定年後のメンタル危機 備えは30~40代から!

日経Gooday

ウィーク・タイズについては「緩いつながり ウィーク・タイズでメンタル不調防げ」でご紹介しましたが、「頻繁には会わないけれど、尊敬し信頼する人との細く長い関係」を意味します。ウィーク・タイズとの交流は、定年後の生き方にもヒントや刺激をもたらしてくれるでしょう。

ワーク中心で生きてきた人はライフやソーシャルが弱い

私のウィーク・タイズの中には、大手商社を定年退職後、NPO法人で活躍している人がいます。「商社マン時代よりも忙しいですよ」というくらい、楽しく活動されているようです。また、自治体の職員を定年の数年前に突然辞めて、海外の島に移住した人もいます。その方はそれまでの経験を生かして、行政関連のボランティアをしています。Facebookでつながっていて、現地での仕事や生活の様子をうかがうと、とても生き生きと過ごしていることが伝わってきます。安定した地方公務員の職を定年を待たずに辞して海外移住、というのは極端な例かもしれませんが、彼は「定年」という枠でワークを考えていなかったのでしょう。

企業や組織に属していれば、いつかは定年を迎えます。ですが、定年は勤め人としての区切りであって、人生に定年はありません。

ワークを中心に考えてきた人は、ライフやソーシャルの観点が弱く、定年退職でそれまでの仕事がなくなることで、自己アイデンティティを失うことにも等しいくらいの喪失感や戸惑いを抱くことも少なくないでしょう。退職後に、町内会や自宅マンションの理事会などコミュニティとのつながりを持っても、かつての職場での自慢話をしたり、まるで部下に振る舞うかのような態度を取ったりして、周囲は不快な思いをしているといった話をよく耳にします。

また最近、私の知人からも、参加した会合で初対面の人に挨拶をした際、「元◯◯会社××」という肩書を記した名刺をもらって驚いたという話を何度か聞きました。わざわざ「元」とつけてまで肩書にこだわるのは、滑稽に映るかもしれません。ただ、それはその方が何十年とかけて築いてきたプライドであって、そのよりどころを簡単には手放せない心情も理解できます。

あえて男女の傾向の違いに着目するなら、仕事に家事、子育てにと奮闘してきた女性はやはり、仕事一辺倒で来た男性よりもワーク・ライフ・ソーシャルバランスに優れていると感じます。

「名刺を持たない付き合い」を広げよう

昔の肩書に頼らずに、素の自分で楽しく生きていくためにはやはり、30代、40代のうちから、ワーク・ライフ・ソーシャルバランスを意識して、名刺を持たない、肩書にこだわらない付き合いを広げていくことが大切だと思います。すでに50代、60代の人でも、ウィーク・タイズはいつからでも作ることができます。地域や趣味の場など、積極的に行動範囲を広げてみるといいでしょう。

また、学生時代の友人や先輩、後輩、かつての職場の同僚など、気の置けない同世代の人たちとの交流を持つのもお勧めです。同じ年頃の者同士で話してみると、悩みや不安があるのは自分だけではないことが分かり、情報交換をしたり、励まし合ったりできるはずです。

私もこの40年にいろいろな職場を経験しましたが、その職場こそが精神的にも大きな支えであったことが実感できます。しかし、昨今の職場には余裕がなく、ストレスへの対処術が必須のスキルのようにいわれています。今、国を挙げて働き方改革が進められていますが、効率化や生産性の向上といった面に注力されている印象があります。今後は職場のコミュニケーションやストレス対策、ワーク・ライフ・ソーシャルバランスといった意識改革まで、国や企業のトップが率先して働きかけていくことを期待しています。

【まとめ】

・「定年後のメンタル危機」への備えは50代からでは遅い

・30代、40代のうちからワーク・ライフ・ソーシャルバランスを意識する

・ワークを「定年」という枠で捉えない

・定年は会社員としての区切りであり、人生に定年はないと心得る

・名刺や肩書に頼らない付き合いを広げる

・気の置けない同世代の人と交流を持ち、悩みや不安を共有する

【渡部卓 働く人の心のコンディショニング術】

緩いつながり ウィーク・タイズでメンタル不調防げ

部下への怒りが爆発寸前 「ホ・オポノポノ」で冷静に

仕事のストレス減らす クイック・アンド・ダーティー

渡部卓
帝京平成大学現代ライフ学部教授、ライフバランスマネジメント研究所代表、産業カウンセラー、エグゼクティブ・コーチ。1979年早稲田大学卒業。米コーネル大学で人事組織論を学び、米ノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院でMBA取得。複数の企業勤務を経て2003年会社設立。職場のメンタルヘルス対策、ワークライフコーチングの第一人者。著書に「折れない心をつくる シンプルな習慣」(日本経済新聞出版社)など。

(ライター 田村知子)

[日経Gooday 2017年12月15日付記事を再構成]

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