハイエース専用コーナー「ハイエースフィールド」を設け、ハイエースでアウトドアを楽しむライフスタイルを提案するという。ハイエースにも、先進安全運転支援機能が搭載されていると知れば、関心を持つ人も多いはず。
ACCは先送りに
ただ、残念なことに乗用車版のToyota Safety Sense Pには搭載されている全車速追従機能付きアダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)が今回のハイエースおよびレジアスエースには付いていない。今回の安全装備は2年前から開発に着手していたが、基本機能のチューニングにかなりの時間が必要であったため、ACCの搭載を見送った。日産から先進運転支援機能搭載版の「キャラバン」が先に登場したこともあり、先進安全運転支援機能をなるべく早くだすことを優先させたというわけだ。具体的な時期は明かさなかったが、ACCの搭載は次のステップとして考えているという。個人向けを強化するならば、ACCの搭載は重要になるだろう。
なお、Toyota Safety Sense Pのほかにも、カーブや急ハンドル時に横滑りを抑える「車両安定制御システム(VSC)」、滑りやすい路面での発進や加速時のタイヤの空転を防ぐ「トラクションコントロール(TRC)」、急な坂道での発進時に車両のずり落ちを一定時間抑える「ヒルスタートアシストコントロール」といった安全のための機能を搭載している。
盗難対策はいたちごっこ
防犯面については、これまで搭載してきた「イモビライザー」(専用キー以外ではエンジンがかからなくなるシステム)に加えて、異常時に警報を発する「オートアラーム」を標準装備した。
背景には、ハイエースの海外人気の高さがある。世界の約150カ国で販売され、タフさと使い勝手から評価が高く、ハイエースという車名のほうがトヨタという会社名より知られている地域があるほどだという。このため、国内ではハイエースは盗まれることが多い車種の一つになってしまっている。イモビライザーやオートアラームの搭載などメーカーが対策を講じていても、犯人とのいたちごっことなっている面がある。オートアラームの全車標準化は重要だが、それでも保管場所への配慮やさらなる盗難防止器具の追加など、ユーザー自身の対策は今後も必要となるだろう。
クリーンディーゼルエンジン「1GD-FTV」を新採用
パワートレインは、ガソリン仕様は従来型同様の2.0Lガソリン車と2.7Lガソリン車を設定。トランスミッションは6速ATが基本で、2.0Lガソリン車のみ5速MTが選べるモデルがある。また2.7Lガソリン車では、6速ATと4WDの組み合わせも用意されている。
ディーゼル仕様は尿素SCRシステムを搭載した2.8Lクリーンディーゼルエンジン「1GD- FTV」を新たに採用。これに6速ATを組み合わせ、従来型より1.6~1.0km/L燃費が向上し、2WDロングバンDX(標準ルーフ・標準フロア)でJC08モード13.0km/Lを実現している。この結果、「平成27年度燃費基準+15%」を達成し、「平成21年基準排出ガス10%低減レベル」の認定を取得。「エコカー減税」の免税措置対象となった。クリーンディーゼル車では、後輪駆動車に加え、4WD車の選択も可能だ。
装備面としては、タコメーター付きオプティトロンメーター(自発光式アナログメーター)が標準化されたのもトピックだ。
税込み価格は「ハイエース バン」「レジアスエース バン」が240万5160~370万4400円。定員10人の乗用ワゴン「ハイエース ワゴン」が281万4480~391万680円。定員14人のハイルーフ仕様のミニバスタイプ「ハイエースコミューター」が314万2800~365万9040円。レジアスエースは車名とエンブレム以外は、ハイエース バンと同じ仕様で、販売チャネルが異なる。
(文・写真 大音安弘)
[日経トレンディネット 2017年12月7日付の記事を再構成]
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