STORY アフラック vol.3

女性社員の能力引き出す「全員営業」を先導、組織の実力最大限に

アフラック 専務執行役員
有吉 浩二さん

かつて伝統的な日本企業では「男性は外、女性は内」などと男女で明確に役割を分けるケースが大半だった。外資系の生命保険大手アフラックですら、つい数年前まで地方支社の営業は男性が外回り、女性が社内で事務という役割分担がはっきりしていた。同社は組織の実力を最大限に引き出そうと、2014年から男性だけでなく女性も外回りの営業に従事する「全員営業」を導入し、支社の活力を高めて業績アップにつなげてきた。こうした営業改革を支援してきたのが、有吉浩二専務執行役員(営業・マーケティング統括、64)だ。「性別に関係なく各支社、社員の能力を最大限引き出すことにつながっている」と全員営業の効果に確かな手応えを感じている。

事務職の女性も営業、2018年には全支社で

アフラックには、販売代理店経由で個人向けの保険契約を取り扱う「リテール支社」が全国に61拠点ある。従来は男性の営業社員がエリア内の代理店を訪問し、女性社員は営業サポート担当として支社内で事務をやっていた。女性の主な業務は、代理店や外回り中の男性社員から寄せられる問い合わせに応対することだ。また男女の役割分担だけでなく、営業活動が「行きやすい代理店に訪問する」「提案営業ではなく、お願い営業になっている」ことも課題だった。12年に専務執行役員に就任した有吉さんや当時の経営陣はそんな状況を「支社のポテンシャル(潜在力)を生かしきれていない」と歯がゆい思いで見つめ、大胆な「営業改革」に取り組む必要性を感じていたという。

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アフラックの有吉浩二専務執行役員は支社の成長には男女とも営業に取り組む改革が不可欠だと考えた

とはいえ、いきなり本社から「営業改革をやりなさい」と強制してもうまくいくはずがない。そう考えた有吉さんはまず、営業現場に「3年間で10%成長するにはどうしたらよいか」との課題を与えた。現状の人員体制で最大限の力を発揮するにはどのような改革が必要か。本社の営業推進部長が中心となって、全国各地の支社とともにこの課題に取り組んだ。有吉さんの熱い思いが通じたのか、支社長たちが導き出した結論が、支社内の女性たちを思い切って営業現場に投入すること。14年に湘南(神奈川県藤沢市)、町田(東京都町田市)、柏(千葉県柏市)など6支社が先行して全員営業を取り入れた。16年には30支社、17年には52支社に広がり、18年4月までに全国61支社すべてが全員営業にシフトする予定だ。

事務で培った知識、支社の営業成績アップに貢献

全員営業の導入によって、アフラックでは多くの女性社員が活躍のステージを広げている。「事務経験によって保険商品や契約手続きに関する知識が豊富な女性社員たちは、営業先で質問されてもその場で的確に回答できる」(有吉さん)ため、代理店の評判は非常によいという。多くの顧客を抱える重要な代理店の営業担当を女性社員に任せている支社も目立つ。代理店から寄せられる質問は、従来であれば男性社員が出先から支社の女性社員に問い合わせたり、支社に戻って女性社員や関連部署に確認してから電話で回答したりするのが普通だった。しかしこうした手間が不要になり「アフラックの支社だけでなく代理店の生産性も上がっている」(同)という。こうした効果は数字にも表れている。2016年に全員営業スタイルの支社は営業成績(新規契約の年換算保険料)を前年比で4.1%伸ばしたが、それ以外の支社は1.1%成長と大きな差が出た。

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研修や助言役の配置など「営業初心者」の女性への配慮も欠かさない

これまで社外に出る機会がほとんどなかった女性社員たちのケア、サポートにも力を入れている。全国に課長クラスの女性社員を「キャリアアドバイザー」として8人配置し、営業に職種転換するうえで不安な点などを気軽に相談できる体制を整えた。のべ約250人もの女性社員を本社に呼んで「ディスカバリー研修」と呼ばれるキャリア研修も実施。有吉さん自身も研修の講師を務め、営業への挑戦やキャリア形成に向けた意識向上を根気強く訴えてきた。代理店の活動を効率的に管理・把握するためのITシステムも強化し、営業初心者の女性を力強く後押ししている。

男性社員の奮起も引き出す

有吉さんは「男性社員にとってもメリットが大きかった」と強調する。支社の営業担当の人員が増えたことで、男性社員が担当する代理店の数が減り、代理店が抱える課題の解決にこれまで以上に深く関与できるようになった。かつてはなかなか手が回らなかった代理店とも、こまめにコミュニケーションを取ることが可能になった。聞けば何でも答えてくれた営業サポートの女性がいなくなったことで、契約手続きなどに関する知識を身に付けようと勉強に熱心に取り組むようになった男性社員も増えているという。

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営業現場でのさらなる女性の活躍に期待を寄せる

昔ながらの営業職といえば、夜の酒席などで勤務時間が長期化するというイメージが強いが、有吉さんは「代理店と酒の付き合いをしなければ数字が出ないということは決してない」と断言する。アフラックでは社員が柔軟に勤務時間を設定することが可能で、勤務を中抜けして子どもを保育園に迎えにいくなどして営業と子育てを両立している女性社員が数多く活躍している。「子育てをしながら営業に取り組むことが、当たり前の会社でならなければならない」(有吉さん)。

女性社員に願う「様々な業務、経験を」

全員営業の責任者である有吉さんは「女性社員が『営業に変わってよかった』と思ってくれるか、実はかなりのプレッシャーを感じていた」と胸の内を明かす。地方支社の営業では社員が自分で車を運転して代理店を回るといった、支社内の事務では経験しない局面もある。しかし営業担当になった女性社員が現場に飛び込むようになったことで、女性社員個人の営業成績が各自のボーナスに反映されるようになり、これまで個人ではなく支社全体の業績に連動する形だった女性社員のモチベーションを引き上げることにも成功している。

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30代後半にアリコ米本社(デラウェア州)勤務を経験(右が有吉さん)

有吉さん自身はアリコジャパン(当時)出身で、アリコ米本社での勤務も経験。アクサ生命保険を経て2008年にアフラックに入社した。アクサ生命時代に米アフラックのダニエル・エイモス会長兼CEO(最高経営責任者)から「日本の社員は本当によく頑張っている。なるべく多くのボーナスを支払えるよう業績を高めてほしい」と呼びかけられ、意気投合したのが、アフラック入社のきっかけだったという。

アフラックは日本にいる社員約5000人のうち半数近くが女性で、女性の活躍が会社の成長に欠かせない。営業改革は女性の営業進出が目的ではなく、あくまで狙いは「支社のポテンシャルを最大限に伸ばすこと」という。有吉さんは時折、同社の古出眞敏社長と「男女問わず社員には営業と(契約手続きを担当する)契約サービス部門、また地方勤務も経験させるべきだ」という話題で盛り上がるという。保険商品、そして営業とは何なのか。また保険契約の引き受け、支払いなどの業務もすべて理解したうえで「社員が自分の興味のある分野を見つけ、キャリアを築いていってほしい」と願っている。

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