ナショジオ

ニュース

世界最大級の岩絵 ドローンとハイテクカメラで鮮明に

日経ナショナル ジオグラフィック社

2018/1/8

ナショナルジオグラフィック日本版

アチュレス急流に近い陸地、セーロ・ピンタードにある巨大な岩絵の空撮写真。岩絵の部分を灰色で強調している。(PHOTOGRAPH BY DR PHILIP RIRIS)

 「先住民の神話では、この急流は太陽神の住まいとされています」。英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの考古学者フィリップ・リリス氏は語る。「別の神話では、(全ての動物と植物を生んだ)世界樹が倒れたとき、その樹冠がオリノコ川に落ち、急流を作ったとされます」

 リリス氏が言う「急流」とは、南米ベネズエラの西部を流れるオリノコ川の「アチュレス急流」のこと。この川の、ボートではそれ以上進めないという地点に5つの島があり、そこに岩絵が描かれている。規模も内容の具体性も、世界屈指の岩絵だ。

 この一帯は現在も様々な活動の要衝となっているが、2000年前も同様だったと考古学者たちは考えている。岩絵に関するリリス氏の研究は、学術誌「Antiquity」にこのほど発表された。その中でリリス氏は、この急流が「民族、言語、文化が集まる場所」だったと指摘している。

 岩絵には、多様なモチーフがよく似た様式で彫られている。考古学者たちは、かつてここがにぎやかな中心地であり、さまざまな集団が多く行き交っていたと推測する。今回、リリス氏らユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの考古学者チームは、これまでで最も詳細かつ大規模な岩絵の目録を作り上げた。チームは今回の記録を使い、この地にヨーロッパ人がやって来る前の多様な文化をより大局的にとらえたいと考えている。

■ハイテクカメラが不可欠

 岩絵の画像データを集めるため、リリス氏は写真測量カメラを取り付けたドローンを使った。写真から被写体を3次元で描画できるハイテクカメラだ。

 ドローンが最適のツールだったとリリス氏は話す。彫刻の中には途方もない大きさのものがあり、地上から見渡すのは難しいからだ。「未調査だったある場所では、それが巨大な彫刻の一部だと気付かずに、クリーニング作業をしていたことがありました」とリリス氏。

 わかっている中で最大の絵は、角のあるヘビだ。端から端まで約30メートルある。絵がたくさん描き込まれた別の区画はおよそ300平方メートル強。調査の結果、この区画には少なくとも93個の彫刻があり、幅が数メートルの物もあった。

 リリス氏によると、人間と動物の描写は、アチュレス急流でよく見つかるモチーフだという。

アチュレス急流の島の1つ、ピキュレの東区画を真上から撮った写真。主要な彫刻に画像上で黒く強調している。画像の下側が北。(PHOTOGRAPH BY DR PHILIP RIRIS)

 多く見られる彫刻の1つに、人々に囲まれるフルート奏者のような場面がある。季節の移り変わりがテーマになっているのかもしれない。この地域では雨期に入る前、オリノコ川の水かさが減り、岩絵の一部が露出する。おかげでその間は考古学者が調査しやすくなるが、数千年前はこうして岩絵が露出することが、儀式を行ううえで大きな意味があったかもしれない。

 もう1つ頻繁に描かれているのが、向かい合った2つの渦巻きだ。考古学者の間では「Cスクロール」と呼ばれている。この図柄は、北はカリブ海地域から南は中央アマゾンまでの広い範囲で記録されている。

 これまでの研究では、こうした渦巻きは男性の力と生殖力を表すと考えられてきた。だが、ベネズエラで描かれたものについて正確な意味を確定するのは難しいとリリス氏は話す。地域が異なれば、同じシンボルでも意味が違うことはよくあるからだ。

 それぞれのモチーフや彫刻がどの部族によって作られたのか知るには、さらなる研究が必要だろうとリリス氏は言う。しかし、いつかは知見をまとめ、ヨーロッパ人到来以前のこの地の生活について全体像を示したいと考えている。(参考記事:「カザフスタンに謎の地上絵、NASAが撮影」

(文 Sarah Gibbens、訳 高野夏美、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2017年12月11日付]

ナショジオ新着記事

ALL CHANNEL