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分断と排除、世界の実相を映す 2017年映画回顧

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NIKKEI STYLE

誰もがピリピリとして、異質なものを許さない。地域で、職場で、家庭で、そして国家で、世界で、人々の分断が進む。同調圧力は逆に強まる。社会はますます不寛容になっていく――。そんな世界の姿は、2017年の秀作映画にもはっきりと映っていた。

不寛容社会を描く家族劇

不寛容な社会が真っ先に排除しようとするのはマイノリティーだ。荻上直子監督『彼らが本気で編むときは、』は、育児放棄された少女トモの目から、転がり込んだ先の叔父(桐谷健太)宅に同居するトランスジェンダー、リンコ(生田斗真)の生き方を見つめる。

男の体で生まれたが心は女であるリンコは、孤独なトモに惜しみない愛を注ぎ、母性に目覚める。十代のころから性的少数者への偏見に耐え、自分の生き方を貫いてきたリンコだが、家庭をもち母親として子供を育てたいという願望をもったことで、さらなる困難に直面する。近所の人々の偏見、児童相談所の事務的な対応、トモの母親からの侮蔑……。

マイノリティーに対するこの国の不寛容がありありと映る。同時に、リンコとその理解者たちの力強い意志に一筋の光を感じた。

入江悠監督『ビジランテ』は疲弊した地方都市のしがらみと閉鎖性を、かつて暴力的な父親に支配された3兄弟の物語として描いた。

亡父の跡を継いで市議となった次男(鈴木浩介)、地回りのヤクザの配下で風俗店の店長を務める三男(桐谷健太)。そこに少年時代に家出したきり音信不通だった長男(大森南朋)が戻ってくる。市が誘致するアウトレットモールの建設予定地となっている父の土地の相続を長男が主張し、次男と三男は窮地に追い込まれる。

次男が率いる自警団(ビジランテ)の若者が、モール建設予定地に住む中国人労働者たちを襲撃する場面は、世界を覆う排外主義を想起させた。経済の停滞と将来への不安が、同調圧力を強め、地域を分断していく。故郷である北関東の荒涼とした風景を生かし、オリジナル作品を世に問うた入江の叫びが伝わってきた。

家族の対立劇の背後に現代社会の不毛を感じさせたのが、三島有紀子監督『幼な子われらに生まれ』だ。

共に子をもつ再婚同士の夫婦(浅野忠信、田中麗奈)の物語。2人は新しい命を授かるが、妻の連れ子である長女は不安になり、ことあるごとに両親に反発する。会社より家庭を優先してきた夫は、長女に反抗されたことで、追い詰められていく。家族と喜びを分かちあえない妻の孤独は募る。

中間管理職のリストラ、共働き夫婦のすれ違い、離婚後の親子の面会の難しさ……。家族のありようの多様化に対応して、社会の制度は変わってきたはずなのに、人間の意識はそう簡単に変われない。現実はもっと複雑だ。原作は21年前に書かれた重松清の小説だが、三島と脚本の荒井晴彦は時代の変化を取り込み、現代日本の光景を見事に浮かび上がらせた。

一方、不寛容な現代人のこわばりを、スラップスティックとして徹底的に笑いのめしたのが、今年で86歳となった山田洋次監督の『家族はつらいよ2』である。

運転免許の返上を勧める子供たちの態度に激怒した70代の親父(橋爪功)が、事業に失敗し家庭も失った独り暮らしの旧友に出会う物語。無縁社会という深刻な主題でありながら、時にお節介で時に身勝手な家族のてんやわんやがおかしい。それでいて、しんみりとした切実感があるのは、無縁社会の悲劇がひとごとではないからだ。

以上4作品はいずれも家族劇。主題、方法、作風はそれぞれ違うが、様々な困難に直面する家族のドラマが、図らずも今日の不寛容社会を映し出す鏡となっていた。

戦後日本の矛盾、外から見つめる

廣木隆一監督『彼女の人生は間違いじゃない』、白石和彌監督『牝猫たち』は共に夜の女を描きながら、日本社会の諸相をリアルに映し出した。福島県出身の廣木は東日本大震災が被災地に残した傷が癒えていないこと、その喪失体験が今を生きる日本人の誰にも起こりうることを痛切に伝えた。白石は少子高齢化が進み、経済格差が広がり、社会が分断されていく日本の現実を、ロマンポルノの形式で鮮やかに描いてみせた。

全編をタイとラオスで撮った富田克也監督『バンコクナイツ』、同じく全編を奄美で撮った越川道夫監督『海辺の生と死』には、それぞれの土地から匂い立つような生々しさがあった。両作品とも少数のスタッフ・キャストで乗り込み、素人俳優を含む現地の人々と共に作るという方法論が、映画の力となっていた。さらに様々な矛盾に満ちた戦後日本のありようを、日本の外側、あるいは日本の周縁から冷徹に見つめ、鋭く撃ち抜こうとする意志があった。

