出世ナビ

プロが明かす出世のカラクリ

もう「習熟」では出世できない つながりと発見がカギ 20代から考える出世戦略(24)

2018/1/9

PIXTA

 私たちが働くことで得られるものはなにか。

 多くの場合それは経験や知識、スキルなどです。また、社内や取引先との人間関係が構築されてゆきますし、その結果として日々の仕事がより円滑に進むようになります。そういう人たちが「仕事ができる」とか「上司やお客様のお気に入り」だといわれます。

 ただそれらの「常識」は少し変化しつつあります。皆さんの周りでも、出世しているわけでもないのに楽しそうな人。あるいは副業や兼業で成功している人、退職したにもかかわらず個人で活躍している人が増えていませんか?

■上司の視点を持つだけでは不十分な時代が来た

 そもそも人はなぜ働くのか。

 ほとんどの人にとっては、給与を受け取るためでしょう。働く対価として給与を得ることで、生計を立てたり、好きなことをしたりするわけです。

 今もらっている給与で満足している人はそれでいいけれども、もっとたくさんの給与が欲しい人は、給与や賞与を増やしたりするための評価を高める努力をしたり、より高い責任のポジションに出世することを目指したりします。

 では評価を高めたり、出世するための方法とは、どういうものでしょう。

 2014年に私は『出世する人は人事評価を気にしない』という本を書きました。おかげさまで多くの方に手にとっていただき、今こうしてNIKKEI STYLEでも小稿を連載しているわけですが、この数年でまた時代は大きく変化しました。

 『出世する人は~』の要旨は簡単にいえば「いち早く上司の視点を持てた人が出世する」というものです。目の前の仕事を頑張る「だけ」ではなく、その仕事を指示した上司の意図をちゃんと考えて働けるようになれば、より効率的に出世できる。だから目の前の評価に一喜一憂する必要はない、ということを書きました。ただ、そのような視点の変化を含めてもなお、『出世する人は~』で示した考え方は会社に雇われている人のものでした。

 しかし今、1社の中で人生を過ごすことがあたりまえではなくなりつつあります。

 「人生100年時代」といわれる中で、一生の中の平均的な転職回数も複数回になりつつあります。もしかすると日本でもアメリカのように、5年おきくらいに転職することがあたりまえになるのかもしれません。

 そのような時代がくれば、単純に「上司の視点を持つ」だけでは十分でなくなる可能性も高くなります。たとえばインフラ産業の部長の考え方と、チェーン店ビジネスの部長の考え方は全く異なります。かたや10年以上の単位での成長と成果を見越した考え方を持つのに対して、かたや長くても3カ月単位でビジネスを考えるとしたら。それらの会社間での転職は一般的ではないでしょうが、今いる会社の上司の視点を持っただけでは、他社では役に立たない、ということもあり得ます。

 では上司の視点を持つだけでは意味がないとすれば、これからの「出世」のためには何をすればよいのでしょう。

■時間をかけて「習熟」しなくても成功できる時代

 「出世」の定義が変化している、ということもこれまでの連載でたびたび示してきました。

 同じ会社の中で上位の役職を目指すことはもちろん重要です。

 しかし合わない会社もあれば、そもそも上を目指したくない会社だと気付くこともあります。そんなとき、今いる会社で上位の役職を目指すのではなく、転職した先で上位を目指すとか、あるいはフリーランスになったり、起業したりする選択肢もあります。

 一方で、今いる会社を出てしまえば、上司の視点は持っていくことができません。だとすれば何を持って他所にいけるのでしょう。

 経済学の視点でいえば、私たちが働くことで獲得する報酬額を決める要素を、人的資本といいます。この人的資本は一般的には、教育にかけた金額を指します。高卒よりも大卒、大卒よりも大学院卒の方が生涯年収が高くなるのは、若いうちに自分という人間に投資をした金額が複利で返ってきているからだ、という考え方が人的資本の基本にあります。

 私がみなさんにお示ししたいポータブルな(持ち運びできる)要素を人的資本の観点でいえば、それは教育ではありません。そもそも人間が成長するために、教育が影響する割合は10%に過ぎないといわれています。あとの20%は人間関係で、残る70%は経験です。

