ミレニアル世代は民泊好き 次の訪日客、規制で逃すな東洋大・矢ケ崎紀子准教授に聞く、自治体のインバウンド戦略

――一方で家主不在の民泊は住宅地で1、2月に営業を限定する方針です。国の定める営業上限180日間の3分の1で、かなり厳しい印象を受けます。

「人気の高い清水寺や花見小路などは観光客であふれかえって危険な状態です。バスの停留所も本当に人が(道路に)落ちそうなくらいです。そういう状況で民泊(の宿泊客)を上乗せするのはまずい。だから家主不在型は観光の閑散期の1、2月に絞りました。今後、京都市内で観光客が分散していけば、不在型の民泊をどうするか改めて考えればいい。実際、京都市のルールは3年後に見直すことにしています」

――多くの自治体は住宅地の民泊を厳しく規制する一方、ホテルなど旅館業の営業が認められている地域では民泊についても特段の制限をしない方針です。しかし京都市は住宅地以外で、問題が起きたときに10分以内で駆けつけなければならないといったルールを設けようとしています。

「京都市は土地の用途が入り組んでいて、ここから先は住居地域というようにビシッと分かれていません。だから住居地域以外でも何らかのルールが必要ではないか。特に問題なのは家主が市外に住んでいるケースと考え、駆けつけ義務を課すことにしました。これは利用者の保護にもつながります。トラブルがあっても(家主の)電話が通じないとか、メールしか連絡手段がなくて我慢しなければならないといったことが実際に起きているからです」

インバウンドで重要なのはオリパラ後

――京都市のルール作りに携わった経験を踏まえて、ほかの自治体へのアドバイスはありますか。

「民泊だけみて判断しようとすると、すごく狭い議論になってしまいます。まず宿泊という機能を自分の町でどう位置づけるかというビジョンが必要です。民泊にもいろいろあって、一律に駄目と決めつけてしまうと、本当に受け入れたいと思っていたお客さんまで逃してしまいます。もっとも、うちに観光は要らないと決めた地域には民泊は必要ないのかもしれませんが」

次の観光のターゲットであるミレニアル世代をどうひき付けるかが重要と説く矢ケ崎氏

――観光のためでなく、住民の国際交流を深める手段という位置づけはあり得ませんか。

「あるでしょうね。その理屈をビジョンからきちっと通していけるなら、違った世界が見えるかもしれません。民泊の位置づけも変わって、まわりの住民の理解も得やすいでしょう」

――ほかにはどんなアドバイスがありますか。

「(1980年代以降に生まれて2000年代に社会に出てきた)ミレニアル世代の意見をきちんと聞くべきです。民泊は世界のミレニアル世代が支持しています。人と触れ合いたい、生活に入り込みたいという人は、ホテルや旅館では駄目なんです。自治体は彼らの考えが分からないのであれば、代弁できる人を有識者委員会などに加えるべきです。将来の観光のターゲットとなるミレニアル世代を、もっと大事にしなければなりません」

「私は50歳代前半ですが、(准教授を務めている東洋大・国際観光学部の)学生たちと話していると、世代間で考え方がまったく違うことに気づかされます。金沢に行くにも民泊を利用したという学生がたくさんいるのです。帰ってきてからどうだったか聞くと、『家主さんがいなくて部屋だけだったので、ちょっとつまらなかった。まあ安かったからいいけど』なんて言う。好奇心が旺盛な彼らと民泊は、とても相性がいいと思います」

――東京都区部の多くは民泊を厳しく制限しようとしています。これで20年の東京五輪・パラリンピックを迎えられますか。

「五輪・パラリンピックはもちろん重要ですが、その後がもっと重要です。実は12年のロンドン大会では、外国人旅行者の数が11年の同じ時期より減りました。ホテルが高い、飛行機の座席がとれないといった理由で回避した人がたくさんいたのです。一方で企業の接待需要でロンドンを訪れた人は多かったはずで、大会の終了後は(そんな異常な状態を)早く一般の観光客に戻さなければなりません。そこで英国政府は観光プロモーションの予算を五輪の前と中と後で2対2対6に配分し、五輪後に『Memories are GREAT』(思い出は素晴らしい)というキャンペーンを集中的に打ちました。『宿も飛行機もとれるようになったよ、だから五輪の記憶が残っている英国においで』というわけです」

「日本の民泊はまだ入り口にさしかかったばかりです。一度ルールを作って終わりではなく、何が起きるのかを見たうえで、見直すべきところは見直していく。それが3つ目のアドバイスです。そもそもマーケットの動きが速い観光において、絶対の解はありません。東京五輪・パラリンピックの後、どうすればミレニアル世代に日本に来てもらえるか。そう戦略的に考えれば、新しい道が見つかるのではないでしょうか」

(聞き手はオリパラ編集長 高橋圭介)

矢ケ崎紀子
1987年国際基督教大教養卒、住友銀行(現三井住友銀行)入行。2006年九大院法学修士。日本総合研究所や観光庁(観光経済担当参事官)、首都大学東京都市環境学部特任准教授などを経て、14年より東洋大学国際観光学部国際観光学科(17年4月に国際地域学部国際観光学科から改組)准教授。専門分野は、観光政策論および観光行政論。「京都市にふさわしい民泊の在り方検討会議」の委員として同市の民泊ルール作りに携わった。

京都市の民泊ルール案について知りたい方はこちら(「家主同居は○、空き家は× 民泊規制で京都市が新機軸」)もご覧ください。