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餅をいつでもおいしく食べる知恵 岩手・一関の食文化

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お正月の声が聞こえてくると恋しくなるのが餅。つきたてをきなこで、あんこで、お雑煮で、磯辺焼きでと、鏡開きまでの10日ほどの間は、多くの家庭が餅三昧の日々となるだろう。

しかし、それを過ぎると、団子やまんじゅうなど菓子として餅を食べる機会はあっても、主食として餅を食べる機会は減り、暖かくなればぱったりとなくなるのが常だ。正月過ぎたって餅は食べたいという餅好きもいるだろう。そんな人はぜひ、宮城県から県境をまたいで岩手県に入ってすぐの町、一関を訪ねてみることをお薦めする。

正月にしか餅を食べない地方では考えられない、様々な調理法で1年中、餅を食べているのだ。

年末も近い週末、JR一ノ関駅に降り立つと駅前では餅つきが行われていた。観光列車の出発を前に、餅つきとつきたての餅のふるまいで観光客をもてなすイベントだった。餅をその場でこしあんに、ネギがたっぷり入ったしょうゆだれにからませてふるまう。

餅=おもてなしの土地柄をいや応なく肌で感じる。

ふるまいの餅を平らげると、駅のすぐ近くで、地元ならではの餅料理を提供する「三彩館 ふじせい」を訪ねた。

「一関では餅料理は最高のごちそうなんです。正月はもちろんのこと、結婚式、お葬式、田植えにお彼岸と、ことあるごとに餅をついて食べます」とは、女将の伊藤篤子さん。地元に伝わる「餅暦」によれば、その数は年間60日以上、つまり週に一度は餅を食べる計算になる。

この日は「ひと口もち膳」をいただく。一関で、冠婚葬祭、季節の行事などのおもてなし料理として食べられてきた「もち本膳」を気軽に楽しめるよう、食べやすいサイズにしたメニューだ。

「もち本膳」とは、冠婚葬祭などで食べられる儀礼的な食事、本膳料理の「一汁三菜」を餅料理だけで構成したものだ。まずあんこ餅から食べ始め、最後は雑煮でしめるなど、メニュー構成、提供の仕方、口上の述べ方、食べ方に至るまで、様々な作法が決められている。

基本は一品当たり、餅が3個ずつ入る。時間もかかるし、それこそ「まだ食べるの?」と音を上げるほど、次から次へと餅料理が運ばれてくるという。「ひと口もち膳」では、そんな餅料理の中から厳選した9種を、一口サイズに重箱に盛り付けてある。

早速食べてみよう。9種の餅料理は季節によってその構成が変わるというが、中央に位置する大根おろしとその上のあんこ餅は、季節を問わず盛り込まれる。まずは、餅の入っていない大根おろしを口に含む。食べやすくしたとはいえ、雑煮まで10品。消化成分を含む大根おろしをまず食べることによって消化を促すとともに、水分が多いため、餅をのどに引っ掛かりにくくする役割も果たしているという。

その次はあんこだ。あんこ餅というとデザートをイメージする人が多いだろう。一関の餅料理はそもそも「おもてなしの膳」だ。かつてのおもてなし料理というと「甘い味」と「腹いっぱい」は不可欠になる。食べ物が不足しがちで砂糖が貴重だった時代は、甘い味をたっぷり食べることは何よりのぜいたくだったからだ。一関の餅料理も概して味付けが甘い。その中でも、手間暇かけたこしあんは何よりのもてなしであり、それをまず味わうのが作法なのだ。

あん餅を食べたら、後はお好みで。左上段はしょうが餅。シイタケに、根ショウガのおろし汁を加えてとろみをつけたものだ。さっぱり感はあるものの、もてなしの料理らしく、やはり甘みが加えられている。左中段はごま餅。黒ごまをすりつぶしたものが餅にかかっている。左下はえび餅。この地方特有の食べ方だそうで、近くの川でえびをとってきてそれを丸ごといってだししょうゆで味を調えたものだ。

中央下段はずんだ餅。枝豆をすりつぶして、砂糖と塩を加えたあんで餅を包んで食べる。

ずんだ餅は宮城県の銘菓としてご存じの方も多いだろう。実は、この食べ方に旧仙台(伊達)藩の餅食文化が分かりやすく表れている。

餅といえばだれもが冬を思い浮かべるだろう。一方、枝豆はどうか? ビールに枝豆……そう、夏の味だ。ずんだ餅は、そもそも夏に餅を食べる調理法なのだ。

米どころだった仙台藩では、年貢米の査定として毎月1日と15日に餅をついて神様に供えて平安安息を祈るとともに、その日を農民の休息日とするならわしがあった。そう、冬に限らず、毎月2回、必ず餅を食べることをお殿様から課せられていたのだ。

そうした月2回ずつ餅を食べる文化は、時がたつにつれて次第に廃れ、一ノ関や隣接する宮城県栗原市など周辺一帯に特有の食文化として残り、現代に伝えられているという。

重箱の餅に戻ろう。右上段は納豆餅。地元ではポピュラーな食べ方。ネギを薬味にしょうゆで味付けした納豆を餅にからめて食べる。ただし「糸を引く」ため、不祝儀には食べない。右中段は、くるみ餅。三陸沿岸部では、お雑煮の餅をいったん取り出してくるみのたれで食べるのは知られている。鬼ぐるみをすり、砂糖や塩で味を調えて餅にかける。右下段はじゅうね餅。じゅうねはシソ科のエゴマの実。ゴマ同様、すりつぶして砂糖と塩を加える。味もゴマに近いが、ゴマに比べ粒が小さく、実は調理に手間がかかる。そう、手間をかけることは「おもてなし」なのだ。

そして最後は雑煮。最初のあんこ餅と同様、最後の雑煮も決められた作法だ。和風だしで鶏肉を煮て雑煮にする。味わい的には関東の雑煮に近いが、そこは餅食文化の一関、のし餅を切った角餅ではなく、つきたての餅がちぎって入れられている。

これほどぜいたくな餅料理を月に2回も食べていたとは、いくらお殿様の命令とはいえ、さぞかし一関の農民は豊かだったのだろうと思われるかもしれない。しかし、ここまで豪華になったのは、餅料理が観光の目玉に据えられてからのことだ。

農民にとってはコメは「売り物」。貴重な「食いぶち」を食べてしまうことはなく、くず米など、売り物には適さないコメを餅にして食べていたという。落ち穂や青米、くず米などを練り合わせ、雑穀を混ぜてついた「しいなもち」と呼ばれる餅を、本来は食べていたそうだ。もちろん味も劣る。

そんな「しいなもち」をよりおいしく食べるための工夫がこうした餅料理の数々を生んだという。戦後、昭和30年代になって以降、庶民も白い餅を食べるようになったことで、餅料理のおいしさが格段にグレードアップしたことは想像に難くない。

一関のように1年中餅を食べる地域でなくても、これからしばらくの間は、飽きるほどに餅を食べることだろう。一関の餅料理を参考に、少しずつ変化を加えて「餅の日々」すごしてみるのもいいだろう。

(渡辺智哉)

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