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第二の人生、シチリアでワインと生きる 駐在員の挑戦

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NIKKEI STYLE

2010年夏、シャープの太陽電池事業のためにイタリア南部のシチリア島に赴任した西川恵章さん(66歳)は、そこでふとしたきっかけから同地のワイン畑を購入することになった。ここから定年後も見すえた西川さんの新しい挑戦が始まる。

真っ青な空が頭上に広がり、まばゆいばかりの陽光が大地を照らすシチリアの夏。西川さんは、ある週末、住まいから車で1時間ほどの島東北部のエトナ山北麓の町ランダッツォの青空市場を夫人と歩いていた。

活火山として知られるエトナのこの周辺はワイン造りで知られる地域だが、ふと目に入ったのが市場を開催している広場に隣接するワイン販売店だった。

「ちょっと、飲んでいこうか」

そうやってなんということもなく入った店が、彼の人生を大きく変えた。

ワイン販売店にはテーブル代わりのワインたるが置かれ、何種類ものワインをグラスで飲むことができた。あるワインを飲んだとき、「これはおいしい」と西川さんは思わず声を上げた。赤ワインの代表的な品種の一つであるピノ・ノワールのような華やかな香りと味わいを持つシチリアの地ブドウ、ネレッロ・マスカレーゼを使ったワインだった。

西川さんは、様々な品種をブレンドしたものではなく、「ブドウの本当の良さがストレートに出ると感じる」単一品種のワインが好きだったが、そのワインはこれまで飲んできた同品種のブドウに比べ特に味わいが優れ、その良さがよく表れているように思えたのだ。

「ここの畑、今売りに出ているんですよ」とイタリア人の店主が声をかけた。ほんの軽い世間話のつもりだったのだろうが、西川さんの心は大きく動く。

売りに出ていたワイン畑は、エトナ山の北側斜面にあるパッソピッシャーロという標高約700メートルの村の近く。火山灰性の灰色の土をした1ヘクタールの小さな畑だった。

近くには、村の名前を冠した有名ワイナリーもある。西川さんは、日頃から「良いワインを造るのは、土地の力がすべて」と信じていたと言い、「良いワインを造る畑に出合えた」と、これを買うことを即決した。2013年7月、西川さんが62歳のときのことだ。

ワイナリーは、「テラ デッレ ジネストレ」と名付けた。イタリア語でテラは大地、ジネストレはエニシダ。畑の近くの大自然でたくましく育つエニシダのように繁栄していきたいという思いから付けた名前だという。

実は西川さんは2010年、イタリアに赴任したころから漠然と「そのうちワイナリーを経営してみたい」と思っていたという。「でも、もともとは、ワインに限らず単にお酒が好きだったんです」と笑う。ただ、スペイン、米国などワイン造りで知られる国々へ赴任するうち、次第にこの酒に魅了されていった。

「例えば、カリフォルニア州南部のサンディエゴに住んでいたときは、近くにテメキュラバレーというワインの名産地があって、週末を手軽に楽しく過ごそうと思ったら、ワイナリー巡りがうってつけだったんです。テメキュラにはゴルフ用品で有名なキャロウェイゴルフの創業者がかつてオーナーだったワイナリーなどもあって面白かった。少し足を伸ばして、車でメキシコのワイナリーなどにも行きました。日本ではあまり知られていませんが、いいワインがあるんですよ」と楽しそうに思い出を語る。

ワイン畑のオーナーになったものの、西川さんに農業やワイン造りの経験はなかった。そこでまず、相談したのは「アグロノモ」(農学士の意味)と呼ばれる現地のブドウ栽培家だった。栽培のコンサルタントである。

アグロノモは、「エノロゴ」と呼ばれる醸造家をはじめ農作業を手伝ってくれる農家の人たちや、西川さんのように醸造設備や貯蔵施設がない畑オーナーのために、そうした設備や施設を貸してくれるところを紹介してくれるのだという。

「ブドウの木は2月になると、質の高い果実を得るために剪定(せんてい)をしなくてはなりません。農家の人は『私たちにもできる』と言うのだけど、剪定専門の職人さんがいて、アグロノモから剪定は専門家に任せなくちゃいけないとアドバイスをもらいました」(西川さん)。