板尾創路『火花』、石川慶『愚行録』、瀬田なつき『PARKS パークス』は、いずれも新進監督の卓越した演出力に驚いた。79歳の大林宣彦監督が末期がんと闘いながら撮った『花筐/HANAGATAMI』はデカダンスと映像美に彩られながら、戦争体験者としての強い厭戦(えんせん)の思いがみなぎっていた。

黒沢清監督『散歩する侵略者』は人間の姿をした宇宙からの侵略者を描く前川知大の戯曲を、東西冷戦期のジャンル映画の形式を借りて編み直すというたくらみが刺激的だった。そのイメージが今日の世界情勢と響き合っていたことにも驚いた。是枝裕和監督『三度目の殺人』は謎解きのない法廷劇、河瀬直美監督『光』は視力を失った人を通した映画論で、ともに野心的な試み。北野武監督『アウトレイジ最終章』は抗争劇の完結編としての骨太さと緊張感を併せもち、北野健在を見せつけた。

アニメーションでは『夜は短し歩けよ乙女』『夜明け告げるルーのうた』の湯浅政明監督の奔放な想像力が印象に残った。ドキュメンタリーでは若手監督が東日本大震災と真摯に向き合った山田徹『新地町の漁師たち』、小森はるか『息の跡』に感銘を受けた。

『火花』や岸善幸監督『あゝ荒野』の菅田将暉、『彼らが本気で編むときは、』の生田斗真、『火花』『彼らが本気で編むときは、』『ビジランテ』の桐谷健太ら、若手俳優の好演が目立った。浅野忠信は『幼な子われらに生まれ』の父親役の繊細かつ大胆な演技で新境地を開いた。女優では『海辺の生と死』の満島ひかりの存在感に圧倒された。『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』の新人、石橋静河も印象に残った。

力強く、洗練されたフィリピン映画

外国映画では台頭するフィリピン映画の豊かさに目を見張った。世界の映画祭で称賛された力強い映画言語、洗練されたスタイル、そして揺れ動く社会と果敢に向き合う真摯な姿勢が胸に迫った。

ラヴ・ディアス監督『立ち去った女』は無実の罪で30年間獄中にあった女が、自分を陥れた男への復讐(ふくしゅう)を果たそうと旅する物語。長回しのワンシーン・ワンカットで3時間48分を見せきるのは、そこに圧倒的な映像美があり、人間存在の生々しさをとらえているからだ。映画表現の最先端を行きながら、フィリピン映画の伝統である社会を直視するまなざしの強さがあった。

ブリランテ・メンドーサ監督『ローサは密告された』は、マニラの貧困地区で小さな雑貨店を営む夫婦が、何者かの密告により麻薬の密売で逮捕される物語。警察の腐敗、密告の恐怖、絶望的な貧しさ。ドゥテルテ大統領の強権的な麻薬撲滅政策の裏で、虐げられ搾取される庶民の姿とわい雑な街の匂いを、あたかもドキュメンタリーのように生々しくとらえた。

権力におもねらず、人権の危機に警鐘を鳴らすという点では、香港の新進監督5人によるオムニバス『十年』も強烈だった。中国政府の支配力が強まり、言論や表現の自由が脅かされることに不安を抱く映画人たちが、10年後の香港社会を描いた。テロ対策を強化したい公安警察がメーデーの集会で狂言を仕組む、広東語しか話せないタクシー運転手が乗り場から締め出される、「地元産の卵」という表示が批判され、「ドラえもん」が禁書になる……。近未来フィクションの形式で、現在の香港の切実な危機感を描き出した。

極右が台頭するヨーロッパも危機感に覆われている。イタリアのジャンフランコ・ロージ監督『海は燃えている』、ベルギーのジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督『午後8時の訪問者』、フィンランドのアキ・カウリスマキ監督『希望のかなた』は、押し寄せる移民と高まる排外主義に揺れる欧州社会を直視し、希望を探った。英国のケン・ローチ監督『わたしは、ダニエル・ブレイク』は、格差の拡大と弱者の切り捨てに生々しく迫った。

同調を求める社会、少数者の苦悩

米国映画ではバリー・ジェンキンス監督『ムーンライト』、ケネス・ロナーガン監督『マンチェスター・バイ・ザ・シー』が印象深い。前者は南部の黒人社会でいじめられるゲイの少年の物語。後者は暗い過去をもつ中年男が北東部の白人社会で疎外されていく物語。どちらも同調圧力の強い社会からはみ出した人間の苦悩と希望を繊細に描いているが、背後にある米国社会の病も垣間見えた。

