欲望が止まりません
作家、石田衣良さん
子どもたちが独立した後、欲望が止まりません。食べたいものは食べ、買いたいものは買い、行きたい場所に行かなくては気が済まない。ぜいたくな悩みだと思いますが、心の内では毎日欲望が渦巻き疲れます。エネルギーをボランティアなどに向ける気も起こりません。(神奈川県・女性・50代)
◇
お子さんたちが独立して、現在、あなたは50代。長いあいだ子育てお疲れさまでした。よく20年以上にもわたって、がんばってきましたね。
子どもを立派に育てあげても世の親は誰にもほめてもらえないので、ぼくが代わりにほめておきます。あなたはほんとによくやった。もう十分です。神さまならきっというでしょう。生きものとしてもっとも大切な世代交代のお役は御免となった。あとは好きなように生きなはれ。
欲望が悪いことのようにあなたはいいますが、それがそもそものかん違い。今の日本に一番足りない資源が欲望なのです。起業家にはアニマルインスティンクトが、草食から絶食へと絶賛進化中の若者には愛と性への欲望が枯渇しています。
アダム・スミスのいう「神の手」が日本全体でうまく機能しないのは、生きるうえでの根源的なエネルギーである欲望がなにより足りないからです。その結果、教科書にもない異常な長期停滞が続いてきたのはご覧のとおり。
しかし新年となり元号も新たに変わります。そろそろみんな自分の欲望に忠実に生きようではありませんか。いきたいところにいき、たべたいものをたべ、会いたい人に会う。おおいにけっこう。まあ、そのなかに夫が占める場所はあまりなさそうですが、子どものためでなく自分のために堂々と欲望全開でこれからは生きてください。
好きなことをしてたのしそうにしている人に冷たい世のなかです。でも他人の目など気にすることはありません。あなたの子育ての苦労を誰かが肩代わりしてくれましたか。つらいときはひとりで耐えるしかなかったはずです。同じようにあなたの欲望や人生の愉悦は、あなただけのもので誰にもふれられない神聖なものです。
ボランティアについて書かれていますが、うーんと自分の人生をたのしんでからでも余裕で間にあいます。人を助けるまえにまず自分を助けましょう。
あなたにはいよいよ充実した人生の秋がやってきます。胸を張り、五感を解放して、黄金の果実を味わってください。ぼくも仕事を控えめにして、今年からはそうするつもり。
[NIKKEIプラス1 2018年1月13日付]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。