日経ナショナル ジオグラフィック社

2018/1/16

NK細胞は、がん細胞が産生されたり体内にウイルスが侵入したときに免役システムの中で最初に対応する非常に重要な免疫細胞である。そのため、昼行性動物のNK細胞活性にはけがなどにより感染するリスクが高い日中にその活性が高まり、逆に休息する夜間には低くなるという日内リズムがある。

ところが生物である限り、時には夜を徹して活発に動き回り、獲物を追う、外敵から身を守るなどしなくてはならないこともある。そのような時には生体を守る最前線部隊であるNK細胞は夜間だからといって休んではいられないのだろう。

不幸にして感染した場合には

さて、ここまでは睡眠不足が感染防御に与える影響について解説したが、不幸にして感染してしまった場合には逆に免疫システムが睡眠不足を抱えている当人に「おきゅうを据える」ことが分かっている。

風邪を引くととても眠くなる経験をしたことがないだろうか。細菌などに感染すると睡眠不足に慣れっこな人でも抗しがたい強い眠気が生じる。免疫細胞が出すサイトカインと呼ばれるホルモンの一種が、この眠気の出現に一役買っている。

「お前も私(免疫システム)もよく頑張った。しかし結果的に負けて(感染して)しまった。ここは開き直って休め!」と休業命令が出されるのである。そして十分に眠ることによって免疫細胞の機能を十分に引き出すことができる。

このコラムでは何度も書いていることだが、睡眠不足を続けていれば短期的には大きな問題を生じなくても、中長期的には必ず体やこころを壊してしまう。睡眠不足に強いと思っている人、言い換えれば眠気やだるさなどの自覚症状が乏しい人はむしろ将来的に体調を崩すハイリスク群と言える。なぜなら自覚症状がなくても代謝や脳機能など心身には確実にダメージが生じており、危機感がない分だけ睡眠習慣を改善するチャンスを逃すからである。

そのようなハイリスク群の一人である私に、睡眠の神様が「気づきやすい」自覚症状として風邪をプレゼントしてくれたのだと思うことにしている。とはいえ、あまり有り難くないプレゼントではあるので、溜まっている仕事が気になりつつも、今夜は開き直って早めに寝よう。

三島和夫
1963年、秋田県生まれ。医学博士。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所精神生理研究部部長。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事、日本生物学的精神医学会評議員、JAXAの宇宙医学研究シナリオワーキンググループ委員なども務めている。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、日経BP社)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。

(日経ナショナル ジオグラフィック社)

[Webナショジオ 2017年12月14日付の記事を再構成]

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