2017/12/26

取得者の成長を評価 CRAZY・森山和彦社長

社員の子どもと一緒にランチを食べるCRAZYの森山社長(中央)=4日、東京都墨田区

強くするのは組織だけではない。育休明けの社員を管理職に昇進させる会社もある。カスタムウエディングサービスを手掛けるベンチャー企業のCRAZY(東京・墨田)だ。アートチームマネージャーを務める染谷和花さん(33)は、育休を取る前は結婚式の装飾などをデザインする社員だった。

「職人のように自分の仕事の領域だけをこなしていた社員が、育休から復帰するとがらりと変わる。自分から他の人を助ける面倒見の良い人物になる」。森山和彦社長(35)は社員の変化を見逃さない。子育てを通じて周囲をより見渡せるようになった染谷さんを、マネジャーに起用した。

森山社長自身も生後5カ月の子どもの父親で、妻の出産後に約1カ月、育休を取った。週に2日程度は出社したが、それ以外は妻のサポート役に回った。「働くパパママの大変さは、体験しないと理解できないと実感した」と振り返る。

復職後には子育てや新たな環境で大変だろうと仕事を抑えるのが一般的だが、あえて昇進させる。仕事と育児の両立は可能なのだろうか。「やりがいを感じる。パパママだけでできないことを克服する制度を会社が柔軟に用意してくれ、安心して働ける」と染谷さんは充実した表情で語る。

社内には託児スペースがあり、専属のシッターが常駐する。多いときには5人の社員が子連れで出勤。職場で子どもが走り回ることも少なくない。社員全員で子育てする考えで、まるで大きな家族、あるいはかつての近所仲間のような空間が広がる。その象徴の光景を、昼休みに垣間見ることができる。

「それでは皆さん、手を合わせて。いただきます」

同社は毎日、社員みんなでランチを食べる。学校時代の給食を思い出すようなほのぼのとした光景に驚かされるが、さらに一風変わっているのがそこに社員の子どもがいる点だ。

「かりんちゃん、転ばないように気をつけてね」

染谷さんは1歳3カ月の娘を連れて出社する。同僚は元気に走り回る子どもを見て声を掛ける。「これまで地域が担ってきた子育てのコミュニティーが崩壊しつつある。誰が担うのか。その答えの一つに『会社』があってもいいのでは」と森山社長は訴える。

子育ての機能を会社がもっと拡張する――。同社は売上高(約15億円)に対して5%程度を使って社員の昼食代やベビーシッター代を出す。「国や自治体が税金で社会保障や地域の暮らしやすさを整備するのと同じ。会社の中でも働きやすい環境を整備する税金のような存在が必要だ」と森山社長は考える。

企業に求められるのは、社員の働きやすさと成長を実感できる環境だ。「育休は職場に迷惑をかけ、復帰後もしっかりと働けない」。そんな既成概念が多くの経営者の脳裏にあるのでは。育休を経験した2人の男性社長は柔軟な子育て支援の制度をつくり、社員の帰属意識を高めている。支えるだけでなく、引き上げる。2人の社長は育児経験が社員と組織を強くすることを実感している。

◇   ◇   ◇

経験が脱「指示待ち」促す ~取材を終えて~

「手伝うことがあれば言って」「俺にできることある?」経営者が嫌うビジネスパーソンのタイプ、それは指示待ち族だ。

仕事は見つけて自ら動く。そこに価値がある。だが、会社では上の立場にいる経営者も、いざ育休を取ると、最も嫌う指示待ち族になってしまうという。主体的に動けないのだ。育児経験がないから仕方ないと言えばそうだが、未経験者の理解不足こそが、男性の育休が普及しない最大の理由なのではないだろうか。育休はプラスの効果を与える――。経営者や現場のマネジャーが体感できる場をつくれたならば、理解度は増すのではないか。

2社長の1~2カ月の育休は女性一般の取得期間よりは短い。ただ大きな経験で、柔軟な社内の制度設計に発想を転換している。これからのトップは可能ならば育休を経験してはどうだろう。新たな働き方改革の芽が誕生するかもしれない。

(白壁達久)

[日本経済新聞朝刊2017年12月25日付]

注目記事