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日本の無償ケア労働 「お母さんの負担」が重過ぎる

日経DUAL

2018/1/18

 こんにちは、治部れんげです。「ワンオペ育児」問題は、個人ではなく日本全体の問題です。ワンオペ育児に代表される家庭内の「無償ケア労働」に関する議論を取り上げます。

■家庭内の男女不平等は、途上国に近い

 多くの働く母が悩んでいる、「私ばかり、家事・育児をしている」問題。これは、あなただけの問題ではありません。

 先だって、ベトナムのフエで開かれた、APEC女性と経済「官民対話フォーラム」に参加しました。このフォーラムは日本とベトナム両政府の共催で、日本のシンクタンク型NPO・Gender Action Platformが企画運営したものです。

 ひとつのセッションでモデレーターを務めたところ、印象的なデータがありました。UN Womenアジア太平洋地域部長の加藤美和さんが提示した、男女の無償ケア労働(家事・育児・介護等)の時間差を表したもの。先進国はどこでも、男性1に対し女性2の比率ですが、途上国では男女差が大きく、男性の5~6倍もの無償ケア労働を女性が担っていることが分かりました。

 皆さんのご家庭で、夫婦の家事・育児分担に、どのくらいの差がありますか? ほぼ半分ずつ分担しているのでしょうか。それとも、1対9と差が大きいでしょうか。

 統計を見ると、日本の男女の無償ケア労働時間の男女差は男性1に対し、女性が3~5となっています。日本は経済水準やテクノロジー、治安や医療などの面では先進国ですが、家庭内の男女不平等は、途上国に近い状況なのです。

 世界経済フォーラムが「ジェンダー・ギャップ指数」を発表しました。日本は2016年より順位を落として114位で先進国の中では最下位でした。調査対象は144カ国です。低い順位の背景には、政治家や経済分野のリーダー(例えば企業の役員や管理職)が少ないことがあります。

 では、もう日本はダメなのでしょうか? 私はそうは思っていません。理由は教育現場には意欲的な取り組みが見られるためです。

APEC女性と経済「官民対話フォーラム」(ベトナムのフエで開催)。左端が著者

■「女性は家庭にいるべき」とは思っていない

 今月始め、千葉県教職員組合の年次研究会に出席しました。「両性の自立と平等」をテーマにした分科会で共同研究者を務め、県内約20の公立小中学校で行われた授業の研究発表を聞き、専門家の観点からコメントをさせていただきました。発表内容や授業の工夫がとても興味深く、革新的で驚いたのです。

 私は政府や都のジェンダー平等政策の会議に出席したり、地方自治体の男女共同参画関連の講演に行ったりする機会がよくあります。どこでも話題になるのは「固定的な性別役割分担(男は外で働き、女は家庭を守る)意識が強い。教育や啓蒙が必要」ということ。

 でも、先生たちの授業研究発表を聞いていると、教育現場では取り組みが、とっくに始まっていることが分かります。

 例えば、無償ケア労働の実態調査。ある学校では、子どもたちに家庭内の家事について、どんなものがあるか意見を聞き、付箋に書いたうえで、それを誰がやっているかを聞いて分類しました。予想以上にお母さんが大変であることを知った子どもたちは「もっと手伝いをしよう」と思うのです。

 さらに、学校によっては「なぜ、お父さんはやっていないのか」「帰りが遅いから家事をしたくても無理」と家庭内のアンバランスや長時間労働の問題にも着目します。子どもの身近な話題から始めて「気づき」につなげていく授業に感心しました。

 興味深いのは、親も子どもも先生も「女性は家庭を守るべき」とは思っていないこと。ある学校が行った調査では「女性は家庭にいるべき」と思っているのは0人にもかかわらず、実際には母親が家事の大半をやっている事実をあぶり出しました。意識と実態のギャップを個人に直接ヒアリングするのは、学校の特徴を生かした試みだと思います。

 「無意識の思い込み」から子どもたちを解放していく試みもありました。例えば、保育士さん、大工さんなどの職業を例にとり、「男性の仕事? 女性の仕事?」と尋ねます。最初のうち「保育士さんは女性」「大工さんは男性」と子どもたちは答えます。これは、大人でも同じかもしれません。

 そこである学校では、地域で働く女性大工さんを授業に招きました。「自分の町に女性の大工さんがいる」ことを目の当たりにした子どもたちは「やりたい人、向いている人がやればいい。男とか女で決めなくていい」と自然に気づいていくのです。

■次の世代のために、私たちができること

 昨今、企業でも盛んなダイバーシティー推進の取り組みで、「無意識の思い込み(unconscious bias)」は注目のテーマ。自分の思い込みに気づける機会のある授業が受けられるのは、うらやましいです。

 他にも「ピンクは女の人の色」と思っている生徒たちの教室に、ピンクのシャツと小物を身に着けた校長先生が登場し「ピンクは男の人が身に着けてもいい。かっこいい」と気づかせる授業もありました。校長先生自ら多様性の意味を示してくれる、素敵な授業ですね。

 ここでご紹介したのは、当日の研究発表で聞いた中でも、私が特に「すごい!」と思った取り組みです。研究発表会に出席するような「熱心な先生」だからできる授業かもしれませんが、それをやっているのは、特別な受験が必要な学校ではありません。千葉県内の都市部や古くからある町にある普通の公立小中学校でした。

 実は私の出身高校の近くにある中学校の取り組みも紹介されていて、先生による研究リポートには「ワンオペ育児」への言及もありました。学校は、子どもたちへの教育を通じて、男女平等を目指している。これは本当に勇気づけられることです。

 皆さんもお子さんが通う地域の学校に、こういう授業をしてほしい、と提案してみたらいかがでしょうか? そして、ぜひ、社会には色々な仕事があり、女性も色々な仕事に就いていること、男性も家事や育児をやる時代になっていることを、伝えてあげてほしい、と思います。皆さんの個人的なワンオペに悩んだ経験、どうやってそれを乗り越えたかという経験を伝えることで、次の世代が子育てをするころには、もっと良い社会になっているでしょう。

治部れんげ
 昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。1997年一橋大学法学部卒業後、日経BP社入社。経済誌の記者・編集者を務める。14年からフリーに。国内外の共働き子育て事情について調査、執筆、講演などを行う。著書『稼ぐ妻・育てる夫―夫婦の戦略的役割交換』(勁草書房)、『ふたりの子育てルール』(PHP研究所)。東京都男女平等参画審議会委員などを務める。

[日経DUAL 2017年11月13日付記事を再構成]

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