七草がゆの作り方 米粒から、それともご飯から?
米粒を一晩浸水 やさしい甘みに
1月7日は五節句の人日(じんじつ)、七草がゆを食べる日だ。ベースになる白がゆは、作り方で食感や風味が変わるという。米粒から作る? それとも炊いたご飯から? 好みのおかゆの味わいを求め、実験した。
福井県にある曹洞宗大本山の永平寺をたずねた。1244年に道元禅師が修行道場を開いて以来、修行僧の朝食は毎朝おかゆと聞いたからだ。
1泊2日で修行ができる「参籠(さんろう)体験」に参加した。2日間で約40分の坐禅(ざぜん)を3、4回する。2日目の早朝、約100人の修行僧らと法堂での朝のおつとめに参加した後、朝食にあたる小食(しょうじき)をいただく。この日、出てきたのは白米のおかゆだった。
ひとくち含むと、やさしい米の甘みが口の中に広がった。米粒は柔らかいだけでなく歯応えも少しあり、さじですくうとポテッとまとまって落ちる固さ。米そのものの風味を感じるおかゆで、たくあんと梅干し、白ごまのごま塩とともにいただいた。
なぜ、朝食はおかゆなのか。曹洞宗では、日本における開祖の道元禅師が食事は生きるうえの根本で、欠くことができない大切なことと説く。
14年間調理を担当し修行僧を指導する典座(てんぞ)の三好良久さん(70)は「かゆは精進料理の主食。仏典では気力が増すなど、かゆを食べると10のいいことがあるとして、粥有十利(しゅうゆうじり)といわれています」と教えてくれた。
通常、修行僧が食すのは玄米がゆ。ただ調理時間がかかるため、髪を剃るなど身だしなみを整える4と9の付く日は時短ができる白米のおかゆを炊く。記者がいただいたのは、このおかゆだ。
基本は7分がゆ。米の7倍の量の水に一晩つけ、沸騰後は蓋を少しずらし、約40分間弱火で加熱、火を止め蓋をしめて20分間蒸らす。
どう作れば、思い通りの風味や食感になるのだろう。
静岡県立大学名誉教授の貝沼やす子さんに聞くと「米を浸水するか、しないか、水か、熱湯を使うかなど、条件によっておかゆの食感や風味は変わります」。
例えば、米を湯に入れて作ると米粒の外側が先に煮え、中心部まで水が行き届かないので、溶け出るでんぷんも少なく、サラサラ食べられるおかゆになるという。
三好さんや貝沼さんにヒントを得て、A~Fまで6つの方法を試した。大きく分けると使うのは水か、熱湯か。米の浸水時間は一晩か、ゼロか。米から作るか、ご飯からか。料理研究家の熊谷真由美さんの協力を得て、新潟産コシヒカリを使い7分がゆを作り、それぞれの特長を調べた。
米の甘みを一番感じ、ふんわりした味わいだったのは一晩浸水し、水から作ったB。永平寺のおかゆの作り方だ。米粒にはほどよく弾力があり「病気の時に食べるならこれ」。熊谷さんと一致した。
一番軽く、サラサラ食べるなら一晩浸水し、湯で作ったEだ。長時間吸水させたが、熱湯で作ったため、中心部に水分が届かなかったのかもしれない。米の甘みはBほど感じられなかった。重湯が濃厚だったのはご飯を使い、湯で作ったF。貝沼さんは「いったん炊いたご飯は頑固。時短になりそうだが、通常のおかゆにするには同じぐらい加熱時間が必要」と説明する。
猫舌の人向けに、冷めた後も食べ比べた。意外にFが軽い食感で、さらっと食べやすかった。熱いうちは出来たてが最もやさしい味わいだったBは冷めた後の味が落ち、その落差が激しかった。
水と米だけのシンプルなおかゆなのに作り方でこんなに味わいが変わるとは、と驚いた。「相手を思って作れば、それだけで精進料理になります」という典座の三好さんの言葉を胸に、10のいいことがあるおかゆを、今年は食卓に取り入れていきたい。
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腰の痛み、黒い食材でケア
今お薦めのおかゆは何か。中国伝統医学の認定資格・国際中医師の熊谷真由美さんによると「冬は黒い食材がよい」。漢方で腎は生殖や成長をつかさどり、子宮や腎臓、腰の辺りを指す。腰痛やかかとの痛みなどは腎の弱まりと考え、黒い食材でケアをする。
米100ミリリットルに水700ミリリットルを使う。中華がゆの場合は浸水せず、湯から作る。さらりとしたおかゆになる。火を消す10分前に水で戻し刻んだ乾燥黒キクラゲ2つ分、黒ゴマ大さじ6を入れ混ぜる。蓋をし蒸らした後、おせちの黒豆を散らし、白髪ネギやクコの実をあしらう。
黒豆は血流をよくし、黒ゴマは体の水分を潤し、黒キクラゲは血液を補うなどの効能もあるという。
(畑中麻里)
[NIKKEIプラス1 2018年1月6日付]
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