 もちろん教育は振り返りの時点で極めて重要なのですが、ここでは20%を占める人間関係と、70%を占める経験に言及してみます。

 一生を同じ会社で過ごす場合、次のような人間関係と経験を積む人が出世していました。

人間関係:社内のキーパーソンとの関係
例)出世しそうな上司との強い関係。あるいは多くの部署の有力な人たちとツーカーで話せる関係。

経験:現在のビジネスについてのスキルや経験
例)今の商品の良さやその示し方。クレーム顧客への対応方法。決まった取引先との調整方法など。

 しかしこれらは今いる会社から出てしまえばあまり役にたちません。社内の人間関係も、今行っているビジネスについての経験も、前提となるビジネスが変わってしまえば応用が難しくなります。

 そもそも同じ会社にいる限り、得られる人間関係や経験はすべて「習熟」によって得られます。一緒にいる時間が長いから得られる人間関係。費やす時間の長さで得られる経験。それらはとても大事なものですが、会社から出た先の成功とはあまり関係しません。

 よく考えてみれば、費やす時間が長ければ成功するのであれば、定年退職した人が転職や起業をすればより成功しやすくなるはずです。しかし実態は決してそうではありません。

 今求められる人的資本は、習熟によって得られるものではなくなっています。

■つながって、つくる

 私が皆さんに示したいのは、『出世する人は~』で紹介した上司の視点の否定ではありません。あくまでもその延長線上にあるものです。

 今いる会社の中で、上司の視点をもって活躍できるようになる、ということが大前提です。ただし、それをそのまま強調しつづけるのではなく、そこで得られた仕事や権限をもとに、新たな人間関係や経験を積んでいただきたいのです。それらは時間をかけて習熟する類のものではありません。思い立って行動しさえすれば、何も持たない若手でもすぐに手にいれられるものなのです。

 新しい時代の人間関係とは、たとえば以下のような人たちとのつながりです。

人間関係:同じ問題意識を持っている人との関係。あるいは同じ悩みを持っている人との関係。
例)まずは趣味の関係でもよいのですが、仕事上の悩みについて語り合える社外の知人などの方がよいでしょう。働き方や家庭について悩んでいる場合、それらについて話せる間柄も重要です。

 出会い方はリアルでもSNSでもかまいませんが、一番良いのは人から紹介されることです。過去の友人や知人が最も有力です。自分の人となりをしっかりわかってくれている人たちに、現在の問題意識や悩みを知らせておけば、適切な人を紹介してくれる可能性が高まります。そうしてできた人間関係によって、社内だけでは得られない経験を積んでゆきます。

 新しい時代の経験とは、たとえば以下のようなものです。

経験(1):「そもそもなぜ?」を考える経験。あるいは自分の考えに対して体系的な整理をされる経験。
例)漠然とした問題意識や悩みについて、ていねいに解きほぐされたり、あるいはそもそもなぜそれらが課題となるのかということをズバッと整理される経験などです。
経験(2):つながった人たちと一緒に何かを作る経験。
例)一人ではなく、チームで何かを作る。それも社外の人たちと。たとえば問題意識について整理して発表してみるとかでも構いません。議論をまとめて残しておくだけでも有効です。ビジネスをつくるということであれば、まずは最初の顧客を得るために活動してみてもよいでしょう。

 議論し、つながるだけで終わるのではなく、形に残るなにかを示すことが重要です。

 そもそも、新しくできる人間関係は、友人や仲間というよりは、せいぜい知人というレベルなはずです。それはとてもゆるやかなつながりです。

 そのゆるやかなつながりをきっちりとチームにしていけるかどうか。それが新しい時代の成功を生むことができるかどうかの差別化要因になります。

 決して簡単ではないように思えるかもしれませんが、新しいつながりや経験を求めているのはあなただけではありません。少し思い切って行動をしてみるだけで、チャンスは得られます。

 自分から何か始めることが怖ければ、まずは、身近な誰かの悩みに応えるところから始めてみてはいかがでしょう。

平康慶浩
 セレクションアンドバリエーション代表取締役、人事コンサルタント。1969年大阪生まれ。早稲田大学大学院ファイナンス研究科MBA取得。アクセンチュア、日本総合研究所をへて、2012年から現職。大企業から中小企業まで130社以上の人事評価制度改革に携わる。高度人材養成機構理事リーダーシップ開発センター長。

キャリアアップしたい人の――「エグゼクティブ転職」

好条件のオファーを受けませんか?
わずか5分の無料登録で「待つ」転職

>> 登録する(無料)

「エグゼクティブ転職」は、日本経済新聞社グループが運営する 次世代リーダーの転職支援サイトです

NIKKEI 日経HR


マンガでわかる いまどきの「出世学」

著者 : 平康 慶浩
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 1,404円 (税込み)

出世ナビ新着記事

ALL CHANNEL