様々な人々の力を借り完成したテラ デッレ ジネストレのワインの初リリースは2017年の秋。畑を購入した2013年に出来たブドウは自分たちで育てたものではなかったので果実を売り払ってしまったため、2014年11月に収穫したブドウから造ったワインが初リリースとなったからだ。

「テラ デッレ ジネストレのワインはステンレスのタンクで醸し発酵が終わった後、たるに入れて1年半ぐらい寝かせます。たるごとに個性が異なるので、最終的にはこれらを混ぜてタンクに戻して10カ月置く。ワインは2カ月に1度ぐらい試飲してみるのですが、タンクで寝かせているワインが落ち着くまで最終的にどんなワインになるかは分かりません。『ああ、おいしいワインになった』と思えたのは、つい最近です」と西川さんはほっとした顔をする。

畑を買ってから4年という年月を経てようやく完成したワインに、「あのときワイン屋で飲んだワインは、このようにできたのか」と感慨深かったという。

ワインは「エトナ・ロッソ ジュン」と名付けた。「ジュン」には夫人である純子さんの名前に加え、100%ネレッロ・マスカレーゼを使った「純粋な」ワインであるという意味を込めている。

2017年8月には、シチリアで日本人がオーナーとなった初のワイナリーとしてイタリアの全国紙『ラ・レプブリカ」にも取り上げられたが、「最初は、造ったワインを売るなんてつもりはなかったんです。でも、わずか1ヘクタールとはいえ、約6トンの収穫があって750ミリリットルのボトルで5000本ほどのワインができる。売らなくちゃしょうがなくなって」と西川さん。

そこで、まずはエトナ山麓のワインバーを借りお披露目会をした。その会に現れたのが、ワインバーの店主の知り合いだったソムリエのルカ・ガルディーニさん。2010年のソムリエ世界大会(ワールドワイド・ソムリエ・アソシエーション主催)の優勝者だ。

ガルディーニさんは、「エトナ・ロッソ ジュン」を「ラベンダーとゼラニュームの自然の香り、カシスのようなほろ苦さと調和した甘いさくらんぼの香りのあるワイン」などと高く評価した。そのときの西川さんの誇らしい顔が思い浮かぶようだ。

2017年秋には日本でも数々の試飲会を開催。会場の一つ、東京・白金台のイタリアンレストラン「ラ ソスタ」のソムリエ、永瀬喜洋さんは「試飲してみてください」と西川さんが同レストランに最初にワインを持ち込んだとき、実は全く期待していなかったと明かす。

「ワインの産地として知られるイタリアのトスカーナで、引退後ワイン造りをしている日本人の方もいるのですが、正直あまり高いレベルのワインではない。ところが、エトナ・ロッソ ジュンを飲んでみるとエレガントで、いわゆる『レストラン』で飲むクラスのワインだと感じました」と言う。そして、「まだ新しいワイナリーなので今後どのようになっていくかは分かりませんが」としながら「日本人として応援したい」と結んだ。

「エトナ・ロッソ ジュン」をどんな料理と合わせるのがよいのかを西川さんに聞くと、「パンの上にカラスミをのせたブルスケッタ(イタリアの前菜の一種)をつまみにしたときは良く合うなあと思いました。あと、イカスミのパスタとも合うんですよ。イカスミのパスタは生臭いところがあって普通赤ワインは合いづらいんですが、これがいいんですよね」。

一方、夫人の純子さんは、「ドライトマトのオイル漬けが鉄板ですね。あと、私は野菜が好きなので、イタリアの野菜煮込み、カポナータと合わせるのも好きです。『ノルマ』と呼ばれるトマトと揚げナスのスパゲティとも合うんですよ」と薦める。ワインを試飲してもらった東京の割烹では、和食にも合うと好評価をもらったそうだ。

「ワインを造っていると、愛着が出てきて、みんなにこれを大切にしてほしいと思う。長年モノ作りの会社に勤めてきましたが、その心は一緒ですね」と西川さんは言う。実は西川さんは、畑を取得してから無農薬・無化学肥料でブドウを育てており、2020年にリリースされる2017年物からはEUの認証を取得した「ビオワイン」となる。東京五輪・パラリンピックの年までにどんなワインに熟成していくのか。西川さんのワイン造りの旅はまだ始まったばかりだ。

(フリーライター メレンダ千春)

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