ささくれだった不寛容社会で成功へと突き進む女と、レールを外れてしまった男を描いたのがドイツのマーレン・アデ監督『ありがとう、トニ・エルドマン』と米国のトム・フォード監督『ノクターナル・アニマルズ』。共に斬新な映画言語を用いながら、現代社会への鋭い批判をしのばせていた。

アデ作品はビジネスエリートの娘と、異様な仮装を趣味とする父親という、水と油の父娘の対立をドタバタを交えて描き出した。ドライな笑いの奥に、過酷な競争社会を生き残ろうとする娘の心のこわばりが浮かび、父の温かみもじわりとにじんでくる。フォード作品は離婚後にアートビジネスで成功した女と、零落した小説家志望の男の物語。離婚から20年後に元夫から送られた悲劇的な事件をつづった小説を読み進めながら、元妻は見逃していた夫の誠意と自身の心の空洞に気づく。

クリストファー・ノーラン監督が70ミリフィルムで撮影した戦争映画『ダンケルク』のスペクタクル性、無声映画を思わせる道化師カップル、ドミニク・アベル&フィオナ・ゴードン監督の『ロスト・イン・パリ』の身体性、ミュージカル映画の伝統を現代によみがえらせたデイミアン・チャゼル監督『ラ・ラ・ランド』の高揚感。それぞれ映画の歴史が培ってきた表現の豊かさを思い起こさせた。

16年に世を去ったアンジェイ・ワイダ監督がスターリン主義時代のポーランドで迫害された抽象画家を描いた『残像』は、全体主義と闘い続けた巨匠の遺言ともいうべき迫力に満ちていた。名匠マーティン・スコセッシ監督が遠藤周作の小説を映画化した『沈黙/サイレンス』にも映画作家の執念を感じた。なぜ善き人が罪を犯すのか、人はどうやって罪をあがなうか。そんなスコセッシの主題は70年代の初期作品から一貫している。

フィリピンで撮った長谷井宏紀『ブランカとギター弾き』、リベリアと米国で撮った福永壮志『リベリアの白い血』は共に日本の新進監督による外国映画。自身の企画を実現するために、国境を越えて長編デビューした2人の冒険に拍手を送りたい。様々な制約に縛られた近年の日本映画にない、自由で力強いまなざしがあった。

17年の全国興行収入は2200億円前後となる見通し。『君の名は。』の特大ヒットで過去最高の2355億円を記録した16年には及ばないが、歴代でも上位の年間興行収入を達成しそうだ。「昨年の数字には届かないが、よい年だった」と千田諭・東宝副社長。

動画配信会社が台頭、野心的な企画も

興行収入124億円で邦洋通じて首位となった『美女と野獣』をはじめ、洋画が好調だった。久々に市場シェアで邦画と拮抗しそうだ。『ラ・ラ・ランド』も含め、映画らしい映画が当たった。

邦画はシリーズ最高の興行収入となった『名探偵コナン から紅の恋歌』の68億円を筆頭にアニメが強みを見せたが、実写作品に大ヒットが少なかった。実写の30億円超えは『銀魂』『君の膵臓をたべたい』の2本のみ。『ジョジョの奇妙な冒険』など漫画原作の大作の不入りが目立ち、乱作気味の少女漫画の実写化も一時の勢いがない。来年の邦画メジャーのラインアップにも野心作は少なく、企画力に陰りが見える。

製作資金を集めやすい原作ものが幅をきかせ、オリジナルの企画が実現しにくい。メジャー作品に限らず、独立系作品も同じ状況だ。昨今の日本映画の弱みである。

ネットフリックスやアマゾンなど動画配信会社が映画製作を積極化した。カンヌ国際映画祭のコンペにポン・ジュノ監督『オクジャ』など劇場で公開されないネットフリックスの2作品が選ばれ、議論を呼んだ。同映画祭は18年からフランスでの劇場公開を拒む作品をコンペに選ばないと発表した。

デジタル化の進展が「映画」の定義を揺るがしている。エジソンの発明以来の「フィルム」という映画の物質的な根拠が消えてしまった。とはいえ技術の進歩は不可逆的なものだ。近代芸術である映画の宿命でもある。急成長を遂げる動画配信各社は世界各国で野心的な企画に投資している。資金集めに苦労する映画作家にとって、救世主となる事例も増えてきた。

鈴木清順が世を去った。日活で「わけのわからない映画」と経営陣に非難されながら、自由で奇抜なプログラムピクチャーを撮り続け、解雇された後は妥協のない野心作を放った。撮影所衰退期から崩壊後にかけての映画作家のありようを示し、「映画の自由」を体現した人だった。クエンティン・タランティーノをはじめ現在の世界の第一線監督に強い影響を与えたのは、夢の工場であった撮影所の崩壊が世界共通の現象であり、その中で映画の可能性を夢見続けた監督だったからだろう。

(編集委員 古賀重樹)

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