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分断と排除、世界の実相を映す 2017年映画回顧

2017/12/27

荻上直子監督『彼らが本気で編むときは、』 (C) 2017「彼らが本気で編むときは、」製作委員会

誰もがピリピリとして、異質なものを許さない。地域で、職場で、家庭で、そして国家で、世界で、人々の分断が進む。同調圧力は逆に強まる。社会はますます不寛容になっていく――。そんな世界の姿は、2017年の秀作映画にもはっきりと映っていた。

■不寛容社会を描く家族劇

不寛容な社会が真っ先に排除しようとするのはマイノリティーだ。荻上直子監督『彼らが本気で編むときは、』は、育児放棄された少女トモの目から、転がり込んだ先の叔父(桐谷健太)宅に同居するトランスジェンダー、リンコ(生田斗真)の生き方を見つめる。

男の体で生まれたが心は女であるリンコは、孤独なトモに惜しみない愛を注ぎ、母性に目覚める。十代のころから性的少数者への偏見に耐え、自分の生き方を貫いてきたリンコだが、家庭をもち母親として子供を育てたいという願望をもったことで、さらなる困難に直面する。近所の人々の偏見、児童相談所の事務的な対応、トモの母親からの侮蔑……。

マイノリティーに対するこの国の不寛容がありありと映る。同時に、リンコとその理解者たちの力強い意志に一筋の光を感じた。

入江悠監督『ビジランテ』(C)2017「ビジランテ」製作委員会 

入江悠監督『ビジランテ』は疲弊した地方都市のしがらみと閉鎖性を、かつて暴力的な父親に支配された3兄弟の物語として描いた。

亡父の跡を継いで市議となった次男(鈴木浩介)、地回りのヤクザの配下で風俗店の店長を務める三男(桐谷健太)。そこに少年時代に家出したきり音信不通だった長男(大森南朋)が戻ってくる。市が誘致するアウトレットモールの建設予定地となっている父の土地の相続を長男が主張し、次男と三男は窮地に追い込まれる。

次男が率いる自警団(ビジランテ)の若者が、モール建設予定地に住む中国人労働者たちを襲撃する場面は、世界を覆う排外主義を想起させた。経済の停滞と将来への不安が、同調圧力を強め、地域を分断していく。故郷である北関東の荒涼とした風景を生かし、オリジナル作品を世に問うた入江の叫びが伝わってきた。

三島有紀子監督『幼な子われらに生まれ』 (C)2016「幼な子われらに生まれ」製作委員会

家族の対立劇の背後に現代社会の不毛を感じさせたのが、三島有紀子監督『幼な子われらに生まれ』だ。

共に子をもつ再婚同士の夫婦(浅野忠信、田中麗奈)の物語。2人は新しい命を授かるが、妻の連れ子である長女は不安になり、ことあるごとに両親に反発する。会社より家庭を優先してきた夫は、長女に反抗されたことで、追い詰められていく。家族と喜びを分かちあえない妻の孤独は募る。

中間管理職のリストラ、共働き夫婦のすれ違い、離婚後の親子の面会の難しさ……。家族のありようの多様化に対応して、社会の制度は変わってきたはずなのに、人間の意識はそう簡単に変われない。現実はもっと複雑だ。原作は21年前に書かれた重松清の小説だが、三島と脚本の荒井晴彦は時代の変化を取り込み、現代日本の光景を見事に浮かび上がらせた。

山田洋次監督『家族はつらいよ2』 (c)2017「家族はつらいよ2」製作委員会

一方、不寛容な現代人のこわばりを、スラップスティックとして徹底的に笑いのめしたのが、今年で86歳となった山田洋次監督の『家族はつらいよ2』である。

運転免許の返上を勧める子供たちの態度に激怒した70代の親父(橋爪功)が、事業に失敗し家庭も失った独り暮らしの旧友に出会う物語。無縁社会という深刻な主題でありながら、時にお節介で時に身勝手な家族のてんやわんやがおかしい。それでいて、しんみりとした切実感があるのは、無縁社会の悲劇がひとごとではないからだ。

