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健常者は「マグル」? 言葉から変わる障害のイメージ マセソン美季さんのパラフレーズ

2018/1/12 日本経済新聞 朝刊

 2017年12月、出張でアラブ首長国連邦(UAE)に行った。同時期に開催されていたアジアユースパラ競技大会の会場にも足を運んだ。30カ国から800人超の若いアスリートが集う大会で、日本チームは金メダルランキング1位に輝く快挙を達成した。

 大会中、会場のアナウンスやテレビのニュースから頻繁に流れてきた、パラアスリートを表する耳慣れない言葉が「ピープル・オブ・ディタミネーション(People of Determination)」だった。直訳すれば、「確固たる決意や、強い意志がある人」と言った意味になるだろうか。

 発端は17年4月、同国のムハンマド首相兼副大統領が「障害者」という呼び方を改めると発表したことだ。障害者は様々な分野で、確固たる決意や強い意志があれば、不可能だと思われたことも可能とし、困難なことに直面しても諦めずに立ち向かい、目標を達成することができることを証明した人たち。だから今後は「強い意志がある人たち」と呼ぶと宣言したのだ。

 以来、公的な文書の表記が全て書き換えられたという。社会に根づく悲観的なイメージを払拭するため、障害者の呼び方を変えるというのは一つの手なのかもしれない。言葉を変えることで、障害者への認識を変えることにもつながったと現地の関係者は教えてくれた。

 日本語は、耳で聞いた音が表記される際、同音異字や同音異義で異なる表現になることがある。それに、私が意図して書いた表記でも、メディア独自の規則に沿って書き換えられてしまうこともある。「障害者」という言葉をどう表するかではなく、全く違う単語を作って、新しい定義も定着させるという発想は意味がありそうだ。

 「障害者」という言葉もそうだが、そもそも「健常者」という言葉の方が実は私には違和感がある。そんな話をしていたら、冬休みでオタワの自宅に遊びにきていた長男の中学の友人たちが、「(健常者は)『マグル』と呼ぶのがいいんじゃない?」。ハリーポッターシリーズの中で魔法が使えない普通の人をさすときに使うこの呼称が、彼らにはしっくりくるそうだ。

マセソン美季
 1973年生まれ。大学1年時に交通事故で車いす生活に。98年長野パラリンピックのアイススレッジ・スピードレースで金メダル3個、銀メダル1個を獲得。カナダのアイススレッジホッケー選手と結婚し、カナダ在住。2016年から日本財団パラリンピックサポートセンター勤務。

[日本経済新聞朝刊2018年1月11日付]

マセソン美季さんのコラム「マセソン美季さんのパラフレーズ」をまとめてお読みになりたい方はこちらへどうぞ。

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