以上4作品はいずれも家族劇。主題、方法、作風はそれぞれ違うが、様々な困難に直面する家族のドラマが、図らずも今日の不寛容社会を映し出す鏡となっていた。

■戦後日本の矛盾、外から見つめる

廣木隆一監督『彼女の人生は間違いじゃない』

廣木隆一監督『彼女の人生は間違いじゃない』、白石和彌監督『牝猫たち』は共に夜の女を描きながら、日本社会の諸相をリアルに映し出した。福島県出身の廣木は東日本大震災が被災地に残した傷が癒えていないこと、その喪失体験が今を生きる日本人の誰にも起こりうることを痛切に伝えた。白石は少子高齢化が進み、経済格差が広がり、社会が分断されていく日本の現実を、ロマンポルノの形式で鮮やかに描いてみせた。

富田克也監督『バンコクナイツ』 (C)Bangkok Nites Partners 2016

全編をタイとラオスで撮った富田克也監督『バンコクナイツ』、同じく全編を奄美で撮った越川道夫監督『海辺の生と死』には、それぞれの土地から匂い立つような生々しさがあった。両作品とも少数のスタッフ・キャストで乗り込み、素人俳優を含む現地の人々と共に作るという方法論が、映画の力となっていた。さらに様々な矛盾に満ちた戦後日本のありようを、日本の外側、あるいは日本の周縁から冷徹に見つめ、鋭く撃ち抜こうとする意志があった。

越川道夫監督『海辺の生と死』 (C)2017 島尾ミホ / 島尾敏雄 / 株式会社ユマニテ

板尾創路『火花』、石川慶『愚行録』、瀬田なつき『PARKS パークス』は、いずれも新進監督の卓越した演出力に驚いた。79歳の大林宣彦監督が末期がんと闘いながら撮った『花筐/HANAGATAMI』はデカダンスと映像美に彩られながら、戦争体験者としての強い厭戦(えんせん)の思いがみなぎっていた。

黒沢清監督『散歩する侵略者』は人間の姿をした宇宙からの侵略者を描く前川知大の戯曲を、東西冷戦期のジャンル映画の形式を借りて編み直すというたくらみが刺激的だった。そのイメージが今日の世界情勢と響き合っていたことにも驚いた。是枝裕和監督『三度目の殺人』は謎解きのない法廷劇、河瀬直美監督『光』は視力を失った人を通した映画論で、ともに野心的な試み。北野武監督『アウトレイジ最終章』は抗争劇の完結編としての骨太さと緊張感を併せもち、北野健在を見せつけた。

アニメーションでは『夜は短し歩けよ乙女』『夜明け告げるルーのうた』の湯浅政明監督の奔放な想像力が印象に残った。ドキュメンタリーでは若手監督が東日本大震災と真摯に向き合った山田徹『新地町の漁師たち』、小森はるか『息の跡』に感銘を受けた。

『火花』や岸善幸監督『あゝ荒野』の菅田将暉、『彼らが本気で編むときは、』の生田斗真、『火花』『彼らが本気で編むときは、』『ビジランテ』の桐谷健太ら、若手俳優の好演が目立った。浅野忠信は『幼な子われらに生まれ』の父親役の繊細かつ大胆な演技で新境地を開いた。女優では『海辺の生と死』の満島ひかりの存在感に圧倒された。『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』の新人、石橋静河も印象に残った。

■力強く、洗練されたフィリピン映画

ラヴ・ディアス監督『立ち去った女』

外国映画では台頭するフィリピン映画の豊かさに目を見張った。世界の映画祭で称賛された力強い映画言語、洗練されたスタイル、そして揺れ動く社会と果敢に向き合う真摯な姿勢が胸に迫った。

ラヴ・ディアス監督『立ち去った女』は無実の罪で30年間獄中にあった女が、自分を陥れた男への復讐(ふくしゅう)を果たそうと旅する物語。長回しのワンシーン・ワンカットで3時間48分を見せきるのは、そこに圧倒的な映像美があり、人間存在の生々しさをとらえているからだ。映画表現の最先端を行きながら、フィリピン映画の伝統である社会を直視するまなざしの強さがあった。

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